テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第36回目は「グローバルサウス」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【グローバルサウス】
ぐろーばるさうす▶明確な定義はないが、南半球を中心とした新興国・途上国の総称。「サウス」は北半球に多い先進国との対比から呼ばれる。人口がこれからも増加し、経済成長が期待される国が多い。政治や外交においてどの国にも加担せず一定の距離を保っている国が多く、世界の諸問題に対する動向が注目されている。
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2023年1月
「グローバルサウスの声サミット」をインドが開催。125カ国が参加
インド政府がオンラインにて開催。インドのモディ首相は、G20の議長国として気候変動、食料・エネルギー危機などに触れ「グローバルサウスの声を増幅させる」と表明
2023年1月
岸田首相が国会にて、グローバルサウスへの関与を強化すると表明
施政方針演説にて「世界が直面する諸課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウスに対する関与を強化する」と唱えた
2023年5月
日本が議長国を務めるG7サミット(主要7カ国首脳会議)が広島で開催
主要7カ国のほか、インドをはじめとする8カ国の首脳らが拡大会合に出席予定。気候変動対策などの課題の議論を通じて、グローバルサウスとの関係強化を図る方針
バイラ読者にアンケート
(回答数96名 2023年3月24日〜28日に実施)
Q 昨今の国際情勢に不安を感じることがありますか?
「不安を感じる」「どちらかというと不安を感じる」を合わせると8割以上。「ロシアとウクライナの戦争の始まり方を見て、日本も防衛を強化しなければと思った」「世界はつながっていて日本の周辺も心配」との声が
大江ʼs eyes
ロシアのウクライナ侵攻を機に「まさかという事態が起こってしまうんだ」と国際情勢に対する警戒感が高まったという声が多く寄せられました。日本の場合、ロシアや北朝鮮、台湾情勢など、お隣が主語となる話がたくさんあり、皆さんの不安感が引き続き高い状態であるということも感じます
Q グローバルサウスという言葉の意味を知っていますか?
意味を知っている人は2割弱。半数以上が「聞いたことはない」と回答。「この言葉は知らなかったがインドの台頭が気になる」「国連決議で棄権する国が多く、何を考えているかわからない印象がある」「日本が今後どう関わっていくべきか知りたい」という声も
大江ʼs eyes
急によく聞くようになり、定義があいまいななかで多用されているのがこの言葉の興味深いところです。南半球に多く、人口がこれからどんどん増えていきそうな経済成長の余地が大きい新興国や途上国を表しますが、それだけでなく国際情勢の潮目を変える第三勢力としても注視されています
Q グローバルサウスの存在感が国際経済の中で増していることを知っていますか?
グローバルサウスについて補足した上で聞いたところ、約3分の1が「はい」と回答。「最近インドの勢いを感じる」「経済のパワーバランスが以前と変わってきている」「G7より新興国のほうが活気がある」といった声も
大江ʼs eyes
グローバルサウスを代表する自負があるインドの2022年のGDPがイギリスを抜いたこともあって、皆さんその勢いを感じていらっしゃるようですね。先進国の人口が減っていくなかで、人口が急速に増えていく、経済成長ののびしろがあるという点で無視できない存在になっているのは自明です
Q 今後の日本とグローバルサウスの関係の発展が、日本や国際社会にとって重要だと思いますか?
「重要だと思う」「どちらかというと重要だと思う」を合わせると8割以上。理由には「人口増の国々との交易は大事だから」「おそらく先進国に対して不満を持っていて、今後ますます経済成長を遂げるから」などの声が
大江ʼs eyes
皆さんが肌感覚でこれから世界で台頭してくるであろう国々との関係性を重要だと思ってらっしゃるんだなと感じました。日本の人口減少のなかグローバルサウスに向けたビジネスが必要だという声や、グローバルサウスが先進国に対して不満を持っているとの指摘など、的確な意見が多くて驚きました
「南半球を中心とした、経済成長ののびしろが大きい新興国や途上国の存在感が増している」
「グローバルサウスは、去年の後半ぐらいから急に聞くことが増えてきた言葉です。アンケートでの認知度はまだ低めでしたが、これから使われる機会が増えて、経済面でも政治面でも国際情勢を語るときに無視できない存在になってくるであろうと思い、今回取り上げました」と大江さん。グローバルサウスとは、どこを指すのですか。
「実は、まだ定義があいまいな言葉なんです。『グローバルサウスはこの国です』とはっきり決まっているわけではないのですが、南半球に多く、人口が増加していて経済成長ののびしろが大きいとされる新興国や途上国の総称として使われています。ウクライナ侵攻のあと、いわゆる西側諸国といわれる民主主義の先進国と、ロシアと中国とでスタンスが大きく分かれています。グローバルサウスはその二つのどちらにも属さない第三勢力としても注目されています」
なぜ、存在感が増しているのですか。
「先進国ではすでに経済発展が成熟期を迎え、人口が爆発的に増加する見通しがもてません。その一方、グローバルサウスの国々では人口がどんどん増え続けていて経済成長のポテンシャルが高い。同時に課題も多く抱えているため、先進国側から見るとビジネスチャンスの宝庫でもあります。グローバルサウスの国々の課題解決が世界の平和や人類の安定につながる観点から考えても、先進国の開発した技術を生かして、その成長に協力できることが多くあるのです」
読者から「中立の国が多い印象」との声も。
「まさにそうです。今年2月の国連総会のロシアへの非難決議には141カ国が賛成、32カ国が棄権、7カ国が反対しました。棄権した国にグローバルサウスが多く含まれています。その背景には、どの国ともうまくやっていきたいというしたたかさや、非難決議に賛成したいが政治、経済的にロシアや中国との関係を悪化させたくないという思いを持っている国があるようです」
グローバルサウスの代表的な国は、世界一と見られる14億人を超える人口を抱え、経済発展が著しいインドであると大江さん。
「インドは、グローバルサウスの盟主であると自認していて、今年1月『グローバルサウスの声サミット』を開催。気候変動など、これまで先に発展してきた先進国に対して、そのつけを払わされていると不満を持つ途上国の声を取りまとめています」
「地球規模の問題を抱える今、先進国だけで物事を決められない。皆で協力連携が必要」
岸田首相は、今年1月の施政方針演説で、グローバルサウスへの関与を強めると表明。
「様々な地球規模の問題が起こっている今、先進国だけで物事を決められる状況ではなく、国際社会全体で一緒に考えて、議論することが必要な局面になっています。また、これから成長する国々と連携したい思いもあります。発展の過程で中国やロシア側と接近してしまうと西側諸国が脅かされるリスクもあるので、なるべく仲よくして自分たちの価値観に近い国になってほしいという思いもあるでしょう。そのためには、地道に協力関係を構築する必要があります。
たとえばインドを一例として説明すると、『クアッド』という日・米・豪・印の4カ国の枠組みをつくって連携を強化しています。枠組みをつくる際、非同盟・中立を掲げるインドが入りやすいように、『地域における平和と安全を維持するためのものだ』と定義しました。一方、インドはロシアから軍事兵器を輸入していてロシアとの軍事的な結びつきが強い国でもあります。一筋縄ではいかないなかで、お互いにWin-Winの関係になれるよう、外交面でもビジネス面でも地道な歩みを積み重ねる必要があります。IMF(国際通貨基金)によると日本とインドのGDPは’27年に逆転するといわれていますが、これから様々な課題を解決するために必要な技術革新では先進国に一日の長があり、特に課題先進国といわれる日本にできることは多そうです。情けは人のためならずと言いますが、回りまわって自分たちの平和と安定に資するという思いで、日本ならではの立ち位置を確立できるといいなと感じます」
グローバルサウスといっても、様々な国があり、抱えている問題や発展の度合いにはかなり差があると大江さん。
「そんな国々をひとまとめにするのはおかしいと、先日G7で、地域・同じ志・意思という区分をして、その『パートナー』と呼ぶようにしようということになりました。できたてホヤホヤで定義もあいまいなため、グローバルサウスという言葉は今後違うものになっていくかもしれません。第三勢力が台頭してきて、それを指す新たな言葉が生まれるという、歴史的な面白い場面を私たちは目撃しているのですね」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年7月号掲載