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まんぼう部長スペシャル企画! 歌舞伎評論家・渡辺保先生に聞く、初心者のための鑑賞の心得&注目の若手歌舞伎俳優 【歌舞伎沼への誘い#66】

「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南する本連載。5年にわたって連載を担当してきた初代まんぼう部長が、このたび、初代黒御簾おかみを襲名し、新担当者が二代目まんぼう部長を襲名する運びとなりました。そこで初代部長のたってのリクエストで、襲名記念スペシャル企画として、歌舞伎評論家の大家として知られる渡辺保先生にご登場いただくことに!!  「えっ、バイラにあの保先生が!?」「こんなカジュアルな企画に重鎮がご登場とは!?」と編集部も騒然。初代部長もばったり小僧もびくびくでしたが、保先生はたわいない質問にも丁寧にやさしくお答えくださって、二人は感謝感激。初心者に向けての歌舞伎の見方や今、注目の若手俳優についてお話を伺いました!

歌舞伎評論家渡辺保先生が語る初心者のための観劇指南

歌舞伎評論家

渡辺保


●わたなべ・たもつ 1936年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、東宝に入社し、在職中の1965年、『歌舞伎に女優を』で評論デビュー。企画室長を経て退社後は、演劇評論家として活動する一方、多数大学にて教鞭をとる。著書に『歌右衛門伝説』『増補版 歌舞伎手帖』『歌舞伎ナビ』『吉右衛門:「現代」を生きた歌舞伎役者』など多数。昭和27年から記録しつづけている観劇ノートを書籍化した『観劇ノート集成』(全10巻予定)が現在、第9巻まで刊行。2000年、紫綬褒章受章。2024年、文化功労者にも選ばれた。毎月の歌舞伎劇評を読むことができる公式サイト「渡辺保の歌舞伎劇評」も人気。https://watanabetamotsu.com/blog/  NHKカルチャー 青山教室での講座『今月の芝居・来月の芝居 歌舞伎をもっと愉しむ』も好評。

■すべてをわかろうと思うのは現代人の悪い癖(笑)。一番大事なのは、役者の姿を無心で見ることです。

初代まんぼう部長 今回は、連載のスペシャル版ということで、歌舞伎の評論家の重鎮でいらっしゃる渡辺保先生のご登場です。保先生、ありがとうございます!!

ばったり小僧 初心者がどんなふうに歌舞伎を楽しんだらいいのか、また注目の若手の俳優さんなどについてもお伺いできればと思いますので、よろしくお願いいたします!

渡辺 わかりました。僕は80年以上も歌舞伎を見てきたけれど、今ほど若手の役者がそろっている時代はないですからね。みんな、勢いもあって、やる気もある。彼らにもっと活躍してほしいと思っているんです。それで初心者向けということだったので、まずは初めて歌舞伎を見るときの心得を簡単に十カ条にまとめてみたので申し上げます。

●渡辺保式・歌舞伎初心者のための十カ条

①ひいき役者を作ること
②物語をよく知ること
③役者の姿を味わうこと
④それも単に体を見るのではなく、芸の身体を見ること
⑤芝居の型を知ること
⑥人間を見ること
⑦鳴物をよく聞くこと
  たとえば『寺子屋』の幕開きで、下座で「隣柿の木」を唄うか、「恋の仮名文」を唄うかで、舞台の雰囲気が変わります。前者なら自然派、後者ならば、寺子はラブレターの書き方を勉強しているという皮肉になります。
⑧踊りを見る目を養うこと
⑨歌舞伎だけを見ないで、他の芝居も見ること
⑩以上を考えたら、無心になって見ること

部長 あの……保先生、初心者向けというには難度が高いような(笑)。

渡辺 そお? これができたらツウになれる。

部長 いやいや、先生、ツウになるのはとんでもなく大変なことなので(笑)、まずは簡単なところからお伺いできたらと思います。

渡辺 まあ、色々書きましたけれど、一番大事なのは⑩無心になって見ること、ですね。

部長 あまり難しく考えなくていいということでしょうか。

渡辺 そうです。白紙で見るということです。そもそも歌舞伎が誕生した江戸時代の識字率って50パーセントくらいなんですよ。二人に一人は字が読めない。みんな難しい筋なんてわからないから、子どもにも老人にも誰にでもわかる芝居を作った。それが歌舞伎なんです。現代人が考えるように文学的な話でもなければ、難しい思想もないんですね。

だから前もって見どころを勉強するとか、解説を読むことを僕はおすすめしません。こう見るのが正解ですよっていうのは、しょせん他人の目で見ていることだから意味がない。それより手ぶらで行って、舞台を楽しんでほしいと思っています。

小僧 それは初心者には嬉しいアドバイスですけれど、歌舞伎って言葉も難しいし、予備知識がないとよくわからないところがありますよね。

渡辺 そうやって全部わかろうと思うのが、現代人の悪い癖(笑)。全部なんてわかりっこないんだし、細かいことは、だんだん知っていけばいいんです。それより最初はとにかく舞台にいる役者の体に集中することです。

というのも、歌舞伎を作った人たちは、誰にでもわかる芝居を作ろうとして、何をやったかといえば、ぱっと一目見てわかるようにした。つまり視覚的にしたわけです。でも、当時は照明や大道具などの材料は限られていますよね。それでどうしたかといったら、役者の「体」というもので表現することを考えた。その人物がどういう局面に立っているか、どんな感情を持っているかということを言葉で説明するのではなくて、役者の体を使って空間に造形する、デザインするということをやったわけです。身体言語による表現ということですね。

だから“見得”なんていうものができたわけです。見得というのは、その人物の感情の昂りを表現するひとつの型ですけれど、見得の種類なんかわからなくても、役者の姿に集中していれば、ああ、怒っているんだなとか、その人物の感情は伝わるはずなんですよ。

だから一番は役者の体を見なきゃダメ。そこが基本です。

部長 なるほど。本来は俳優さんの姿を見ていれば、わかるようになっていると。

渡辺 そういうこと。女方もそうです。女性を空間に描きだす、デザインするということをしたわけ。たとえばある人はこういうことを言ったんですね。「あの女方の色気は二の腕にある。それは芸で稼いだ体の魅力だ」って。「芸で稼いだ体の魅力」なんて聞くとゾッとするけど(笑)、ようするに芸が作った身体の魅力ということです。

だって二の腕といったって、着物を着ているから露出してるわけじゃないんだよ。見えてない。それなのに二の腕の色気を感じるのは、芸の身体の成せる技ということなんだね。

小僧 すごい。俳優さんたちはそれを意識してやっているんでしょうか。

渡辺 いや、無意識でしょうね。でも、踊りの練習を積み重ねるとか、音曲を勉強するとか、稽古によって培われた感性があって、それによって二の腕の色気がデザインされるということ。それが「体が稼いだ魅力」っていうことになるんですね。③役者の姿を味わうこと④芸の身体を見ることっていうのはそういうことです。

部長 つい頭で考えて理解しようとしがちですが、それよりも役者の姿に集中して、何が起きているのか、それを感じ取ることが大事なんですね。

渡辺 そうですね。名優の条件に「子どもに芸が通じるかどうか」ということを言う人もいます。実際、僕が初めて歌舞伎を見たのは6歳のときで、物語なんて全然わからなかったけれど、六代目(尾上)菊五郎の魅力にとりつかれちゃったわけです。だから難しいことを考えずに、まずは手ぶらで劇場に行きなさいって言いたいですね。

歌舞伎評論家渡辺保先生にインタビュー。初心者のための観劇指南

↑10月には文化功労者にも選ばれた保先生。なんと御年88歳。年齢を感じさないシャープな感性と洞察力、そして知性あふれるキレッキレのユーモア。「もしかして歌舞伎鑑賞ってアンチエージングに効果あるのでは……?」と先生のお顔をしげしげと眺める部長。部長としての最後の取材なんですから、ちゃんと話を聞いてください!!

■まずは歌舞伎のひいき役者を作ること。僕の「推し」は、六代目菊五郎でした。

渡辺 体の魅力と対極にあるのが、お話の魅力ですね。それが②物語をよく知ること。歌舞伎みたいに面白いドラマはないだろうって、僕は思うよね。たとえば『弁天小僧』。舞台となっているのは鎌倉の雪ノ下で、これは今の銀座みたいなところですよ。そこの呉服屋にやって来た、いいところ風のお嬢さんが、じつは男だったなんて、そんな面白い話はないよ。

それも「チラリと見えた二の腕に桜の彫りものがあるから、そいつは男だ!」なんて、そんなところを覗くヤツがいるっていうこと自体おかしい(笑)。

それから歌舞伎にはどんでん返しがあるでしょう? 悪党と思われていた人が実は善人だったとか、敵だと思っていた人が味方だったとか。だから小泉喜美子とか、江戸川乱歩とか、推理小説の作家が歌舞伎を好きだっていうのはよくわかる。歌舞伎も推理小説もどんでん返しなんですよ。

部長 確かに! 先日も京極夏彦さんの書下ろしによる新作歌舞伎が上演されましたけれど、“謎とき”というところが共通しています。ミステリー好きな人は歌舞伎にハマる素養がありますね。

渡辺 それから⑦の鳴物⑧の踊りに関しては、どちらも奥が深いですからストーリー同様、ゆっくりと理解を深めていけばいいんじゃないでしょうか。

部長 ⑥人間を見ること、というのは、どういうことですか?

渡辺 これも心に留めておいてほしいんですけれど、役者には3つの名前があるんですね。本名と芸名と役名。河村藤雄という本名の素顔があって、それが歌舞伎の楽屋に行くと、中村歌右衛門という芸名になる。そして芸の人格になって、舞台で役を演じるわけですが、このとき、中村歌右衛門という人格を失わないことが歌舞伎では大事なんです。

たとえば坂東玉三郎が『道成寺』で白拍子花子をやるとき、舞台に出ると「大和屋!」って大向こうがかかるけれど、これは坂東玉三郎の屋号であって、花子の屋号ではないわけです。

小僧 確かにそうですね。せっかく花子を演じているのに、芸名を叫ばれるなんて、よくよく考えると迷惑ですね(笑)。

渡辺 そうそう。つまり観客も坂東玉三郎という役者は男だけれど、女として見ないといけないということがわかっている。それを承知のうえで、玉三郎と花子という人物を同時に見て、その変化のプロセスを見るところに楽しみがあるわけです。それがあるとき、奇跡的に役者としての人格が消えて、女そのものがそこへ残る瞬間があるから芸が成立しているんです。

部長 演劇って、役に「なりきる」ものだと思っていましたけれど、歌舞伎はちょっと違うんですね。

渡辺 歌舞伎役者は役を演じながら、常に芸名としての自分を片方で持っていなければならないんですね。そうして芸名と役名の間を行ったり来たりするときに、その役者の人間性、人生が出る。それがとても面白いところです。

役者の「素」が見え隠れする芸道は、歌舞伎だけじゃなくて、能も狂言も文楽も日本の古典芸能、すべてに通じています。西洋の演劇は、本名も芸名もすべて忘れて、役になるというリアリズムが求められるけれど、それとは違うんですね。

歌舞伎の戯作者、近松門左衛門の言葉に「虚実皮膜」というものがあります。芸は虚と実の境の微妙なところにあるというんですね。本物そっくりに演じればいいわけではなくて、逆にリアルにやればやるほど、虚と実の間の皮膜が消えてしまうというわけです。

部長 そこまでわかったらまさにツウですね!?(笑)。

渡辺 あとは、やはり①ひいき役者を作ること。歌舞伎を好きになるには、これに尽きるんじゃないですか。今は「推し」というのかな。推しの役者が出るときは、かならず追っかけて見るっていうことをしたほうがいいですね。

部長 保先生にとっての「推し」は、六代目尾上菊五郎だったんですよね。

渡辺 そうです。先ほどお話ししたように、僕が歌舞伎を初めて見たのは昭和16年、6歳のときです。12月8日に太平洋戦争が始まって、銀行員だった父が赴任地のインドから命からがら引き上げてきたんですね。無事に帰ってきたのを祖父が非常に喜んで、一家で歌舞伎座に行ったんです。そこで初めて六代目(菊五郎)を見ました。

当時六代目は50代半ばだったんですけれど、人間だと思ったら狐になったり、あどけない少女から下品な裸の坊主になったりするのが、本当に鮮やかでかっこよくてね。今でいう、「仮面ライダー」の変身と同じですよ(笑)。それでもう目が離せなくなった。そこから六代目を追っかけて見るようになって、ブロマイドなんかもたくさん買いました。

六代目と出会わなかったら、僕は歌舞伎を好きにならなかったと思う。

小僧 まさに「落ちるの1秒、ハマると一生」(本連載のキャッチフレーズ)という体験だったんですね。歌舞伎の勉強はどのようにしたんですか。

渡辺 僕は誰に教わったわけでもないんです。唯一、演劇評論家・三宅周太郎の『演劇巡礼』という本があって、それに歌舞伎鑑賞の手引書のような文章があった。それを読んで忠実にやったら、芝居がわかるようになったんですね。簡単に言うと、「ノートを取れ」ということなんです。

部長 何をノートに取るんですか?

渡辺 歌舞伎には「型」というものがありますよね。ある役の演技や動きが洗練されて定型化したものですけれど、その型をノートにメモするんです。何歩歩いて、こう決まったとか、ここで見得をしたとか。ノートが完成するまで4~5回は見ないといけない。比較も必要だから、他の役者はどうやっているかも見ないといけないから大変です。

でも、それをやっていると、だんだんと芝居のしどころ、芝居のツボがわかってくる。人間の体と同じで、芝居にもツボがあるんです。それが「芝居がわかる」っていうことですね。

小僧 ⑤芝居の型を知ることですね。ノートに取るのは、おいくつくらいからやっていたんですか。

渡辺 中学2年生くらいです。当時は学校の規則で、保護者なしで観劇なんかできなかったから、母親がわざわざ学校に届けを出して、それでひとりで行って。何度も行くから立ち見ですよ。3~4時間くらい、ずっと立ったまま見るんだから。

部長 それはかなりディープな推し活ですね。そんな少年がいたら、さぞ目立ったでしょうね(笑)。

歌舞伎評論家渡辺保先生が語る 注目若手歌舞伎俳優

↑「劇作家の小山内薫は『芝居入門』という本の中で、芝居を理解するためには、まず戯曲を読んで、芝居を観たら、もう一度、戯曲を読むのがいいと書いています。それが一番芝居を覚える方法だと。でも、素人の人にそこまでは言えないよね。そもそも台本をどこで手に入れたらいいかって話だし(笑)」と保先生。まったくその通りです。全部わかろうとしなくていい、ゆっくり理解すればいいというお話に勇気をもらった小僧でした~!!

■才能豊かで可能性を秘めた若手役者たち。皆さんもぜひ応援してください。

部長 ツウへの道は険しそうですが(笑)、推しの役者を見つけることは私たちにもできそうです。バイラの読者のために、「今、この人を見ておくといいよ」というおすすめの若手俳優さんを教えてください!

渡辺 たくさんいるので、何人か選んでお話ししますね。

まず坂東巳之助(35歳)。若手の俳優の中で、この人の存在は大事ですよ。彼の一番の魅力は、歌舞伎らしい暗くて、強いタッチを持っているところですね。演技の描線が非常に太いんです。それを活かして実悪(謀反人や大盗賊などの冷酷な敵役)をやるのに向いていますし、7月に『裏表太閤記』でやった織田信忠のように白塗りもできる。どっちに行くか。両方の可能性があります。それから踊りがうまい。体が決まっているんです。この人の踊りを見てほしいですね。

次に中村時蔵(36歳)は、女方の役者ですけれど、彼のひいおじいさんの三代目時蔵と同じ顔をしているんですよ。面長のうりざね顔で、現代風じゃないけれど、そこがこの人の武器。古風な役者として、神話的な役を担うことができるところが魅力です。昨年『葛の葉』で、女性に化けている狐の役をやりましたよね。人間になった狐をやるには色々な技法があるんです。たとえば人間らしい表情をしない。動物的に無表情になるのが大事なんだけれど、そういうのをやっても彼は不自然じゃないんだね。狐言葉も半音でしゃべったり、短く言いきったり、普通とは違う息づかいでしゃべるのがコツなんですけれど、それもうまくて、一瞬にしてもののけがついたようになる。そういう奇跡を起こすことができるんです。女方として大成していくんじゃないですか。

それから中村歌昇(35歳)。歌舞伎には「隈取」と呼ばれる化粧法があるのをご存じだと思いますが、その中に、『熊谷陣屋』の熊谷の顔にする芝翫筋(しかんすじ)という隈取があります。目尻、眉尻から上に向けて赤い筋を強く引くんですけれど、それが一番似合うのが歌昇ですね。これは化粧がうまいとかじゃなくて、骨格の問題で、非常に古風な顔ともいえます。それは芸にも表れていて、古風な役の雰囲気を持っているんです。彼は弁慶(『勧進帳』)もできるし、熊谷もできる。中村吉右衛門の芸を継いでいける人です。そういう意味で、彼は座頭の人ですね。

小僧 30代半ばだと中村壱太郎さんもいますね。この連載にもたびたびご登場いただいて、私も大好きなんですけれど。

渡辺 彼は巳之助たちと同世代だけど、芸の格でいったら若手というより上の世代になるんじゃない? すでに大きな役もたくさんやっているしね。

30歳前後にもいい役者がそろっていますよ。

尾上右近(32歳)。この人は芸がシャープなんですね。僕は六代目菊五郎に似た切れのよさを感じています。踊りもとてもうまい。そして多彩だから、女方もやれば、立役もやる。その両方に「変わってみせる」っていうところに新境地を開くんだろうと思います。それが許される稀有な役者です。

ただ、僕はやっぱりこの人は女方の人だと思う。色々やると、体から女方が抜けていってしまうということがあるから、自分のニン(その役が持っている雰囲気、らしさ)を極めていってもらいたいと思いますね。

中村米吉(31歳)。時蔵に続く女方はこの人ですよね。今年の新春浅草歌舞伎で八重垣姫(『本朝廿四考』)を見てね。とっても新鮮だったね。昔、吉田文五郎(人形浄瑠璃の人形遣い)の八重垣姫を見て、こんな子どもみたいな八重垣姫なんてあるのかと思ったの。僕が若い頃から見てきた歌舞伎の女方って、みんなシワだらけだったからね(笑)。でも、本当は八重垣姫って16歳なんですよ。米吉の八重垣姫を見て、それを思い出した。そういう可憐さがあります。11月には、明治座で時姫(『鎌倉三代記』)をやるでしょう? 大役だから楽しみですね。

中村隼人(30歳)。『菅原伝授手習鑑』の菅丞相(かんしょうじょう)という役があります。学問の神様ともいわれる菅原道真のことですね。これは役者を選ぶ役で、できる人とできない人がいるんですけれど、隼人はそれができる人なんですね。そういう清々しさがあります。『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官も、この人の判官じゃないと仇討ちは起きないというところが役者には必要だけれど、隼人はそういうところを持っている人ですね。

小僧 そしてぐっと若い世代には、團子さんと染五郎さんがいますね。

渡辺 そうですね。

市川團子(20歳)は、この前、立川立飛歌舞伎で、「道行」(『義経千本桜』)の忠信を見たけれど非常によかった。まだ白紙で新鮮でしたね。今は、自分の家の澤瀉屋(おもだかや ※正しくは“わかんむり”)の演目を中心にやっていますけれど、まだまだいろいろな可能性がありますから、ケレンだけでなく、古典歌舞伎をもっとやってほしいと思いますね。

市川染五郎(19歳)。今年のお正月に歌舞伎座で『息子』を見たけれど、とてもよかった。この人は芝居の勘がいいですよね。染五郎のニンは、ひとつは白塗りの役、もうひとつは「実事(じつごと)」と言って、大星由良之助(『仮名手本忠臣蔵』)のような分別のあるわりと渋い立役と、両方の可能性がある。彼の体の中には由良之助が眠っているに違いないと僕は思うので、それを発展させてあげたいなと思います。他にも中村鷹之資、坂東新悟……と将来性のある若手がたくさんいますから、きっと自分の推しがみつかると思います。

部長 本当に楽しみな俳優さんばかりですね。保先生、今日は貴重なお話、ありがとうございました。保先生の教えを胸に、これからも歌舞伎を楽しみたいと思います!!

渡辺 こんなので大丈夫? わからないことがあったら、いつでも聞きにいらっしゃい。

小僧 はい、また伺います!!

歌舞伎評論家渡辺保先生が語る歌舞伎の楽しみ方

↑保先生のデスクには、今でも六代目菊五郎が『鷺娘』を踊ったときの写真が飾られている。もし当時、六代目のアクスタがあったら、先生は買いましたか? 「買わないと思う。アクリルスタンドって、舞台から切り離して他の空間に置いたりするでしょう? そこだけ突出していて違和感があるんだよ。でも、ブロマイドは昔の役者絵の発展形だから舞台の平面に収まっている。僕はこの『鷺娘』の写真があれば満足です」

■クレジット
取材・構成/バイラ歌舞伎部
写真/露木聡子

まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧……やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。

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