2025年は戦後80年、国連創設から80年という節目。国連で軍縮部門のトップを務める中満泉さんと大江麻理子さんが対談。後編では女性のキャリアとライフプランについて伺いました。
中満泉さん×大江麻理子さん 対談
世代や分野の異なる人と話して、新しい考え方を学ぶとワクワクするんです

初めてお会いしたとき、「中満さんのような方が世界で活躍してくださって嬉しい」と思ったんです
――大江麻理子さん
大江 次に中満さんご自身のことについてぜひお伺いしたいと思います。最初にお会いしたのが2013年。私がニューヨーク支局に赴任しているときでした。当時、PKO局にいらして。お話しをして、中満さんのような方が世界で活躍してくださって嬉しいと心から思ったんです。その後もずっと第一線にいらっしゃいますね。どうしたら中満さんみたいな人生を歩めるのかな、と読者の方も知りたいのではないかと思い、お聞きします。まず、大学院卒業後に国連に入る道を選んだ理由はなんだったのですか。
中満 直接の理由は、“一度しかない人生だから世のため人のためになることをやりたい”と思ったのがきっかけです。入ったあとは、その時々に与えられ、やりたいと思った仕事を一生懸命まじめにやってきただけですね。あんまり堅く考えすぎず、自分がパッションを持てることを追求するのがいちばんいいんじゃないかと私は思っています。その仕事をしていてワクワクするか、生きがいを感じるか、が重要ですよね。国連の仕事はもちろん大変なこともたくさんありますが、共通の目標や目的を持っている、世界中から集まった仲間たちと日々努力していると、ひと晩寝れば嫌なことも忘れて、「やっぱりいい仕事だよね」「本当にやりがいがあるよね」と思えるんです。そういう達成感はどんな分野でも、パッションさえあれば味わうことができるのではないでしょうか。
大江 中満さんがお仕事の中でワクワクするのはどういう瞬間ですか。
中満 私は新しいことを考えて、トライしてみるのが割と好きですね。今は安全保障環境がすごく悪いので、従来どおりの努力をし続けることでは足りません。世の中でパラダイムシフトが起こっていますから、新しい考え方やアプローチを試さないといけないわけです。そのために様々な世代や分野の人と話をしています。
大江 自分と異なる世代や分野、違う考え方の人と話すことを心がけていらっしゃるのですか。
中満 そうですね。自分とまったく異なる考え方をする人と話をするのは楽しいし、会話を通じて面白い考え方を学ぶことができます。国連にはたくさんの国から人が集まっているので、日常会話の中でも学びがあります。こういったコミュニケーションを国際関係や外交でも生かせるとしたら、解決策のひとつになるかもしれません。様々な考え方があるのが世界ですから、それをどう理解して、どこに共通項があるのかを探っていく。やはり多様な視点があると面白い考え方にも出会えるのですごく楽しいですね。部内をはじめ、興味のある加盟国を集めてインフォーマルな形でブレインストーミングの機会を持つこともあります。
女性が管理職に就いて身近な環境を変えていくことが社会変革で大事

パッションを持てることを追求していくのがいちばんいいのではないかと思います
――中満泉さん
大江 BAILAの読者には30代の働く女性が多く、キャリアとライフプランのはざまで悩んでいる方も多いようです。中満さんはどう考えていらっしゃいますか?
中満 私が結婚したのは37歳で、二人目の子どもを産んだときは40代前半と遅めでしたね。悩む方も多いと思いますが、人と比べることなく、自分がハッピーな道を選ぶのがいちばん重要なのかなと思います。あとはパートナーをしっかり選ぶことでしょうか(笑)。キャリアや家族についての希望や考え方を理解して尊重してくれるような人がいいですよね。
大江 今、読者にはワークライフバランスを考えて管理職になることに不安を感じている人も多いようです。
中満 なるほど。でも管理職になると、自分の周囲の女性たちのために環境を変えることができるんです。だからキャリアを積んだ人には、ぜひ管理職になってほしいと私は思います。大きな、たとえば法律を変えるといったことももちろん重要なんですけれど、身近な環境を変えていくこともすごく重要なことです。子育て世代のお母さんたちは身体的にも大変だと思いますが、おそらくいちばん悩むのは職場での心理的なプレッシャーではないでしょうか。“仕事も育児も両立しなきゃいけない”と追い込まれる気持ち。国連では、子育て中の女性に心理的なプレッシャーを与えない組織文化になっていると思いますね。そういう組織をつくるのは身近にいる人たちです。同僚だったり、直属の上司だったり。なので、やっぱり女性が管理職に就いていって、組織の中でメンバーに影響力を及ぼすことができるようになることは、社会変革を起こす上でかなり大事なことだと思います。
大江 心理的プレッシャーを与えないためにどんなことができますか。
中満 たとえば「子どもが急に病気になりました」と連絡が入ったらさっと助けられる体制をつくる。カバーし合うのはお互い様で、逆にそれができない環境なら管理職の能力不足なんですよね。周囲が過剰な負担にならないようにバックアップ体制を整えることは、社長よりもチーム長あたりができることなので、そういう意味でも女性が管理職ポジションに就くことは重要なことなんです。
大江 働き方に関してはどうですか。
中満 無駄な仕事はしないほうがいいですよね。やるべきこととやらなくていいことを区別して考える。それをすべての人が言いやすく、議論しあえる環境をつくるためにも、もっと女性が増えて、多様性のある組織をめざすべきですね。
大江 男性が大変な思いをしている話も聞いたりしますし、いろんな立場の人が生きやすい社会になるためにはどうすればいいでしょう。
中満 女性が働きやすい環境というのは男性にも働きやすい。これはゼロサムではなくてWin-Winだと思います。それをやっぱり皆に理解してもらうことが必要ですよね。
大江 はい。国際問題も組織づくりも、いろんな立場の方が共通項を探しながら話し合いを進められるようになると、よくなりそうな気がします。
中満 そう思いますね。
大江 お話を伺って希望が持てました。ありがとうございました。

「中満さんは私にとってハイパーウーマン。今日も勇気とパワーをいただきました」(大江麻理子さん)
「共通の目標や目的を持つ仲間とやりがいを持って仕事をしています」(中満泉さん)

大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。

国連事務次長
中満 泉
国際連合事務次長・軍縮担当上級代表。早稲田大学法学部卒業。米国ジョージタウン大学大学院修士課程修了(国際関係論)。1989年に国連に入り、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に入職。その後、国連平和維持活動局(PKO)政策・評価・訓練部長およびアジア・中東部長、国連開発計画(UNDP)危機対応局長などを経て2017年5月より現職。
撮影/神戸健太郎 ヘア&メイク/YUMBOU〈ilumini.〉 取材・原文/佐久間知子 ※記事の内容は2025年2 月末時点のものです ※BAILA2025年5月号掲載