テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第50回目は「合計特殊出生率」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【合計特殊出生率】
ごうけいとくしゅしゅっしょうりつ▶15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す。少子化の状況を表す指標として用いられることが多い。1975年に2.0を下回り低下傾向となり、2005年に1.26に落ち込んだあと、2015年に1.45まで上昇し再び低下、2023年に1.20と過去最低に。
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2023年4月
こどもまんなか社会の実現に向けて、政府の司令塔となる「こども家庭庁」が発足
それまで別々の省庁で行われていた少子化対策や子育て支援の司令塔機能を一本化した国の新組織が誕生。子どもや子育て当事者の視点に立ち、包括的な支援体制を構築
2024年6月
厚生労働省が2023年の人口動態統計を発表。合計特殊出生率が1.20で過去最低を更新
8年連続で前年を下回り、1947年の統計開始以降最も低い1.20に。都道府県別では沖縄の1.60が最も高く、東京の0.99が最低。2023年は出生数も過去最低であった
2024年6月
改正子ども・子育て支援法が成立。少子化対策強化や支援金制度の創設が盛り込まれた
児童手当の所得制限を撤廃し、対象を18歳まで延長するなどの子育て支援に加え、財源の確保のため、公的医療保険に上乗せして国民や企業から集める支援金制度を創設
一人の女性が生涯に産む子どもの数の指標から、少子化の問題を考えます
バイラ読者にアンケート
(回答数64名 2024年10月2日~10月3日に実施)
Q 結婚していますか?
配偶者の有無にかかわらず全員に「子どもがいますか」と質問したところ、53%が「子どもはいない」、22%が「子1人」、19%が「子2人」、6%が「子3人」と回答。子どもがいる人の93%が結婚している状態であった
大江ʼs eyes
合計特殊出生率は、結婚している/していないにかかわらず15歳から49歳までのすべての女性が生涯にどれだけ子どもを産むかという数の指標です。日本では未婚で子どもを持つケースが少ない傾向があるなか、結婚する人が減少しているという実情があるので、今回皆さんにお聞きしました
Q 「合計特殊出生率」という言葉を知っていますか?
内容を含めた言葉の認知度は約4割。知っている人からは「日本の少子化が加速している最大の原因は何ですか」「政府が今後行う少子化対策について知りたい」、知らない人からは「どういう数値なのか教えて」との声が
大江ʼs eyes
認知度の高さに、日本の少子化を我が事として受け止めている方が多い印象を持ちました。皆さんは、子どもを持つ側にもなりうるし、子どもがいる人を職場でサポートする側にもなる世代。これから自分がどうするかを考えている方もいらっしゃり、非常に関心が高いのだなと感じました
Q 2023年の合計特殊出生率が1.20となり統計開始以来、最も低くなったことを知っていますか?
認知度は約6割。なかには2023年の合計特殊出生率が0.72だった韓国との類似点を懸念する声も。回答者の8割以上が少子化に不安を感じていて「若い世代の負担が増える」「社会保障制度が維持できるのか」などの意見が
大江ʼs eyes
今年6月に話題になったニュースが記憶に残っている方も多いと思います。1.20という数字を見て1を割る日が来るのではと不安を感じる声、自分の子どもが育ったときに日本がどうなるのか、社会保障を考えると自分が支えられる側になったとき支えてもらえるのかとの声もありますね
Q 少子化対策について不満を感じたことがありますか?
具体的には「2人目、3人目の子育て支援よりも、まず1人産むことやその前の婚姻率の低下に課題があると思う」「ライフイベントが見通せる安定した雇用情勢の整備を」「仕事と育児の両立のために支援が必要」など
大江ʼs eyes
皆さんから寄せられた意見にもありましたが、日本では結婚してから子どもを持つ人が多いので、まずは結婚を希望する人が結婚できる環境をどう整えるか。雇用の安定や職場環境の整備も重要です。子どもを持ちたい人が安心して望めるような社会をつくっていく必要があると思います
「少子化が進む日本。一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が1.20に」
「’24年1月から6月までに生まれた子どもの数は外国人を含まない概数で32万9998人と、前年の同時期と比べて6.3%減少したことが、厚生労働省が同年11月に発表した人口動態統計でわかりました。このままのペースで推移すると’24年の年間出生数は初めて70万人を割るかもしれません。また、厚労省が先に発表した’23年の合計特殊出生率は1.20と過去最低を記録。そうしたなかで、バイラ世代には子育て中の方やこれから子どもをどうしようかと考えている方がいらっしゃると思い、関心の高い分野ではないかということで取り上げました」と大江さん。合計特殊出生率とは何ですか。
「一人の女性が生涯に産む子どもの数を表した出生率です。具体的には、結婚している/していないにかかわらず15歳から49歳までの全女性が生涯に持つであろう一人あたりの子どもの数を示しています。分母に既婚、未婚を含めたすべての15歳から49歳の女性の人口、分子にその女性が産んだ子どもの数=出生数を入れて算出します」
合計特殊出生率が過去最低を記録した背景にはどんな要因が考えられていますか。
「日本において出産適齢期で結婚していない人が増えていることの影響が大きいと見られています。日本では結婚してから子どもを産む人が多く、結婚していない人が子どもを持つケースが他の国に比べて少ない傾向があります。そのため、結婚している人が減ってしまうとどうしても子どもの数が減ってしまうことになるのです。結婚する人をどれだけ増やすか。また、結婚をしていなくても子を産み育てやすい環境にできるかが課題であると考えられています」
その課題を解決するため、国や企業ではどんな取り組みが行われていますか。
「前者については、政府が少子化対策の一環として結婚支援策を検討し、多くの自治体が婚活イベントやマッチングの機会をつくるなど様々な取り組みを行っています。民間のマッチングサービスも進化しており、企業が福利厚生としてマッチングアプリを活用している事例を『WBS』で取り上げたこともあります。後者については、事実婚のカップルにも法律婚と同等の権利が与えられる社会の実現に向けた議論が活発化してきているのを感じます。シングルマザーやシングルファーザーに対するサポートも徐々に増えてきていますし、すべての子どもの権利が守られる社会づくりを推進していく方向に行政も進んでいると思います」
「子どもや子どもを持つ家庭をサポートする空気の醸成が必要。社会全体で見守り育てていく」
アンケートには「キャリアと子育てが両立できる支援がもっとあれば」という要望も。
「子どもを産んだあとに自分のキャリアがどうなるのか、不安に思う人が多いと思います。出産後のキャリアの予見可能性がより高まる働き方ができるようになるといいですよね。最近では、男性も年単位で育児休暇を取るようになってきていて、『WBS』のスタッフにも1年間育休を取得している男性がいます。子を持った人みんなが育休を取ることになると、女性だけにキャリアの分断が起きず、子どもが生まれたらみんなでサポートしようという空気になってくると思います。そうなったときに残った人員に負荷がかかりすぎる問題も今起きていますから、男女ともに子育てに取り組む人が出てくることを踏まえたゆとりのある人員配置を企業が行うことも大切です」
子どもや子育て中の人に不満がいってしまうことになってはよくないと大江さん。
「子どもや子どもを持つ家庭が減ってきたこともあり、周りから『子どもの声が騒音だ』『子どもを乗せたベビーカーが迷惑だ』などと苦情を言われてしまう問題も起きていますよね。今、日本では『子どもはみんなで育てるもの』といった社会のコンセンサスが失われつつある気がします。この状態では子育てをしている人の肩身が狭くなってしまいますし、根本のところで出生率を上げられないのではないかと思います。子どもや子どもを持つ家庭をみんなでサポートし、暮らしやすい、生活しやすい、子育てしやすい、サポートする側も前向きになれる空気の醸成こそ、これから政府が力を入れて取り組むべきことではないでしょうか」
読者から「子どもを産まない選択も尊重した上で少子化対策はできますか」との声も。「子どもを産む当事者にならなくても、子どもを持つ人が育てやすいような環境をつくるという共通のミッションはあると思います。選んだライフプランによって役割に差はあるかもしれませんが、子どもを社会で育てていく、という課題にみんなで取り組むという姿勢が大切ですよね。子どもって国の宝ですし、社会全体で見守りながら育てていければいいなと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦〈Ajoite〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2025年1月号掲載