市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第5回は東京都現代美術館で開催中の「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」を訪問しました。市川さんとともに、機能性を追求した椅子の美しさと、建築の奥深さを堪能して。
今月の展覧会は…ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで
機能性を追求した家具や工業製品の美しさに、グッとくる
家具と建築は、最も身近な「触れて使えるアート」かもしれません。今回は、1901年フランス生まれのデザイナー、ジャン・プルーヴェの大規模展覧会を訪れました。
彼がデザインした通称「スタンダードチェア」は現代の名品。リプロダクト製品が今も販売されていて人気ですが、もとは公共施設やカフェで多くの人に使われていました。この椅子の1934年から1955年頃までの変遷をたどる展示では、約20脚ものモデルが並んで見ごたえ充分。木と金属のシンプルな作りで、組立式のものも。当時最先端のアルミニウム加工を取り入れたり、戦争の物資不足で木製になったり、学校用はすごく簡素だったり……一貫しているのはその実用性。使いやすさと製造しやすさが考え抜かれ、すべてのパーツに必然性があり、無駄がありません。テーパードフォルムの後脚が特徴的ですが、これも体重がかかる部分を太く、それ以外を軽くするための構造力学に基づいたもの。そして、機能性を追求した結果として、この椅子は、ほれぼれするほど美しいのです。「つくられるものはすべて、着実な建設的構想に基づいている」とは彼の言葉。形にはすべて意味がある。マテリアルの意志に従えば、作為を超えた美がおのずと生まれる。椅子にも建築にもその考えが通底していて、すみずみに発見があります。
なにげない装飾に、人に役立つ意味がある。私が鉄道に惹かれる理由も実は同じで、ありふれた工業製品に、実用に根差した美しさを見いだせるからなんですよね。知らなかったら通りすぎてしまうけれど、深く知ると、ものの見え方が新たになって面白い。プルーヴェ展を後にしたとき、普段の建物や実用品のある風景が、少し変わって見えるかもしれません。
“誰もが日常で使いやすい。それを考え抜くことで、デザインとして洗練された魅力が生まれるのが面白い!”
絶妙な色使いを生かした展示にも注目。アートディレクションは八木保氏。プルーヴェの愛好家でありコレクターでもある
ジャン・プルーヴェ『「メトロポール」チェア No. 305』1950年頃 Laurence and Patrick Seguin collection 『「S.A.M.」テーブル No. 506』1951年・『「シテ」本棚』1932年 ともにYusaku Maezawa collection
建築家のP.ジャンヌレと共同設計した住宅。素敵なたたずまいで暮らしてみたくなる。ディテールも見どころ満載、窓の蝶番の機能美にほれぼれ!
ジャン・プルーヴェとピエール・ジャンヌレの共同設計『F 8×8 BCC組立式住宅』1942年 Yusaku Maezawa collection
建築部材の展示も。自らを「構築家」と位置づけたプルーヴェらしく、それぞれのパーツが力学に基づいて支え合う
ジャン・プルーヴェ 『「メトロポール」住宅(プロトタイプ、部分)』 1949年 Laurence and Patrick Seguin collection
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…東京都現代美術館学芸員 崔敬華さん。
市川 組立式住宅は、部材を運んで、館内で実際に組み立てたんですね。思った以上の大きさに驚きました。
崔 はい。プルーヴェの理論では大人4人の力で1日で組み立てられるということになっていますが、実際は部材が重くて……設営時にはかなりの人数がいりましたね(笑)。
市川 やはり(笑)。でも、重機を使わずに人の力だけで建てられるモバイルハウスなんて、時代の先取りですよね。
崔 彼が建築部材によく用いたアルミニウムは、当時は画期的に軽い素材。戦後の住宅不足や難民増加に対応すべく、輸送や量産のしやすさも考えられていました。
市川 機能性の追求の源に、人への想いがあって素敵です。
崔 若い頃はエンジニアになりたかったというだけあって、最先端の素材とテクノロジーを使って、自分には何ができるかということを常に考えていたそうです。
市川 プルーヴェが現代に生きていたら、デジタルの先端技術や新素材に興味を持ったかも。気になりますね!
訪れたのは…東京都現代美術館
清澄白河の木場公園敷地内にあるダイナミックな建物。同時開催の展覧会も豊富で、現代アートの最前線を堪能できる!
組立式住宅に用いられたアルミニウム製のファサード。丸窓は、環境に応じてガラスやメッシュに
もとは庶民のために作られた椅子。オリジナルは希少価値が高く、いまやオークションで相当な値がつくようになったと思うと、少し複雑
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924
【展覧会DATA】
『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』
~10/16 東京都現代美術館 企画展示室 1F/地下2F
東京都江東区三好4の1の1
10時〜18時(入場〜17時30分)
休館日/月曜(9/19、10/10は開館)、9/20、10/11 観覧料/¥2000ほか
https://www.mot-art-museum.jp
ファッションモデル
市川紗椰
1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
コンビネゾン¥53900・ブレスレット¥23100・リング(グリーン)¥18700/アー・ペー・セー カスタマーサービス(アー・ペー・セー) ピアス¥22000/フラッパーズ(シンパシー オブ ソウル スタイル) バッグ¥19800/アーセンス ルミネ新宿1(クリスチャンヴィラ×アーセンス) スカーフ¥17600/マニプリ 靴¥13970/マミアン カスタマーサポート(マミアン)
撮影/今城 純 ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2022年10月号掲載