友達や家族、パートナーがいても、いなくてもふとしたときに感じる、さみしいという気持ち。どうしようもなくさみしい夜、どう過ごしている? 作家・エッセイストの岸田奈美さんは、「なぜさみしいと感じたのか、どうすると楽になるのかを知ることが大切」と語る。
さみしさを、それ以外の言葉で表してみることが大切
作家・エッセイスト
岸田奈美さん
きしだ なみ●1991年兵庫県出身。キナリ★マガジンという有料定期購読noteで月4 本エッセイを発信。2021年10月、3 作目となる『傘のさし方がわからない』(小学館)を発売。
「私は物心ついたときから常にさみしさを抱えていて。というのも、私には知的障害のある弟がいて、父親も早くに亡くし、同級生や先生からも『大変だね』と、気づかわれてしまう。周りにいつも誰かいたし、いじめられていたわけではないのですが、“誰も私のことをわかってくれない”という思いが常にありました。そこで、障害児の姉でも、父親を亡くした子どもでもなく、一人の人間として私を理解してほしくて、インターネットの掲示板やサイトに自分の考えを書くようになったんです。知らない人に自分を説明するのって、本当に面倒くさいんですよ。まず私を誰も知らないから一から説明が必要だし。でも、実生活ではわざわざ言わないような胸の内までも吐き出してきたおかげで“岸田奈美とは何者か”を、早くから理解することができました。
『さみしい』という言葉自体にはあまり意味がないと思うんです。それよりも、なぜさみしいと感じたのか、どうすると楽になるのかを知ることが大切。人は想像を絶するほど多種多様なさみしさを持っているから、その感情をさみしい以外の言葉で表現してみることが自分を理解することにつながると思います。だから誰かの『さみしい』をこちらが勝手にカテゴライズしたり、定義づけるのってとてもむなしいこと。私のさみしさを誰も理解してくれないように、私も誰かのさみしさをすべて理解することなんてできない。さみしいって言ってみたときに、『彼氏つくれば?』とか『趣味つくったら?』なんて“そうじゃないのに”って答えが返ってくることほどさみしいものはないですから!
それでも恋愛だけは別物で、この世のどこかにはたった一人、私のことを理解して肯定してくれる人がいるって期待をしてしまうんですよね。でも経験上、さみしさを他人で埋めようとすると、それを利用しようとする人しか寄ってこないので皆さんも気をつけてください。さみしいと感じる心の穴はあっていいんです。それが人間だし、一人ひとり違うその穴の形が自分らしさにつながるから」
岸田さんのさみしい夜の推薦本
『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』
二村ヒトシ著 イースト・プレス 734円
「恋愛でボロボロになっているときに、後輩が教えてくれた一冊。心の穴と自己需要について書かれていて、これを読んで傷つく恋愛とは離れられました。自分を理解し、好きになれる一冊」
『猫を棄てる 父親について語るとき』
村上春樹著 文藝春秋 1320円
「村上さんにとってのトラウマをつくったお父さんについて、ひたすら書いて向き合って、救われるまでを目の当たりにできる本です。自分が感じたことを言葉にする大切さを学びました」
取材・原文/谷口絵美 ※BAILA2022年1月号掲載