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小川洋子ワールドを堪能!短編集『掌に眠る舞台』をレビュー【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、秋の夜長に現実をリセットさせてくれる小説2作品、小川洋子の『掌に眠る舞台』とポール・ベンジャミンの『スクイズ・プレー』をご紹介します。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『掌に眠る舞台』   小川洋子著 集英社 1815円

作り物と現実が同居する空間、それが劇場だ。本書はいずれも芝居や舞台に関係する8の短編から成る。劇場体験のような読書が楽しめる。


「ダブルフォルトの予言」はひょんなことから得た余剰のお金を使い、帝国劇場でのミュージカル『レ・ミゼラブル』全79公演を律儀に観る女性が登場する。通ううちに帝国劇場内に住んでいるという人と出会い、秘密の部屋に案内されて謎めいた話を聞かされるが、それは夢かどうかあいまいだ。あるいは「ユニコーンを握らせる」では、元女優らしい遠縁の家に大学受験の5日間だけ滞在した女子高生が、あらゆる食器に心理劇の『ガラスの動物園』のセリフが刻まれていると気づく。突如演じ始める彼女の声は普段とは違う。この体験は少女の記憶に沈殿する。


こうしたちょっと常識外れで不思議な人々の挙動を、著者はひそやかに、すぐ隣で起きているかのような静かさで描く。私たちの知らない「現実」がそこにあるかのように。「もう後戻りはできそうになかった」


舞台で演じることとそれを観ることの非対称な関係を、本作は様々なかたちで展開する。唯一無二の小川洋子ワールドが堪能できる。

『掌に眠る舞台』

小川洋子著
集英社 1815円


「私――踊れないの!」現実が虚構に溶ける体験
裕福な老人が趣味で作った屋敷の舞台上で生活し続ける女性、工具箱の中のものでバレエを再現する少女……。舞台と芝居にまつわる8つの美しくも残酷な物語を収録。ヒグチユウコの装画も素敵な一冊。

これも気になる!

『スクイズ・プレー』 ポール・ベンジャミン著 田口俊樹訳 新潮文庫 880円

『スクイズ・プレー』
ポール・ベンジャミン著 田口俊樹訳
新潮文庫 880円

人気野球選手の謎を追え。予想外の展開にドキドキ  
著名なアメリカ現代作家ポール・オースターがデビュー前に別筆名で発表した探偵小説。メジャーリーガーに届いた脅迫状の謎を追ううち殺人事件が起きて……。古きよきハードボイルドを初訳で味わえる。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年12月号掲載

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