テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載がついに最終回! スペシャル版として今回は、2025年に注目の「国際キーワード」と今知っておくべきポイントを解説していただきました。
【2025年の注目国際ニュースキーワード】世界中の国や地域では何が起きている?
混迷を極める国際情勢を地域別にクローズアップ。戦争が長く続くなか2024年の選挙で政権交代が起こった地域も多く目が離せません。
アンケート〉 世界のニュースキーワード、読者はどう見ている?
読者’s Voice
(回答数77名 2025年2月7日~2月11日に実施)
Q 国際情勢に関心がありますか?

「とても関心がある」「ある程度関心がある」を合わせると83%。「各地域の情勢変化が激しいから」「遠い国の政治や経済も日本に影響するから無関心でいられない」との声が
Q 特に関心のある国、地域はどこですか?
1位 アメリカ
2位 中国
3位 ウクライナ
13の国と地域の情勢を大江さんが解説!

【アメリカ】
第二次トランプ政権が世界中を揺るがしています
「今年の1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ氏。パリ協定や世界保健機関(WHO)からの再脱退をはじめ、前政権の政策を次々に転換。ウクライナへの侵攻を続けるロシアとは直接の和平交渉に乗り出し、イスラエル・パレスチナ紛争ではガザ地区の所有に言及。関税政策においても世界経済に影響を与えています」(大江さん、以下同)
【グリーンランド】
地政学的理由からアメリカが所有に意欲
「デンマークの自治領であるグリーンランド。トランプ大統領は国際的な安全保障のために必要だと述べ、グリーンランドの獲得に意欲を見せています。そのメッセージの背景には、北極圏で活動を強めるロシアや中国への警戒があると見られています。デンマーク政府やグリーンランド自治政府は『売り物ではない』と何度も強調しています」
【カナダ】
関税をめぐる動向に注目。9年余り続いたトルドー政権に幕
「トランプ大統領は発動を延期していたカナダへの25%の関税措置について、予定どおり実施したものの、自動車への適用を延期したりと方針が二転三転。『カナダが米国の51番目の州になればいい』との発言にカナダ国民は強く反発しています。内政では物価高などへ不満が高まりトルドー首相が辞任。政治、経済ともに正念場を迎えています」
【メキシコ】
移民と関税の問題で経済懸念が高まる
「カナダとともに25%の関税措置をアメリカから表明されたメキシコ。シェインバウム大統領は、トランプ大統領との直接協議を行い軍動員による国境対策強化などを提案し、全体への発動を遅らせました。ただ、発動されれば外資系企業の対米輸出製造拠点として発展してきたメキシコの景気低迷は避けられず、日本の自動車産業などにも影響が生じます」

【台湾】
中国との緊張関係が続くなか米国務省がHPの文言を削除
「アメリカ国務省は、ホームページで公開している米台関係についての政府文書から『台湾独立を支持しない』という文言を削除しました。これに中国は強く反発しています。台湾の頼清徳総統は今年1月に第一次トランプ政権で副大統領を務めたペンス氏と会談するなど、米台間の交流を活発化しており、台湾と中国の緊張関係が高まった状態が依然として続いています」
【韓国】
尹大統領の弾劾はどうなる? 刻一刻と情勢が移り変わる
「2024年12月に尹大統領が非常戒厳を宣言し、すぐに撤回したものの、市民の大反発を招きました。弾劾を求める議案が韓国の国会で可決され、憲法裁判所で弾劾が妥当かを判断する弾劾裁判ののち、罷免されれば大統領選が行われます。しかし候補の一人と目されている最大野党『共に民主党』の李在明代表への評価も割れ、先行きは不透明です」
【中国】
米中の対立が深まることで日本に生じる影響とは?
「中国からの輸入品に追加関税を課すトランプ大統領に対し、中国はアメリカからの石炭や液化天然ガス、農水畜産物などに追加関税を課すなどの対抗措置を発動。米中対立が激しくなることで、解決の糸口を探して日中関係の改善が進む可能性があります。日本側もこの局面で歩み寄る動きになるのかどうかが注視されています」
【ウクライナ】
ロシアによる侵攻から3年。揺れる国際社会の対応
「トランプ大統領とプーチン大統領がウクライナ抜きでの和平交渉を進めようとするなか、ゼレンスキー大統領は首脳会談でトランプ大統領と口論になり、アメリカはウクライナへの軍事支援を一時停止。戦況に大きな影響を与える事態になりかねず、英国やEUの首脳たちはウクライナとの連携を示し、ロシアをけん制しています」
【ドイツ】
総選挙で最大野党が勝利。4年ぶりに政権交代へ
「今年2月に総選挙が行われ、最大野党の『キリスト教民主・社会同盟』が第一党に。不法移民の対策が選挙の焦点になっていたなか、移民や難民に排他的な姿勢を掲げる右派政党が第二党に躍進し、連立協議の行方が注視されています。近年低迷している経済について、新政権の下でどういった景気浮揚策を打ち出していくかもポイントです」
【イギリス】
総選挙で保守党から労働党へ政権交代するも低調
「2024年7月に総選挙が行われ、労働党が14年ぶりに政権を奪還しました。スターマー首相の下、新政権はインフラや住宅、研究開発への投資を強化する予算案を発表しましたが、経済の低迷やインフレ、失業率の上昇など厳しい状況が続いています。外交面では、離脱したEUとの関係をどう再構築するのかが引き続き大きな課題です」
【フランス】
2024年はマクロン大統領の下で首相が3度交代し政局が混迷
「2024年6月の欧州議会選挙で右派政党が躍進し、マクロン大統領は国民議会を解散、総選挙を実施しました。しかし与党連合は過半数を確保できず左派連合が最大勢力になり、政局が安定しません。背景には移民問題があります。移民人口の増加に伴い、雇用・治安・文化面での摩擦が懸念されており、政府は移民政策の見直しを進めています」
【パレスチナ自治区「ガザ」】
深刻な人道危機のなか停戦合意の行方が焦点
「2023年10月にイスラム組織ハマスはガザからイスラエル領土内に侵入し、市民を攻撃しました。イスラエルはガザ地区への報復攻撃を実施。ガザ地区は壊滅的な打撃を受け、多くの民間人が死亡。深刻な人道危機が発生しています。今年1月に停戦合意が成立しましたが恒久的な解決に向け、予断を許さない状況です」
【シリア】
半世紀続いたアサド政権が崩壊。暫定政権の課題は多い
「13年にわたり内戦が続くなか、反政府勢力が2024年12月に首都を掌握し、親子二代で半世紀以上独裁的な政権運営を行ってきたアサド政権は崩壊しました。その後、暫定政権がシリアの立て直しを進めています。しかし主導的役割を果たす『シャーム解放機構』は国連などからテロ組織に指定されており、国際社会の対応が問われています」
大江’s eyes〉 注目の国際ニュースキーワードを大江麻理子さんが解説!

「トランプ2.0の世界は非連続。ニュースを頻繁にチェックする必要が」
今年、世界で注目すべきは、やはり第二次トランプ政権です。就任直後からかなりのスピードで次々に公約を実行に移していますが、それに対する反発も各地で起きています。
たとえば、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって3年がたつなか、トランプ大統領は2月12日にロシアのプーチン大統領と電話会談し、戦闘終結に向けた交渉を始めることに合意したと表明しました。ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカからの安全保障支援を得るためにウクライナの資源権益をめぐる対米協議を行っていましたが、ホワイトハウスで激しい口論に。トランプ大統領の政策遂行のスピード感はビジネスマンならではである一方、民主主義や法の支配の下での平和を大切にするという価値観に基づいた、“価値観外交”を守れるのかが懸念されています。もしもロシア寄りの解決策になった場合、ロシアが行った力による現状変更を認めることになりかねず、同じような軍事行動を他国が行うことへの懸念が高まります。EUはアメリカとは一線を画し、欧州の防衛力を強化する「欧州再軍備計画」を協議するなどの動きを見せています。
イスラム組織ハマスとイスラエルの紛争で荒廃したパレスチナ・ガザ地区についてもトランプ大統領は長期的に所有し再建する考えを示しています。解決のために世界の連携が必要ななか、トランプ大統領の考え方により状況が解決へ向かい加速するのか、それとも停滞するのか、分水嶺に立っている感じがします。
関税政策では、カナダとメキシコへの関税および中国への追加関税、アメリカが輸入する鉄鋼製品とアルミニウムに関税を課す貿易相手国には関税を引き上げ“相互関税”を課すことなどを決め、大統領令に署名。自動車関税の検討にも言及しています。
トランプ政権の特徴として、政策が非連続であるところが挙げられます。特に外交政策においては水面下で両国が話し合ってある程度できたレールに乗って話を進めていくのが常道ですが、今はトップ外交が行われ、トランプ大統領が起点になって様々な話が進んでいます。するとレールがそもそも敷かれていないので、これまでとまったく異なる展開が繰り広げられる可能性があります。既定路線と思っていたものであっても気がついたら全然違う方向、または結果になっていたりすることが多く、メディアに身を置いていても、次々と舞い込んでくるニュースに衝撃を受けることがあります。だからこそ、“トランプ2・0”の世界ではこれまで以上に頻繁にニュースに接しておく必要があると思います。以前、時代の流れを大きな川と考えると私たちは船に乗っているようなものだと話したことがありますが、その川の流れが読めない状況ですので、常に情報を収集し、流れがどこに行きそうなのかを敏感にキャッチする必要があると感じています。

大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/神戸健太郎 ヘア&メイク/YUMBOU〈ilumini.〉 イラスト/Kanna Takeda 取材・原文/佐久間知子 ※記事の内容は2025年2 月末時点のものです ※BAILA2025年5月号掲載