テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第51回目は「太陽フレア」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【太陽フレア】
たいようふれあ▶太陽の表面で起こる大規模な爆発現象のこと。太陽フレアが発生すると電磁波や高エネルギー粒子などが放出され、約8分から数日間かけて地球に届き、通信障害などの影響が出る可能性がある。2024年10月にNASA(米航空宇宙局)などが太陽の活動が非常に活発になる極大期に入っていると発表した。

関連ニュースTopic
1989年3月
太陽フレアにより送電網が影響を受け、カナダで大規模な停電が発生した
太陽フレアから放出された物質により地球の磁場が乱れる磁気嵐が起き、カナダのケベック州で送電システム障害が発生。約9時間の停電でおよそ600万人に影響が及んだ
2022年2月
米スペースXが打ち上げた人工衛星49基のうち40基が太陽フレアの影響で機能停止に陥った
太陽フレアによる磁気嵐の影響で、スペースXがインターネットサービス「スターリンク」のために打ち上げた人工衛星49基中40基が大気圏に落下するなどし失われた
2024年10月
NASA(米航空宇宙局)が、太陽の活動が活発になる極大期に入っていると発表
NASAとNOAA(米海洋大気局)が、約11年周期といわれる太陽の活動において極大期に到達していると発表。極大期には太陽フレアなどが発生する可能性が高まるとされる

太陽の活動が非常に活発になっている極大期の今、太陽フレアの影響を考えます
バイラ読者にアンケート
(回答数67名 2024年11月1日~11月5日に実施)
Q 「太陽フレア」という言葉を知っていますか?

認知度は3割。知っている人からは「影響が出た場合に起こりうる事故や危険について知りたい」「GPSの誤差はどれくらい出ますか」との質問が。知らない人からは「そもそも何なのか教えてほしい」という声が多かった
大江ʼs eyes
太陽の活動が非常に活発になる極大期を迎え、太陽フレアにより低い緯度の地域でもオーロラが見えたり、通信に影響が出たりする可能性がある、とニュースで報じられるようになりました。現状では3割の認知度でしたが、詳しく知らない方も今回の記事で学んでいただけると嬉しいです
Q 太陽フレアによって、過去に停電・通信障害・人工衛星への影響が起きていることを知っていますか?

「はい」が半数以上。「2024年5月に太陽フレアの影響により緯度が低い地域でもオーロラが観測されたことを知っている」と答えた人は約42%だったので、それより多い結果に。「日常生活への影響が心配」との声も
大江ʼs eyes
報道番組だけでなく過去の事件や事故を取り扱う番組などでも、過去に大規模な停電が起きたことが重大事案として取り上げられる機会は多い気がします。生活に密接に関係する話ですし「こんなことが起きることもあるんだ」と驚き
Q 太陽フレアについてのニュースに関心がありますか?

具体的には「通信障害が起きると困るのでどんな対策ができるのか関心がある」「飛行機によく乗るので移動への影響が知りたい」「影響を受けそうなサービスは何ですか?」「影響を最小限にする方法はありますか?」など
大江ʼs eyes
遠くの太陽で起きていることではあるのですが、自分の生活に影響があるという視点で皆さん意見を寄せてくださっていて、お詳しいなという印象を持ちました。しばらく太陽の活動が活発な状況が続くことが想定されますので、早い段階で情報をつかむことができるとよいと思います
Q 情報通信研究機構(NICT)が2024年10月に太陽フレアが発生したと発表し、注意を呼びかけていたことを知っていますか?

情報通信分野で日本唯一の公的な研究機関である情報通信研究機構。2024年10月9日に、太陽フレアの発生に伴って磁気嵐が観測され、GPSの誤差拡大や人工衛星への障害などのおそれがあると注意を呼びかけていた
大江ʼs eyes
GPS位置情報サービスの利用機会が日常的に増えていますので、GPSの誤差が広がるリスクがあるというニュースを敏感にキャッチされた方がいらっしゃったのかもしれません。情報通信研究機構は24時間太陽を監視して将来の通信リスクなどを分析し「宇宙天気予報」を毎日発信しています
「太陽の表面で起こる爆発が地球に影響。太陽フレアの発生に伴い通信障害のリスクが」
「2024年春に、普段は確認されない緯度が低い地域でオーロラが観測されました。日本でも本州でオーロラが見られ『何が起きているんだろう』と思った方がいらっしゃると思います。このことには太陽の活動により発生する太陽フレアが影響しています。2024年10月にはNASA(米航空宇宙局)などが、太陽の活動が非常に活発になる極大期と呼ばれる時期に入っていると発表しました。太陽は約11年周期で活動するとされていて、今後しばらく活発な状況が続くことが予想されます。そこで太陽フレアによる地球や私たちの生活への影響を想定できるようになっておくとよいのではないかと思い、取り上げました」と大江さん。太陽フレアとは一体何ですか。
「太陽の表面で起こる大規模な爆発現象のことです。太陽フレアが発生すると、電磁波や高エネルギー粒子など様々な物質が放出され、わずかな時間で地球まで降り注ぐように到達し、影響を及ぼします」
私たちの生活にどんな影響がありますか。
「通常の生活をしている限り、人体への影響はないとされていますが、生活上のリスクという点で最近特に注目されているのは通信への障害です。人工衛星などは宇宙空間にあるため太陽フレアの影響を受けやすく、人工衛星が落下し大気圏に突入して燃えてしまうこともあります。2022年2月には米スペースXが新たに打ち上げたスターリンク衛星49基のうち40基が太陽フレアの影響で使用不能になったと発表されました。また、地球の大気圏の上方にある電離層という電気を帯びた粒子の層を利用した通信も、太陽フレアの影響を受けるおそれがあります。電離層にゆらぎや乱れが生じ、GPSの情報に誤差や遅れが出たり飛行機の通信に影響を及ぼしたりする可能性が指摘されています。過去には停電の事例もあり、1989年には太陽フレアの発生に伴う送電システムの障害で、カナダのケベック州では約9時間の停電が発生しました」
地球上の低緯度地域でオーロラが観測されるケースが増えているのも影響のひとつ。「通常は北極や南極など緯度が高い地域でしか見ることができませんが、2024年の5月に発生した太陽フレアの影響で緯度の低い地域、たとえば日本では兵庫県の日本海側に位置する香美町などでも観測され話題になりました。太陽から地球に届く電子や陽子が大気中の酸素や窒素に触れた瞬間に光を発するのがオーロラですので、太陽フレアの発生により放出量が増えて、緯度の低い地域でも見ることができたのです」

「通信やGPSを使ったサービスに障害が出た場合の対応を考える。宇宙天気予報の利用も」
読者からは「太陽フレアのリスクに備えるにはどうしたらよいですか」という声が。
「通信やGPSの位置情報を使ったサービスが生活のなかで当たり前のように使われるようになっているので、もしそこに障害が出た場合どうするかを考えておくとよいのではないでしょうか。『GPSが使いづらい』『位置情報がずれる』といった状況になってもおかしくないということですから、それを念頭に置いてたとえば少し早めに行動する、ルートを事前に検索しておくなどの備えができると安心ではないかと思います。過去には大規模な停電も起こっていますが、人間側の技術や対策が年々向上している面もあります。アジア最大の通信衛星事業者であるスカパーJSATに取材した際も、太陽フレアの影響を考慮して人工衛星を設計、運用しているとおっしゃっていました。極大期に入りリスクが高い状況であることを認識しながら、約11年ごとに周期として巡ってくる時期とうまくつきあっていく、という感覚を持つといいかもしれません」
宇宙天気予報から適切な情報を得るのも、リスクを把握するひとつの方法に。
「宇宙天気予報は、情報通信研究機構が運営している宇宙の天気予報です。24時間、太陽を監視して通信へのリスクを様々な角度から分析し発表しています。トップページを見ると太陽フレアの発生レベルが把握できますので、気になるときは日々の気象の天気予報に加えて見てみるのもいいですね」
通信障害のおそれがあるという報道をチェックし、太陽の活動を気にかけることで、よい気づきもあると大江さん。
「太陽のことを考えるとき、私たちの視点は地球を飛び出して太陽のあたりまで上がりますよね。いつもより高い視点から地球や宇宙を考えることになるので物事のとらえ方のスケールが変わるような気がします。また、太陽から降り注ぐ様々なものから、目には見えない大気の層が地球、そして私たちを守ってくれているのだと思うと、つくづく地球は奇跡の星であり、これから先も大切に扱わなければならないと感じますね」

大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦〈Ajoite〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2025年2・3月合併号掲載