「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月紹介するのは、注目の花形俳優、尾上右近さんです。声よし、踊りよし、姿よしで、実力&人気とも急上昇中。そんな右近さんの自主公演「研の會」が、この夏、東京と大阪で開催されます。第八回となる今年挑むのは『摂州合邦辻』と『連獅子』。とりわけ11歳の尾上眞秀さんが仔獅子を、右近さんが親獅子を勤める『連獅子』は大注目。夏の暑さを吹き飛ばしてくれること間違いなし! バイラ歌舞伎部のまんぼう部長とばったり小僧が、「研の會」の記者発表会をリポートするとともに、これまでの「研の會」を振り返って、その魅力を語ります!!
↑尾上右近●おのえ・うこん 1992年、東京都生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。曾祖父は六代目尾上菊五郎、母方の祖父には俳優 鶴田浩二。屋号は音羽屋。7歳のとき、本名の岡村研佑で、歌舞伎座にて初舞台。12歳のとき、新橋演舞場『人情噺文七元結』の長兵衛娘お久役ほかで、二代目尾上右近を襲名。2018年1月清元栄寿太夫を襲名。歌舞伎史上初の俳優と清元の二刀流。出演映画「八犬伝」が今年10月に、「十一人の賊軍」が11月に公開予定。
■『連獅子』では、右近&眞秀が親仔獅子に!!
ばったり小僧 昨年の尾上右近さんの自主公演「研の會」、楽しかったですね~。『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』、どっちもめちゃくちゃよかったし、終演後は、興奮冷めやらぬまま、浅草で汗をかきながら、バイラ歌舞伎チームでお好み焼きを食べて。
まんぼう部長 去年から場所が浅草公会堂になったから楽しみも倍増した感じよね。そして今年もありますよ、浅草で「研の會」!
小僧 待ってましたー!! パチパチパチ!!
部長 第八回となる今回はこれまでより拡大して、大阪(国立文楽劇場)と東京(浅草公会堂)の2都市で計8回の公演をやるというから、さすが人気者!!
演目は、『摂州合邦辻』と『連獅子』の2本で、まず注目したいのが『連獅子』ね。親獅子の仔獅子への情愛や厳しさを描いた舞踊の大作だけれど、親獅子を右近さん、そして仔獅子を俳優の寺島しのぶさんの長男・尾上眞秀くんが演じるのよね。
小僧 先日の記者発表会で言っていましたけれど、右近さんは、これまでに4回、仔獅子を演じたことがあったけれど、親獅子は今回が初めてなんですよね。そして自分が親獅子をやるときには、仔獅子は眞秀くんしかいないとずっと思っていたそうですね。
↑「研の會」の記者発表会で饒舌に語る右近さん。「「研の會」で大切にしているのは一体感です。劇場の空気感にみんなで染まって、『幸せな時間だね』と思えるような一体感が生まれるようにしたいです」。一体感、感じたいです!!
部長 そうそう。同じ音羽屋の人間というのもあるし、親が歌舞伎俳優じゃないという共通点もあって、右近さんは眞秀くんにとてもシンパシーを感じているようだったわ。歌舞伎俳優の家の子じゃないというハンディを背負った二人の反骨精神あふれる連獅子になるんじゃないかしら。
小僧 それは熱く盛り上がりそう! そして眞秀くん、「研の會」の記者発表会にも登場したけれど可愛かった~♪ まだ幼さはあるけれど、手足が長くて舞台映えするんですよね。とはいえ、『連獅子』ってヘッドバンキングのように、獅子の長い髪をぶんぶん振り回すから、初めてだとキツいだろうなぁ。
部長 いわゆる“毛振り”ね。今、一生懸命練習中で、「鬘(かつら)と衣裳の重さにちょっとずつ慣れてきているので頑張っていきたいです」と言っていたけれど、コツをつかむのは簡単じゃないわよね。でも、眞秀くん、「右近さんはすごく踊りがうまいので食らいついていきたい」と言っていて、すごくガッツがあるんだなと思った。だから、かなりハイレベルに仕上げてくるんじゃないかしら。
小僧 私、右近さんの毛振りを見るの、実は初めてなんです。踊りはピカイチだし、あの体幹から繰り出される毛振りは、めっちゃ勇壮でダイナミックなはず。本番では眞秀くんをケアしつつも、最後は、遠慮なしにフルスロットルでやってくれると思うんですよね。
↑初代尾上眞秀●おのえ・まほろ 2012年東京都生まれ。祖父は尾上菊五郎。母は俳優の寺島しのぶ、父はフランス人アートディレクターのローラン・グナシア。2017年5月歌舞伎座で初お目見得。2023年5月歌舞伎座『音菊眞秀若武者』の岩見重太郎武連で初代尾上眞秀を名のり初舞台。野球少年でもあり、運動神経抜群。
部長 うんうん。劇場を沸かせてくれこと間違いなしね。今までの自主公演は、同世代と一緒にやってきたけれど、記者発表会で「自分がこれまで『連獅子』で得たエッセンスを伝えていくという役割に回ってみたい」と話していたように、年下の眞秀くんとコンビを組むことで、またひとつ右近さんが大きくなる気がするわ。
小僧 ちなみに右近さんが過去に4回仔獅子を演じたときの親獅子は、市川團十郎白猿さん、市川猿之助さん、尾上松也さん、尾上菊之助さんの4人。濃ゆいですね(笑)。
部長 「4人もの親獅子の仔獅子を勤めた役者は他にいないと思うので、その経験は自分にとっての宝物、財産」と言っていたけれど、その経験が右近さんの糧になっているんだろうなと思ったわ。
小僧 そして、もう一つの演目『摂州合邦辻』では、右近さんは女方をやるんですね。チラシを見たけど、めちゃくちゃキレイ! 艶っぽい!!
部長 右近さんが演じるのは、玉手御前という役で、義理の息子・俊徳丸に恋をする魅惑的な継母という役どころ。でも、そんな邪恋には、実は裏があって、やがて真相が明かされる……というお話で、玉手御前は、俊徳丸のことを本当に好きだったのか、それともフェイクなのか、そのあたりは微妙なのよね。記者発表会で、右近さんが「いろんな見方ができるので、どんな気持ちで演じるのかは、なるべく言いたくないお役」と言っていたのが印象的だったわ。
↑「将来は、自分も自主公演をやってみたい」と言う眞秀くんに、「出させてください!」(笑)と即座にアピールして笑わせる右近さん。「右近さんは普段からやさしい」と眞秀くんが言うように、年の離れた兄弟のような和やかな雰囲気の二人でした~♪
小僧 「義理の息子に恋をしたのも本当だと思うし、助けたいと思ったのも本当だと思うし、大義のために生きるというのも本当だと思う。どの面を切り取っても真実であるところが玉手御前だと思う」と言っていましたね。
部長 「ただ一つ言えることは、恋をして恋をして恋を貫くとそこには愛があった。その愛の花を咲かせて散っていくところに美しい玉手御前の姿がある気がしています」とも。素敵だわ~。そういう含みがある大人っぽい役を右近さんがどう演じるのかすごく楽しみ!
小僧 また共演者が素敵ですね。
部長 本当に。澤瀉屋の実力派、市川猿弥さん、市川青虎さん、若手の中村橋之助さん、中村鶴松さん、そして右近さんをずっと支えている乳母的存在の尾上菊三呂さん。菊三呂さん以外は、「研の會」初出演とあって、新鮮なコンビネーション。
小僧 あらたな化学反応が起きそうな予感です!個人的には猿弥さんが出るのが嬉しいです。玉手御前の父親役で、右近さんにとっても猿弥さんは「甘えられるお父さんのような存在」とのことなので、きっとにじみ出るものがあるんじゃないかなと。
部長 大阪が舞台のお話だから、大阪で観るのもまた一興。大阪はまだ少しチケットが残っているそうなので,私も遠征しちゃおうかな!?
↑鮮やかで美しい今年の「研の會」のチラシ。勇壮な『連獅子』(左)とツヤやかな『摂州合邦辻』(右)。まったく違う役柄をすっかり自分のものにしている右近さん。立役も女方も両方できる俳優だけに自主公演の演目も幅広くて楽しい!
■グッズの売り切れ必至! 早めに入場してゲットを‼
部長 「研の會」でいつも感心するのは、パンフレットとかが本当にちゃんと作ってあって、手を抜いていないところ。写真もデザインもすごく凝っていて素敵なのよね。
小僧 そういえば部長は「研の會」、何回目から観てるんでしたっけ?
部長 残念ながら最初のほうは観ていなくて、2018年の第四回から。でも、2015年の第一回~第三回は、DVDを買って観ましたよ。
小僧 さすが部長!
部長 そしたら第一回から『吉野山』と『春興鏡獅子』と超本格的で。あとDVDの特典映像が「昂洋&右近の自宅で大反省会!」で、清元で参加したお兄さんと二人でひたすら真面目に反省会をしていたのも面白かった。
小僧 (資料をみて)DVDは特典映像がどれも楽しそうですね。「種之助&米吉の金言 ~右近へ送る大ダメ出し大会!」(第二回)、「松也&右近のTHAT‘S談」(第三回)。これだけで観たくなります(笑)。
↑昨年に続き、公演のポスターを制作したのは、日本アート界の巨匠、横尾忠則氏。「昨年、ポスターを作っていただいたときに、『また来年も』という思いもよらない言葉をいただき、真に受けて今年もお願いしたら、『去年よりいいものを作りますよ』とまっすぐな目で言ってくださった」とのこと。右近さんの前向きで誠実な人柄が縁と運を引き寄せている!!
部長 私が最初に観た第四回は、『封印切』と『二人椀久』だったんだけれど、(中村)壱太郎さんとの『二人椀久』が本当に美しくて素敵で。こんなに美しい舞踊を観たのは初めてと感動したのを覚えているわ。
右近さんは、本興行でやることを目指して、いつも「研の會」をやっていて、2019年第五回の『弁天娘女男白浪』や、2023年第七回の『京鹿子娘道成寺』は、「研の會」のあとに歌舞伎座で上演されたのよね。
小僧 素晴らしいことです!!
部長 でも、『二人椀久』はまだ歌舞伎座でやっていないから、いつか絶対やってほしい! 前半後半で、配役を逆にするのもいいと思う!
小僧 それはぜひ観たいですね。私が印象に残っているのは、第五回の『酔奴』。雪の中に溶けていきそうな右近さんが本当に素敵で引き込まれました。
部長 わかる! 右近さんの踊りは本当に素敵だもの。2020年の「研の會」Christmas Partyで踊った『藤娘』も素晴らしかった!! 3回ともバージョンを変えて踊っていて、あれはものすごく大変だったと思う。
小僧 そういえば、このとき、部長はくじ引きで、右近さんの押し隈が当たったんですよね。部長、もってますね。
部長 ふふふ。しっかり額装して家に飾っていますよん。
↑横尾忠則氏が制作した第八回「研の會」のポスター。ピンクが鮮やか。記者発表会では、「これは僕が描いたのではなく、右近さんの熱意が描かせたのです」という本人からのコメントも紹介された。登場人物からビームが出ているように見えるのは気のせい!?
小僧 2022年第六回も濃かったですねぇ。『色彩間苅豆~かさね』で文楽の人形を相手に踊ったんですよね。そんな実験的なことをやるの、右近さんくらいですよ。でも、人形のサイズ感に合わせて踊るから半端なく体力を消耗したようで、途中で全身がつったとか(笑)。
部長 恐ろしいわよね。しかももうひと演目が『実盛物語』という、これまたセリフの多い、大変なお役で。
小僧 それを言うなら、去年の『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』という組み合わせもありえないですよ。どっちか片方だけで、ぐったりじゃないですか。それを両方やるって、まさに体力お化け。
「自主公演は、ちょっと背伸びをして、あえてキャパオーバーすることで、キャパを広げていくのが一つのテーマ」と記者発表会で言ってたけれど、無限に広がる右近さん。本当にすごいです。
部長 それと「研の會」といえば、グッズが充実しているのも嬉しいのよね。とくにカレーマイスターとして知られる右近さんならではのオリジナルのケンケンカレーが素晴らしい!! ウコン入りカレー(でも右近は入っていない)だったり、ミャンマーカレーのチェッターヒンだったり、どれも美味しくて大評判。ちょっとお高めだけど、毎回買っちゃう。
小僧 私がいつも買うのは、お扇子です。右近さんの描いた絵があって、歌舞伎を観にいくときとか、けっこう愛用しています。
↑これまで記者発表会では、竹馬に乗って登場したこともあったけれど、この日はシックなスーツ姿で。決まってる~☆彡 50人近いメディアの人たちが集まり、みんなの関心の高さを感じました。切れ味鋭いケンケンのトークも冴える冴える。
部長 でも、去年は2日目の夜の回だったからか、グッズがほぼ完売で何も買えなかったのよ。早めに行ったつもりだったのに!欲しかった横尾忠則さんのポスターも売り切れで……ショーック!!
小僧 本当にそうでしたね。今年こそはもっと早く行かないと……。今年のグッズの目玉は何でしょうね。
部長 連獅子の二人のアクスタとかあったら可愛いだろうな♪
小僧 そうですねぇ……あとは「突然の尾上右近」のCMで注目されたアートネイチャーさんと組んで、毛振りの獅子のカツラ赤と白、というのはどうでしょう。
部長 それいい! 3万円だったら買う(笑)。バイラ編集部に置いといて、原稿を書くのに疲れたら編集部で毛振りをしてリフレッシュ! っていうのはどうかしら。
小僧 いや、かえって首を痛めるような(笑)。
部長 とにかくグッズを含めて楽しみな「研の會」。今年は何かゲットできますよーに!!
小僧 はいっ。開場と同時に売り場にダッシュしますよ!!
↑最後は二人で元気よくポーズ! 「お客さんを楽しませる役者になりたい」という眞秀くん。「まずは自分が楽しむことが大事。でも、『らく』と『たのしい』は違うから、そこははき違えたらいけないと思う」と右近さん。眞秀くん、ケンケンが先生なら間違いないね♪
■尾上右近自主公演 第八回「研の會」
【大阪公演】 会場:国立文楽劇場
2024年8月31日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
2024年9月1日(日) 昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
【東京公演】 会場:浅草公会堂
2024年9月4日(水) 昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
2024年9月5日(木) 昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
●演目
一、
「摂州合邦辻」(せっしゅうがっぽうがつじ)
合邦庵室の場
玉手御前 尾上右近
俊徳丸 中村橋之助
浅香姫 中村鶴松
母おとく 尾上菊三呂
奴入平 市川青虎
合邦道心 市川猿弥
二、
「連獅子」(れんじし)
狂言師右近/後に親獅子の精 尾上右近
狂言師左近/後に仔獅子の精 尾上眞秀
法華の僧蓮念(大阪公演) 市川青虎
法華の僧蓮念(東京公演) 中村鶴松
浄土の僧遍念(大阪公演) 市川猿弥
浄土の僧遍念(東京公演) 中村橋之助
◆公演チケット情報
●チケットぴあ
●ローソンチケット
●イープラス
●楽天チケット
劇場窓口での販売あり
●国立文楽劇場窓口(大阪公演のみのお取り扱い)
https://www.ntj.jac.go.jp/bunraku/
●浅草公会堂窓口(東京公演のみのお取り扱い)
https://asakusa-koukaidou.net/
取材・構成/バイラ歌舞伎部
写真/富田恵
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧……やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。