テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第44回目は「半導体(CPUとGPU)」について大江さんと一緒に深掘りします。
今月のKeyword【半導体(CPUとGPU)】
はんどうたい(しーぴーゆーとじーぴーゆー)▶半導体とは電子機器を制御するための電子部品のこと。CPUとGPUはコンピューターの頭脳を担う半導体で、CPU(中央演算処理装置)は順を追った計算からデータベースの実行まで幅広い処理に適し、GPU(画像処理装置)は膨大なデータを並列で一気に高速で処理する能力が特徴。
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1999年8月
米エヌビディア社が世界初のGPU(画像処理装置)「GeForce256」を発表
’93年に設立された半導体企業エヌビディア。’99年に高速処理により3D映像をなめらかに表現できる画像処理半導体を発表し、GPU(Graphics Processing Unit)と名づけた
2022年11月
米オープンAI社が対話型生成AI「ChatGPT」を公開
高度なAI技術により自然な会話ができる人工知能チャットボット「ChatGPT」は、無料の革新的なサービスとして話題を集め、公開後2カ月で利用者が1億人を突破した
2024年2月
生成AI向け半導体の需要が急速に高まり、エヌビディア社の業績が拡大
発表された’23年11月〜’24年1月期決算は、純利益が前年同期比8.7倍の122億8500万ドル(約1兆8400億円)、売上高は3.7倍の221億300万ドルでともに過去最高を記録
AIの進化になくてはならない半導体について一緒に学びましょう
バイラ読者にアンケート
(回答数108名 2024年2月26日~3月1日に実施)
Q CPU、GPUという言葉を知っていますか?
認知度はCPUが約2割強、GPUが約1割。スマホやPCの購入時にCPUやGPUのスペックを気にしたことがある人は約3分の1。「耳にしたことはあるけれどよく知らないので、違いを教えてほしい」という意見も
大江ʼs eyes
今では半導体がスマホからPC、家電、自動車などのあらゆる電子機器や社会インフラに組み込まれていて、欠かすことのできない存在になっています。CPUだけでなくGPUについても意味まで知っている方が1割以上いるという結果から、半導体が身近な存在であることをあらためて感じました
Q 仕事で、生成AIを使ったことがありますか?
使用者は少数だったものの、「問い合わせやカスタマーサポートでチャットボットを活用」「イベント等のタイトルを決める際のアイディア出しや調べ物で」「ChatGPTでVBAやGASのコード修正を行っている」など多様な声が
大江ʼs eyes
非常に具体的で、業務に活用されている様子がわかりました。チャットボットを社内外のサービスに取り入れていたり、調べ物やアイディアが欲しい場合や、コード修正などを行う際にChatGPTにサポートしてもらったりなど、読者の皆さんはさすがですね。時流を感じられて勉強になりました
Q AIに関するニュースに関心がありますか?
約8割が関心あり。気になるニュースの内容は多岐にわたり、「生成AIの進化による仕事の効率化」「生成AIを使った情報収集の便利さ」「AIに仕事が奪われるリスク」「フェイクニュースなどの誤情報への規制」など様々
大江ʼs eyes
AIはあらゆるジャンルに関わっているので、ニュースの内容も幅広くなっていることが関心の高さにつながっているかもしれません。AI開発の新情報、生成AIを規制する動き、選挙期間中の生成AIで作られたフェイクニュースなども話題ですね。株価にもAI関連企業が影響を与えています
Q GPUの世界的メーカーであるエヌビディアという会社を知っていますか?
認知度は約1割。アンケート実施前にエヌビディア社の決算が発表され、その時点での世界の時価総額ランキングで4位となったニュースで気になった人も。「どんな会社か知りたい」「半導体関連株が堅調な理由は?」など
大江ʼs eyes
「知っている」と答えた方は、数値の近さから「GPUを知っている」と答えた方か、投資に興味がある方かもしれませんね。生成AIが興隆する中で、GPUの設計や開発を行っているエヌビディアは、特に今年に入ってから株価が上がっていて世界的に生成AI業界で存在感を示している会社です
「生成AIの進化に欠かせない半導体GPU。機械が目と脳を持つことができる時代へ」
「生成AIが世の中に浸透してきたことによって、AIの脳にあたる部分をつかさどる半導体が注目されています。そこで、最近耳にする機会が増えたGPUと以前からあるCPUという二つの半導体について、違いを含めてまとめて理解しておきたいニーズがあるのではないかと思い、取り上げました」と大江さん。アンケートでの認知度は、CPUが約2割、GPUが約1割。
「CPUとGPUはどちらも半導体の一種で、処理をする装置です。共通する“PU”というのはプロセッシングユニット=処理装置という意味の言葉です。ただ、処理をするものや処理の速さ、使われる目的が異なります。CPUの“C”はセントラル。中央演算処理装置と呼ばれ、色々なものの処理を行うために使われます。たとえば、データベースを作って計算し、実行するなど、幅広い作業の処理に適しています。代表的な使用例がPCです。『インテル入ってる』というCMがありましたが、まさにインテル製のCPUがパソコンの中に組み込まれていることを表しています。一方、GPUの“G”はグラフィックス。画像処理装置と呼ばれ、画像や映像の処理に必要な計算をすることに適しています。膨大なデータを並列で一気に高速で計算して処理することができる特性が、ビッグデータの処理に適しているということで、生成AIの開発に欠かせない存在となっています」
現在GPUの世界シェア8割以上を誇っているのが米半導体企業のエヌビディア社。「1999年にエヌビディアが発明したGPUは、もともとニッチな存在として認知されていた時代がありました。ゲーミングPCやプレイステーション、ニンテンドースイッチなどのゲーム機の中に入っているものというイメージを持つ方もいると思います。それが2022年にオープンAIのChatGPTが登場して以降、AIの進化においてGPUが欠かせない存在として注目されるようになりました。生成AIの分野のほかにも、車の自動運転やロボティクスにも活用されています。自動運転の場合、車から見える周りの景色を瞬時に自動で分析し情報を処理するなど、人間で言うと視神経から脳までの役割を担うのがGPUだと考えるとわかりやすいかもしれません。GPUの活用が広がるにつれて、その開発や設計を手がけるアメリカの半導体メーカー『エヌビディア』の存在も世界にとって欠かせないものとなってきています」
「エヌビディアの業績が日本株高の推進力に。半導体は経済安全保障の重要な戦略物資」
今年2月発表のエヌビディア社の決算は過去最高となり、その時点では、上場企業の時価総額ランキングで世界4位に。
「生成AIへの注目と同時に、オープンAIをはじめマイクロソフトやアップル、グーグルなどの巨大なIT企業たちが生成AIに戦略的な投資を始めました。その結果、GPUの需要が急速に高まり、エヌビディアの業績が急拡大。株価もぐんと上がりました。その影響でハイテクノロジー株を中心に構成されている米ナスダック市場の株価が上昇。半導体を作る装置や素材で圧倒的な強みを持っていて、半導体産業に今後さらに力を入れる方針の日本でも、株価が約34年ぶりに最高値を更新しました。日経平均株価が史上初めて4万円台をつけた推進力のひとつが、エヌビディアの好調とも言えます。アメリカの経済や株価を牽引するだけでなく、日本の株価も後押ししてくれるような存在になっているんです」
半導体は今、経済安全保障の中でも特に重要な戦略物資になっていると大江さん。「IoTが進化してあらゆるものがネットにつながる時代になりました。より便利な社会を目指していく過程で、半導体が縁の下の力持ちのような存在になっているのを感じます。その影響もあり、半導体を安定的に確保したいという狙いを各国、各企業が持っています。具体的には、米中対立が長期化し、アメリカが中国に対する半導体関連の輸出規制を日本やオランダにも求めるなか、日本は、中国に対し半導体製造装置の輸出規制を行っています。その一方、次世代半導体を国内で製造するべく立ち上げたラピダスを軌道に乗せるため官民一体となって動いています。これまでは石油がそのような安全保障的な意味合いを持った物資でしたが、今は半導体もそうで、新しい冷戦時代の戦略物資とも言われています。今後も半導体が国同士の取り引きの材料に使われたり、関連企業にスポットが当たったりして、ニュースで話題に上ることが増えていくでしょう。それだけ重要度が高いものであるという認識で見ていただけるといいと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2024年6月号掲載