テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第35回目は「こども家庭庁」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【こども家庭庁】
こどもかていちょう▶2023年4月1日に発足した子ども政策に取り組む国の新しい組織。子どもに関する政策を社会の真ん中に据える「こどもまんなか社会」の実現に向けて、別々の省庁で担われてきた子ども関連の政策を一本化し、司令塔となる。子どもや若者、子育て当事者の視点に立ち包括的な支援体制を構築する。
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2023年1月
岸田首相が国会で「次元の異なる少子化対策を実現したい」と表明
施政方針演説にて、岸田首相は「こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と訴え、従来とは次元の異なる少子化対策の重要性を明言
2023年2月
2022年の出生数が前年比5.1%減少。統計開始以来初めて80万人を下回る
厚生労働省は、2022年の出生数が速報値で79万9728人と発表。80万人を割ったのは1899年以来初めてで、国の予想より11年早い。出生数は7年連続で過去最低を更新した
2023年4月
こどもまんなか社会の実現に向けて、司令塔となるこども家庭庁が発足
内閣府の外局として、長官官房(企画立案・総合調整部門)、成育局、支援局に分かれて子ども政策を担当。庁の発足と同時に子どもの権利を守る「こども基本法」も施行
バイラ読者にアンケート
(回答数110名 2023年2月24日〜27日に実施)
Q 2023年4月にこども家庭庁ができることを知っていますか?
こども家庭庁の発足前にアンケートを実施したこともあってか、認知度は約半数。回答者のうち子どもがいる人は約3割。こども家庭庁への関心は高く、「何をするのか」「発足後に何か変わるのか」など、詳しく知りたいとの声が多く寄せられた
大江ʼs eyes
深刻な少子化に国が危機感を持ち、子どもを中心に据える社会になるため、子どもに関する政策の司令塔としてこども家庭庁が発足しました。日本の社会をつくり変えるという点で「次元の異なる少子化対策」といわれていることもあり、この危機感は国民全員が共有しなければならないと思います
Q 少子化対策に不満を感じたことがありますか?
不満を感じたことがある人が約6割。「待機児童問題を解消してほしい」「居住地によって子育て支援に格差がある」「教育費の負担軽減策を求める」「働き方改革」「貧困や未婚率の高さへの対策も必要」「まず社会全体の意識を変えることから」などの多くの声が
大江ʼs eyes
皆さん、問題意識が具体的で不満が多岐にわたっていて、この現状を今変えないと、もうこの国は子どもが増えなくなってしまうのではと思います。こども家庭庁は子育て世帯だけでなく、結婚やライフプランニングから対策を考えていくことになるので、この不満を網羅的に担当すべきですね
Q 勤め先が、子育てをしながら働きやすい職場だと思いますか?
回答が二分する結果に。「はい」と答えた人からは「育休や看護休暇を取ることへの周りの理解がある」「男性も育休取得率が高い」「社内に育児中の人が多い」、「いいえ」と答えた人からは「人手不足で休みにくい」「育休中の人員の補充がない」など対照的な声が
大江ʼs eyes
職場によって相当差があるようですね。人員的にゆとりのある職場が理想ですが、すべての職場で成立するかというと難しく、育児との両立が困難な状況や子どもがいない特定の人にしわ寄せがいきすぎてしまうことが社会問題になっています。理想から遠い職場も多いことが結果に出ています
Q 働きながら子育てをすることに不安や心配を感じますか?
約3分の2の人が「不安や心配を感じる」と回答。子育て中の人からは「仕事でも育児でも求められすぎてアウトプットが追いつかない」「子どもと向き合う時間が少ない」、子どもがいない人からは「両立が大変そうで子育てをする勇気や覚悟が持てない」との声が
大江ʼs eyes
求められるほどは出力ができないといったジレンマを抱えながら生活している子育て中の方の声に、そういったときに相談できる場や負担を軽減できる外部委託サービスなどを早急につくらなくてはいけないと感じます。子育てをする当事者に多くを背負わせすぎているという問題があるように思います
「こども家庭庁が子ども政策の司令塔に。結婚から子の成長までを包括的に支援する」
「2022年の出生数が国の予想よりも大幅に早く、初めて80万人を下回りました。急速に少子化が進むなか、日本の経済的な成長がなかなか伸びない根本的な原因のひとつが少子高齢化です。岸田政権は、これまでの少子化対策とは次元の異なる、子ども政策を中心に据えた国づくりをしなければいけないと危機感をあらわにしています。そこでこども家庭庁を創設し、子どもを真ん中に据える社会にしていこうとしているのが現状です。国のあり方や国家観をも変えるような政策かもしれないということもあり取り上げました」と大江さん。こども家庭庁はどんな役割を担うのですか。
「子ども関連の政策をあらゆる政策の中心、つまり社会の基礎に据えていくための『司令塔』です。縦割り行政で物事が進まない事態を防ぐため、内閣総理大臣直轄の組織として、他省庁の仕事が充分でないときは勧告をすることができる強い立場です」
その取り組みは、包括的で幅広い。
「子育て世帯だけへの支援の話ではなくて、若い人たちへの働きかけから始まるんです。コロナ禍以降に結婚する人が減ってしまったこともあり、まず出会いの場の提供などの結婚支援。そして妊娠の相談やサポート。妊娠後は、妊娠期から産後ケアまでを含んだ妊産婦さんの支援。出産後は子育てに関する経済的支援だけでなく相談支援の充実や待機児童の解消など子どもを預けて働ける環境の整備。教育をはじめ子どもの居場所をつくるといったすべての子どもが健やかに成長するためのサポートも進めます。親の世代が結婚をするところから、生まれた子どもが大人になるまで、世代をまたいで切れ目なくずっと支援をし続けるような体制をつくろうというイメージですね」
岸田首相は、こども家庭庁の下で取りまとめて、6月の骨太方針までに子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示すると表明。
「予算倍増という言葉が独り歩きをしている感もありますが、まずは政策の中身を具体的に示し、何にどのくらいお金が必要か精査する必要があります。政府の基本的な考えとして、子ども政策に使ったお金が将来世代、つまり子どもたちへのツケにならないよう、安定財源を確保したいようです。その議論も進めていく必要があります」
「こどもまんなか社会の実現に向かって、個々に応じた支援を自分発信で選んでいく」
アンケートでは、約3分の2の読者が「働きながらの子育てに不安を感じる」と回答。経済面や仕事との両立など、不安は多岐に。
「多くの方が不安を感じていて、お子さんがいる方からもいない方からも切実な声が寄せられました。一人ひとり理想とするライフプランや家庭像は異なりますから、どんな悩みに対しても個々に応じた解決策が必要です。その人に合わせてカスタムメイドできるような支援体制を構築できると理想的ですね。そしていちばん重要なのは、子育てをしやすい社会環境かどうか。子どもが減ってきているからかもしれませんが、子どもや子育てをしている人の存在がマイノリティになっていて、それが日本の最大の問題なのではないかと感じます」
約半数の読者が「勤め先が子育てをしながら働きやすい職場だと思わない」と回答。
「子育てとの両立が難しい職場で自分をすり減らしながら働くといった我慢をしなくていい社会になるといいですよね。子育て支援の充実を図り、働き方改革を推進している企業が少しずつ増えてきています。人材の流動化が進んでいくなかで近い将来、育児をしながら働きやすいかという観点で企業を選んで働く人が増えると社会が変わることにつながるのではと思います。
それは企業だけではなくて自治体にもいえることです。こども家庭庁は、自治体が行う地域の実情に応じた結婚や子育てに関する取り組みに期待をしていて、支援や協力をしていくようです。それにより、さらに地域の支援策に特色や差が出てくるかもしれません。そのなかで自分に合った支援のある地域を選んで移り住む人が出てくることでも社会が変わっていくと思います。移り住む人が増えると自治体としても自信を持って支援を進められますし、人口が増えることでその自治体の財政状況が安定し、産業も活性化して、経済が回るよいスパイラルが起こることが期待されます」
こどもまんなか社会の実現に向けて様々な解決策を選んでいけるといいと大江さん。「こども家庭庁でカバーする範囲が広くなりそうですので、子育てをしているしていないに限らず、『自分の悩みの解決策もあるのでは』という視点で支援策に注目するといいのではないでしょうか。我慢するのではなく、自分の希望を自分発信で選んでいくことができる国になるといいですね」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年6月号掲載