テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第40回目は「インボイス制度」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【インボイス制度】
いんぼいすせいど▶2023年10月1日に導入された制度で、正式名称は適格請求書等保存方式。インボイス(適格請求書)とは、消費税の税率や税額などを記載した請求書のこと。その発行と保存により、事業者が消費税を納める際、売り上げにかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引く仕入れ税額控除が適用される。
関連ニュースTopic
2019年10月
消費税率10%への引き上げに伴い食料品などに8%の軽減税率を導入
消費税率が8%から10%に引き上げられた際、日常生活に欠かせない食品などは8%に据え置かれる軽減税率制度が実施され、2種類の税率が混在することになった
2023年4月
令和5年度税制改正でインボイス制度について税負担軽減措置が設けられた
消費税法等が一部改正され、インボイス制度によって新たに納税が生じる小規模事業者に対し、納税額を売り上げにかかる消費税の2割に軽減する等の経過措置を導入
2023年10月
消費税を正確に納めることを目的としたインボイス制度がスタート
売り手が買い手に対して、消費税の税率や税額を正確に伝えるための請求書を発行するインボイス制度が開始。政府は制度の円滑な導入に向けた経過措置も同時に実施
バイラ読者にアンケート
(回答数84名 2023年8月24日〜29日に実施)
Q インボイス制度がどういうものか知っていますか?
インボイス制度開始前の8月下旬にアンケートを実施したこともあり、意味までの認知度は4割弱。導入により仕事に影響のある経理担当者やフリーランスの人などとそうでない人の間で、認知度が異なる傾向も
大江ʼs eyes
アンケートを実施したのは制度のスタート前。この記事が紹介されている頃にはインボイス制度についての認知や理解がより深まっているのではないかと予測します。また会社員の方か個人事業主・フリーランスの方かによって、制度への関心度や理解度に大きく差が出ているようにも感じました
Q インボイス制度による仕事への影響はどのくらいありますか?
45%が影響あり。「とても影響がある」という人からは、「制度対応のため経理の業務フローが大きく変更した」「請求書のフォーマットが変わりデジタル化した」「フリーランスで働いていて対応を検討している」、「やや影響がある」という人からは「会社員で副業をしていて登録を迷っている」などの声が
大江ʼs eyes
経理担当の方からの「仕入れ先のインボイス登録番号を集めなければならない」、フリーランスの方からの「登録をしない場合のデメリットが心配」という声など、仕事にダイレクトに影響を受ける方がいらっしゃり、その方々にとって非常に関心の高いトピックであることがよくわかります
Q インボイス制度の導入にあたり経過措置や支援制度があることを知っていますか?
認知度は約3割。政府は、新たに納税が生じる小規模事業者の負担軽減策を制度導入以降3年間、取引先事業者への経過措置を一定の要件の下、6年間実施。中小企業の制度へのシステム対応の補助金支援もある
大江ʼs eyes
制度が大きく変わるときには激変緩和のための措置が必要です。さらに一定程度の経過措置期間を設けることで徐々に制度に対応していけるようにします。インボイス制度でも、導入によって大きな影響を受けそうな事業者に対し、負担を減らすための様々な経過措置が設けられています
Q インボイス制度について、気になることや不安を感じることがありますか?
約半数が「はい」と回答。具体的な不安として、「制度が始まってから経理上の問題が明確になると思うと気が重い」「フリーになることへのハードルが上がってしまった」「今後の収入が心配」「どんな影響があるのかまだわからないことが悩み」などが寄せられた
大江ʼs eyes
読者の皆さんのコメント一つひとつを興味深く読みました。社内の経理状況を想像させるような正直な声、フリーランスになることの壁になると感じたり、漠然とした不安があるといった声、制度の内容はなんとなくわかっていても、実際の影響まではわからないという声も多かったです
「10月1日からインボイス制度が開始。適正な納税のために請求書の形式が変わる」
「2・3月合併号のこの連載で『2023年に向けて関心のある経済キーワード』を調査した際も、多くの読者が注目していたのがインボイス制度です。ついに10月1日から始まりましたのでキーワードに選びました」と大江さん。今回のアンケートでは「難しい言葉が多いのでわかりやすく教えてほしい」「導入の目的が知りたい」との声が。
「インボイス制度は、正式には適格請求書等保存方式といいます。インボイスとは、取引した商品ごとに消費税の税率や税額が記された請求書のこと。インボイス制度によって、請求書の形式が変わると理解するとわかりやすいと思います。消費税率が2019年に10%に引き上げられた際、主に所得が低い方の税負担を軽くするために、食品などの生活必需品には8%という軽減税率が導入されました。それに伴い消費税率が10%、8%と2種類になったんですね。請求書内でそれを区分して書いてくださいという決まりになりましたが、より正確に『この商品は8%対象で税額はいくら、こちらは10%でいくら』とわかる請求書にするのがインボイス制度です。正しい消費税の納税額を算出するためにこの請求書を保存し、ミスや不正をなくす目的があります」
「制度による負担増を軽減する措置も実施。経過期間中に見極めてみては」
小規模事業者や個人事業主の人たちから不安の声が上がっているのはなぜですか。
「インボイスを発行するには、税務署にインボイス制度の事業者登録をする必要があります。そして登録すると、課税事業者として消費税を納税しなければなりません。従来から、年間の売り上げが一千万円以下の小規模事業者や個人事業主の方は免税事業者といって消費税を納めることが免除されているので、こういう方々がきっと事業者登録をするかどうかを迷っていらっしゃるのだと思います。商売をするとき、仕入れや外部発注など商売の準備をする際にかかった費用にも、消費税が含まれます。商売をして儲けた額にかかる消費税から、準備する際にかかった消費税分を控除して納税する『仕入れ税額控除』という仕組みがあるのですが、インボイス制度の導入後は、仕入れ先や外部発注先などがインボイス登録業者でないと、仕入れ税額控除ができなくなり、その分消費税の税負担が増えることになりました。そこで、控除できなくなるのを嫌がって登録していない業者を敬遠する動きが広がるのではという懸念があるのです。登録していない事業者との取引を急にやめるなどして不当な不利益を与えることは“優越的地位の濫用”にあたるおそれがあり、公正取引委員会などが目を光らせていますが、それでも『登録していないことで仕事を失うのではないか』という心配はつきまとうかもしれません。一方で免税事業者をやめて登録すれば消費税を納税することになります。そのどちらを選ぶかの岐路に立っているのです」
アンケートには、インボイス制度の影響を大きく受ける経理担当者や個人事業主の人からの声も。負担軽減策はありますか。
「大きく制度を変えるときには急激な負担増を軽減するための経過措置が必要です。政府は、インボイス制度の導入に伴って免税事業者の方が課税事業者になった場合、納税額を売り上げにかかる消費税の2割に引き下げる『2割特例』という負担軽減策を制度開始以降3年間実施。また、取引先に対して、免税事業者からの仕入れでも一定の要件の下、一定割合の控除が受けられる経過措置を6年間設けています。登録事業者になるかどうか今も迷っている方は、経過措置期間のうちに自分に適切な選択を見極めるといいかもしれません」
読者から「制度による影響や、持っておくとよい視点を教えてほしい」との声が。
「消費者としては、今後、事業者がこれまでよりも消費税を多く払わなければならなくなったとき、その分を価格に転嫁するのかどうかに注目しておくといいかもしれません。仕事面においては、たとえば経理業務に携わる方は、業務の手間が増したと感じるかもしれません。経理でない方も経費精算などの方法が変わって面倒だと思うかもしれませんね。一方で、これを機に経理のDX化が進む企業もあるでしょう。また、現在は会社員であっても、副業を始めようとか、独立してフリーランスになろうと考えている方もいらっしゃると思います。そういった場合、急に自分の人生に大きく関わってくる可能性も。これから先の自分の人生を考える上で、どんな選択肢を選ぶとしても、“すべきこと”を知っていたほうが安心ですよね。関係ないとは思わずに、インボイス制度のことを把握しておくといいと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年12月号掲載