市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第4回はDIC川村記念美術館で開催中の「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」を訪問しました。市川さんとともに、感覚をひらいて、体で感じる豊かで大きな色の世界をたどります。
※2022年9月4日(日)で会期終了
今月の展覧会は…カラーフィールド 色の海を泳ぐ
感覚をひらいて、体で感じる豊かで大きな色の世界
日頃、余計なことばかり考えてしまう性格です。マッサージの最中でさえ、ささいな疑問や興味が次々思い浮かんで、全然リラックスできない……どうしてこんな悩みを告白をしたかというと、今回は、そんな私が唯一、思考を忘れて、直観に身をゆだねられる展覧会に行ってきたからなんです。行き先は真夏の小旅行にぴったりの、DIC川村記念美術館。
1950〜60年代のアメリカを中心に発展した「カラーフィールド」と呼ばれる作品群。様々な色彩が大きなキャンバスに広がる抽象画に、10代の頃から惹かれてきました。色の連なりを見つめていると吸い込まれるよう。「どういう意図で描かれたんだろう? 作品の背景とは?」なんて考えず、絵そのものに身を投じるのは快感に近いものがあります。
「色の海を泳ぐ」というタイトルどおりの空間演出も素敵です。ジャック・ブッシュや、私の大好きなモーリス・ルイスの作品で、豊かな色の形と技法をゆったりと堪能。順路に沿っていくと、やがて、薄暗く調光された展示室に導かれます。深海をイメージした空間に、内側から光を放つようなフリーデル・ズーバスの作品が印象的。そして高い天窓から自然光を取り入れた展示室へたどり着くと、ラリー・プーンズやジュールズ・オリツキーの大型作品がゆったりと並び、海の底から浅瀬に上がってきたような解放感! まさに、自分が1匹の魚になって、色彩の海を旅しているような感覚に。
常設作品も本展に合わせて、特別に色ごとに展示。美術館の庭園に出れば、水鳥が泳ぐ池に、木立の散歩道が。お茶席やテラスも居心地がよくて、一日たっぷり楽しめます。日常からの極上の“トリップ”体験、リフレッシュできますよ。
色彩が軽やかに重なるモーリス・ルイスの作品。右から『無題(イタリアン・ヴェール)』『秋の終わり』
展示作品には、文字による説明はほとんどなし。でもすべての展示作品を見終わったあと、出口の回廊に、今回取り上げた7人のアーティストの残した言葉が並ぶ。「観る」と「読む」が分かれている展示方法も粋な演出
ほの暗い深海に、作品がサンゴや熱帯魚のように浮かぶさまをイメージして照明をデザインしたそう。曲がり角の先には、自然光の別の空間が!
“きれいな色彩にあふれた、ダイナミックな抽象画を見ていると、無心で吸い込まれるような不思議な感覚”
(右から)ジャック・ブッシュ『はためく旗』『締めつけられたオレンジ』『赤い柱#2』商業イラストレーターから抽象画に転じたカナダの画家。明快で楽しい作品がトートバッグやソックスのグッズになっていて、爆買いしました(笑)
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…DIC川村記念美術館学芸員 前田希世子さん。
市川 モーリス・ルイスの作品は、やわらかに色が重なり、筆の跡を感じさせません。どうやって描いていたんでしょう?
前田 薄く溶いたアクリル絵具をキャンバスにしみ込ませる、ステイニングという技法です。ルイスはアトリエを持たず、自宅の小さなリビングで制作をしていました。奥さんが仕事から帰ると、キャンバスは片づけられ、絵具を溶くテレピン油の匂いだけが残っていたそうですよ。
市川 実際の描き方は謎なんですね!いちばん初めにどの色を置いたのだろう?といつものぞき込んでしまいます。
前田 実は、展示をする瞬間だけ、私たち職員は絵の裏側を見ることができ、色の順番を確認することが可能なのです。
市川 そ、それはうらやましい……!それにしても抽象画って、見る角度や高さ、光で、体感の仕方が大きく変わりますね。
前田 そのとおりです。作者が作品をどう制作し、人々にどう見せたかったか。展示の仕方は研究の成果でもあるんですよ。
訪れたのは…DIC川村記念美術館
館内の茶席では、展示作品にちなんだ限定和菓子を提供(※7月12日以降提供の和菓子は写真と異なります)
約30ヘクタールの敷地には、緑豊かな自然庭園。ヘンリー・ムーアの彫刻作品が芝生にたたずむ
オリジナル グッズも豊富でセンスいい
【展覧会DATA】
『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』
~9/4 DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
9時30分〜17時(入館〜16時30分)
休館日/月曜
入館料/1500円ほか
☎050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://kawamura-museum.dic.co.jp
ファッションモデル
市川紗椰
1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
シャツ¥39600(ラム・シェ)・スカート¥61600(マラミュート)/ブランドニュース ピアス¥19360/クレスターレ リング(細)¥12100・(太)¥20900/アグ バッグ¥110000/ティースクエア プレスルーム(テラ) 靴¥39600/ザ・グランドインク(ロランス)
撮影/今城 純 ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2022年9月号掲載