テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第17回目は、バイラ読者があまり馴染みのない言葉「ペントアップ需要」について大江さんと一緒に学びます。
今月のKeyword【ペントアップ需要】
ぺんとあっぷじゅよう▶ペントアップとは「鬱積した」という意味の英語(pent-up)。何らかの理由で消費者が購買行動を控えることにより、先送りされてたまった需要のこと。コロナ禍の行動制限により旅行や飲食などの消費が抑えられており、行動制限がなくなったときにどれだけリバウンドするか関心を集めている。
バイラ読者87人にアンケート
「ペントアップ需要」という言葉を知っていますか?
はい 10%
いいえ 90%
認知度は低め。ただ「コロナ禍でショッピングや趣味の消費を控えている」という人は半数以上。行動制限がなくなったらかけるお金を増やしたい分野は、1位旅行、2位外食、3位ファッションや美容、4位趣味の活動やエンターテインメントという結果に
コロナ禍以降、消費における価値観が変わったと思いますか?
はい 49%
いいえ 51%
約半数が「はい」と回答。変化した人からは「インテリアや家電など家での暮らしを豊かにするものにお金をかけるように」「外出の機会が減り、他人を意識した消費から自分の内面を満たす消費に変化した」「本当に必要なものを吟味して購入するように」との声が
「行動制限により先送りされた需要はこの先どうなる!?」
コロナ禍の行動制限によって抑えられている消費に大江さんは着目。
「たとえば東京都の場合、今年1月から8月末までの間、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象となっていた日が8割以上もありました。旅行や飲食、イベントなど『動けるようになったらこれがしたい』という思いが皆さんのアンケートにもありましたね。その先送りされてたまった需要を『ペントアップ需要』といいます。行動制限が解かれたとき、実際にどのくらい消費が増えるか。経済界の注目が集まっています」
ワクチン接種が進み経済活動が再開されている国では、すでにペントアップ需要による効果が出てきている。
「特に米国や中国、英国が挙げられます。今年7月末に発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、米国や欧州は景気の好転から見通しが上方修正されました。一方、日本は行動制限が経済の悪化につながるとの判断からG7で唯一下方修正となってしまいました」
日本もワクチン接種の普及に伴い、他の先進国のように好転しますか。
「それを期待する声があったのですが、状況が変わってきました。感染力が非常に強いデルタ株のまん延によって、これまでにない規模で感染が急拡大したため、行動制限が続くのではないかとの見方が広がってきています。実際、緊急事態宣言も再延長されたり、対象地域が追加されたりしました。このまま行動制限が長く続き企業の体力が奪われると、個人の先行き不安が大きくなり、消費するよりも将来に備えて貯蓄するマインドのほうが強くなりそうです。日本では、コロナ禍で消費の機会が減り、半ば強制的に蓄えられた個人のお金『強制貯蓄』が総額20兆円に上るとの試算があります。それがペントアップ需要で大胆に使われることを期待していたわけですが、期待するのは難しいだろう、という声が増えてきているのが現状です」
「コロナであいた穴が埋まるのではなく、新しい需要が生まれる」
アンケートでは約6割が現在消費を控えている理由を「欲しい、行きたいと思うことが減ったから」と回答。
「約半数が消費に対する価値観が変化したという結果も興味深いですね。人に会う、集まるといった人間の本質的な需要は、行動制限がなくなればおそらく戻ってくると思いますが、買い物を控えて今あるもので満足する生活が1年半ほど続いているなかで、人々のライフスタイルや消費の仕方が変わりました。もしもペントアップ需要による消費が盛り上がることがあったとしても、これまでと同じ消費行動ではなく違うところにお金を使う人も一定数いると思います。私も好きだった国内旅行に行けなくなって久しいですが、その分家の中の環境を整えるなど違ったかたちで消費をしている気がします」
消費のかたちの変化として「ネットでの買い物が増えた」という声が。
「ネットの成長にコロナ禍は大きく寄与していると思います。これまでもECサイトはありましたが、各小売業者がネット販売により力を入れるようになりました。インスタライブを始めたり、オンラインでお客さんとつながって接客するなど、リアルとネットの融合がよりコロナ禍で図られたように感じます。利用者にとってもより便利により自分に合った商品を選べることにつながり、動かなくても動いたような消費活動ができるようになってきています」
「もっとペントアップ需要が期待されているときにこの言葉を選んだのですが、どんどん状況が変わってきて、私たちが目まぐるしい変化のただ中にいることを実感しました」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/中田陽子〈MAETTICO〉 取材・原文/佐久間知子 構成/松井友里〈BAILA〉 ※BAILA2021年10月号掲載