映画やドラマに出演するほか、歌手としても活動する三浦透子さん。主演作『そばかす』の公開に伴い、自身の経験と作品の魅力を語ってくれた。世の中が押し付ける“当たり前”ではなく、ありのままの自分を受け止めてくれる人がいる。『そばかす』はそれを信じられる映画だ。
たとえ理解ができなくても存在は否定しないでほしい
三浦透子さんの歌声には、からまった心をほどき、浄化してくれるようなパワーがある。主演映画『そばかす』の主題歌「風になれ」も、ふわりと心が軽くなるような、優しさにあふれた曲。「映画を観た後に聴きたいと思える歌」を自ら求め、バンド・羊文学の塩塚モエカさんに楽曲制作を依頼した。
「映画出演のオファーと同時に、主題歌も歌ってほしいというお話をいただきました。台本を読んだだけでは、どなたとコラボレーションをするか決めきれなくて。撮影に臨むなか、ラストシーンで自分が走ったときの感覚と、でき上がった映像を観て、すっと塩塚さんにお願いしたいという思いになったんです。何度も映画を観て、作品の思いを受け取ってくださったことに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
演じた佳純は、他人に恋愛感情を抱かない“アセクシャル”。結婚をせかす母や、妊娠中の妹、合コンに精を出す同僚など、“恋愛して当たり前”が蔓延する世界に、違和感を抱いている。
「役を演じるにあたり、当事者の方にお話を伺う機会をいただきました。アセクシャルであることをカミングアウトしても、差別を受けるとかいったことはないそう。ただ、『いずれ好きな人ができるよ』など、恋愛感情を抱かない事実を信じてもらえない難しさがあるとおっしゃっていました。この映画を観ても、佳純を理解できない人はいると思います。でも、存在は否定しないでほしい。認知の進んでいないアセクシャルというセクシャリティについて知る機会になればと思います」
劇中にはゲイの同僚、元AV女優の同級生など、世間の当たり前を押しつけられ、違和感を抱くキャラクターがほかにも登場する。もっというと、三浦さん自身にも似た経験があるとか。
「それこそ『恋愛を楽しんでいる時期でしょ』と、26歳の女性としてラベリングされたり、男性と二人で歩いているだけで、『恋人じゃないの?』とか『これからなるんでしょ』と言われる。そういうことを投げかけられることに対して窮屈さを感じることはあります。私は5歳からお仕事をしていたので、子どもの頃は『子どもらしくない』『もっとバカになったほうがいいよ』と言われたこともありました。それって要するに、その人が期待する子ども像だったんですよね。大人びていることだって、ありのままの私の姿だったはずなのに」
「自分と同じように感じている人なんて、世の中にいないんじゃないか」。そう感じていたかつての三浦さんを救ったのは、本との出会いだった。
「すごく大人びている女の子を“その子らしさ”として受け止める大人が登場する、灰谷健次郎さんの『少女の器』を読んだときは、心強く感じました。目の前の人間関係が社会のすべてではない。昔の私のような人がいたら、必ずわかってくれる人はいると伝えたいです。そして、『そばかす』という映画が、誰かにとってそういう役割をもつ作品になれたら。心を少し軽くする力を持っている映画だと思います」
映画『そばかす』
出演/三浦透子、前田敦子ほか
監督/玉田真也
12月16日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
30歳の蘇畑佳純(三浦透子)は、恋愛感情が湧いたことがない。一人でも充分幸せだが、結婚を迫る母とはケンカが絶えない。そんなある日、中学の同級生で元AV女優の真帆(前田敦子)と再会。佳純の日常に変化が訪れる。三浦さんの初単独主演作。
三浦透子
みうら とうこ●1996年10月20日生まれ、北海道出身。2002年にデビュー。映画『私たちのハァハァ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『ドライブ・マイ・カー』などに出演。現在ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」に出演中。映画『山女』『とべない風船』が待機中。12月14日に「風になれ」を収録したセカンドミニアルバムを発売予定。
ジャケット¥63800/モールド(チノ) シャツ¥33000/ビューティフルピープル 青山店(ビューティフルピープル)
撮影/nae. ヘア&メイク/秋鹿裕子〈W〉 スタイリスト/佐々木翔 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2023年1月号掲載