テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第39回目は「美容医療トラブル」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【美容医療トラブル】
びよういりょうとらぶる▶近年、より身近になりつつある美容医療。ヒアルロン酸注射や医療用レーザー、超音波などを使った顔のたるみやシミの治療、医療脱毛、審美歯科、脂肪吸引などその範囲は広く、次々と新施術が生まれている。一方、消費生活センターに寄せられる美容医療に関する相談件数が増加している。
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バイラ読者にアンケート
(回答数91名 2023年7月28日〜31日に実施)
Q 美容医療を受けた経験がありますか?
6割以上が経験あり。経験者に施術を受けた診療科目を聞いたところ、多い順から「美容皮膚科・内科」が約8割、「医療脱毛」が約7割、「審美歯科・審美目的の矯正」と「美容外科」が各約2割との結果に。美容医療にかけた総額は「50万円以上」が最多で約3割
大江ʼs eyes
最近は、美容医療の情報をSNSなどでも手軽に受け取りやすくなっていますし、身近に感じている方も多いのではないでしょうか。働く女性の場合、日常を快適に過ごす、日々のケアの時短につながるところにも魅力を感じて美容医療が選択肢に入り、利用する方が多いのかもしれませんね
Q クリニックを探す際に何を参考にしましたか?(複数回答あり)
1位 クリニックの公式ホームページ
2位 友人・知り合いからの情報
3位 美容医療のクチコミアプリ・サイト
4位 Instagram
5位 Google検索
「友人の体験談がクリニックの決め手に」「事前に調べ医師を指定し施術を受けた」などしっかり調べた声多数。受けた施術に「満足している」「どちらかといえば満足している」と回答した人は経験者の9割以上
大江ʼs eyes
友人・知り合いからの情報が、Instagramよりも多い点が興味深いと思いました。実際に施術を受けた人のリアルな情報に重きを置いている感じがします。バイラ読者には勉強熱心で探求心旺盛な方が多いと感じていて、施術を受ける前にも相当丁寧に下調べをなさったんじゃないかなと想像します
Q 美容医療で、気になることや不安を感じることがありますか?
約4分の3が「気になることがある・不安を感じている」と回答。「SNSなどで表に出ている情報は、成功例ばかりなのが怖い」「病院により技術力が異なると聞き不安」「後遺症のアフターケアが心配」。なかには「施術後にニキビが大量発生した」との声も
大江ʼs eyes
自由診療である美容医療は、クリニックや医師によって施術内容やクオリティに差がある分野。不安を解消しトラブルを回避するために情報収集がとにかく大事です。自分の求める施術を選ぶため、クリニックのHP以外に医師のブログなどを読み込み得意分野や美意識を把握することも重要です
Q 自由診療の料金は、各医療機関が自由に決めることができるのを知っていますか?
認知度は約7割。なかには「モニターで美容皮膚科の施術を受けて無料だった」という声も。医療機関による料金の違いに「手頃な価格から高額なものまで、料金の幅が広くて、見極め方がわからない」という声も
大江ʼs eyes
値段に差があるからこそ、自由診療において、料金が選ぶ際の決め手になっている部分があると思います。ただ、常識を超えて安い場合は「なぜこの値段が可能なのか」と考えたり、「今日契約すれば安くなりますよ」といった勧誘を受けた場合、本当に患者を大切にしているか、見極めも大事です
「美容医療トラブルが増加中。保険医療と美容目的の自由診療は異なるという理解を」
「自分が『こうありたい』と思う姿に近づけて、日々のメイクやお手入れの時間短縮につながる、ポジティブな気持ちになれるなどの理由で、美容医療を受ける人は年々増加しています。私自身もときどき利用することがあり、興味津々です。
しかし、利用者が増える一方でトラブルの相談件数も大きく増えているのは気になるところ。美容医療のメリットとリスクの両方を把握する重要性を感じ、キーワードに選びました」と大江さん。どんなトラブルがありますか。
「多岐にわたりますが、大きく分けると『契約に関わるトラブル』と『施術のトラブル』の二つがあると思います。前者には、思っていたよりも高額な施術を受けさせられた、また、支払い後に病院がなくなってしまった事例などがあります。後者には、施術で期待した効果が得られなかった、なかにはやけどや傷を受けたという事例もあります」
トラブルに巻き込まれないために、まず保険診療と美容目的の自由診療の違いを理解する必要があると大江さん。
「公益社団法人日本美容医療協会の理事長である青木律先生にお話を伺ったのですが、『日本人の受ける医療は、今まで健康保険というしっかりとした規制のなかで質が担保されてきたので、自由診療も同じような感覚で、どこで受けても同じ結果が得られるという考えに陥りやすい』と問題点を指摘されていました。
国で定められた基準を満たす保険医療とは違い、自由診療はその内容や料金が医療機関ごとに大きく異なり得るため、情報の非対称性がある点に気をつけたほうがいいということだと思います。情報の非対称性とは、サービスの売り手と買い手の持っている情報に差がある状態を意味します。それはどの分野にもあると思いますが、自由診療の場合、医療機関のスキルやできることの最低限のラインが引かれていない点もあって、多様な選択肢から自分の求める施術や医療機関を自分で調べなければいけない特徴があります。
青木先生も『たとえば、価格が相場に比べて安い場合は何らかの理由があるはずですし、大規模に広告を打っているところは広告費を何らかの方法で回収しているはずだということを念頭に置いて、適切な医療機関を選ぶといいでしょう』と話されていました」
「効果とリスクの両方を自分で説明できるか。医療機関や施術内容をしっかり調べて選ぶ」
アンケートでは、美容医療の経験者が6割以上。その大半が自分の受けた施術に満足している一方、不安を感じるとの声も。
「読者の方から『施術や病院を選ぶときに注意すべきことを教えてほしい』という質問がありました。そこで、厚生労働省と消費者庁と国民生活センターが共同で作成した『美容医療を受ける前にもう一度』という資料に掲載されている4つのチェックリストを紹介します。1、使用する薬などがどのようなものか、自分でも説明できますか? 2、効果だけでなく、リスクや副作用などについても知り、納得しましたか? 3、ほかの方法や選択肢の説明も受け、自分で選択しましたか? 4、その美容医療は『今すぐ』必要ですか? 以上の4ポイントはとてもわかりやすく、この点をしっかり確認することが最低限必要なのではと思います」
海外で施術を受けた読者から、「海外と日本の美容医療に差がありますか」との声も。
「安さという面で海外での施術を選ぶ場合は、もし事後に何かあったときにすぐ相談ができるかなど、リスクの部分をきちんと点検したほうがよさそうです。また、技術面では、日本の美容医療は世界の中でもかなり質が高いと評価されていて、海外から受けに来る人も増えている状況です」
これから美容医療に関するニュースを見る際、持っておくとよい視点はありますか。
「次々に新しい美容医療の技術が生み出されて導入されるなかで、国の法整備が追いついていない実情もあるといわれています。
たとえば、ハイフという超音波を使って顔のたるみなどを改善する施術がありますが、まだ『ハイフの施術は医療行為である』と国が判断する前なので、医療機関ではないエステサロンでもハイフの施術をしているところがあります。そのエステサロンでのトラブルが顕著に増えていると今年3月に消費者庁から報告されました。特に30代女性の相談件数が増えているというのも気になるところです。
今後も技術が進んで、美容医療を利用する人は増えていくと思います。そうしたなかで、自由診療である美容医療は、多くの選択肢のなかから自分で選ぶ分、自分で疑問点やリスクを洗い出し、排除していく必要もあります。取り返しのつかない事態を避けるためには、妥協せずに調べ上げることが欠かせないのだと、私自身もあらためて肝に銘じました」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/木村 敦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年11月号掲載