意外に知らないクラシック音楽の疑問に3人の専門家が回答。これさえ知れば、敷居の高さも払拭され、今すぐクラシック音楽を聴いてみたくなるはず! 今回は有名作曲家の意外なエピソードと、誰かに話したくなる楽器のトリビアを紹介。
クラシック音楽ファシリテーター
飯田有抄さん
音楽専門誌や書籍、楽譜の執筆・翻訳、セミナー講師など幅広く活躍。「ららら♪クラシック」(NHK)に出演。
ディスクユニオン スタッフ
川崎 忍さん
「ディスクユニオン 新宿クラシック館」勤務。レコードやCDなど、日々、何万枚ものクラシック音楽を取り扱う。
クラシック音楽YouTuber
nacoさん
幼少期からピアノとエレクトーンを学び、2020年4月より、YouTube「厳選クラシックちゃんねる」を開設。
作曲家編
Q 一度は名前を聞いたことがある作曲家たち。何がすごいが故に有名なの?
Bach(バッハ)
active…1685年〜1750年
group…バロック派
天才であるが故に投獄経験をもつ、音楽の父
「西洋音楽の基礎を作ったバッハは音楽の父として有名。多くの子どもに恵まれたため、お金のやりくりが上手だったとか。教会の専属奏者でしたが、あまりの優秀さにヘッドハンティングの声も多数。契約中にもかかわらず新たな教会へ移籍しようとして、牢屋に閉じ込められたという話も」(飯田さん)
Mozart(モーツァルト)
active…1756年〜1791年
group…古典派
下ネタまでも名曲にしてしまう、無邪気な天才
「35歳という若さで亡くなったモーツァルトは、その短い生涯で900曲にも及ぶ作品を残しています。幼い頃から天才として知られ、父親が各国に紹介して回ったことがプロモーションになり、貴族の寵愛を受けたのだとか。子どものような一面を持ち、『俺の尻をなめろ』というトンデモない曲も作曲しています」(nacoさん)
Beethoven(ベートーヴェン)
active…1770年〜1827年
group…古典派・ロマン派
音楽を芸術にまで高めた、時代の革命児
「ヨーロッパの革命期に生きたベートーヴェンは、既成概念にとらわれない革新的な作曲家。時代は貴族社会から市民社会へ。フリーランスの音楽家として自らの音楽表現を突き詰め、こだわり抜いて手がけた交響曲は9曲のみ。コーヒーが大好きで、毎朝60粒のコーヒー豆を数えていれたという話も有名」(飯田さん)
Schubert(シューベルト)
active…1797年〜1828年
group…古典派・ロマン派
愛されキャラの非モテぽっちゃり男子
「歌曲の王と呼ばれるシューベルトは、音楽室の肖像画とは違い、実はだんご鼻でぽっちゃり体型。要領が悪くシャイな人柄は押しの強いベートーヴェンとは真逆でした。いわゆる非モテ男子ではあったものの友人には恵まれ、彼の代わりに売り込みをしてくれたなど、愛されキャラのエピソードは豊富」(飯田さん)
Chopin(ショパン)
active…1810年〜1849年
group…ロマン派
洒脱で気高い、神経質なピアノの詩人
「美意識が高く、端正なジャケットと白い手袋をまとい、専用の馬車で颯爽とコンサート会場に登場していたショパンは、気難しい一面があったことでも知られています。ピアノ教師としての才能もあり、弟子には3時間以上の練習はさせず、リラックスして弾くことを推奨していたのだとか」(飯田さん)
Brahms(ブラームス)
active…1833年〜1897年
group…ロマン派
あふれる敬愛が名作を生む、偉大な作曲家
「恩師シューマンを敬愛し、その妻クララと子どもたちのことも含めて誠心誠意サポートしたブラームス」(飯田さん)。「部屋に胸像を飾ってしまうほどベートーヴェンを崇拝。彼を意識しすぎて自身の交響曲第1番の作曲には、構想から完成まで20年もの歳月をかけてしまったとか」(nacoさん)
Debussy(ドビュッシー)
active…1862年〜1918年
group…印象主義
メンヘラ女子を製造してしまう天性の伊達男
「ドビュッシーが奏でる音楽は、まるでフローラルの香水のようにふんわりと漂いながら流れる、当時では新しい響きでした。音楽と同様に本人にもそこはかとない色気があり、思いつめた女性が彼のせいで自殺未遂を起こしてしまうほど。悩ましいほどにモテる、天性の才能があったようです」(飯田さん)
Liszt(リスト)
active…1811年〜1886年
group…ロマン派
ピアノの貴公子は、まるで現代版ロックスター
「多くの作曲家が集まってコンサートを開催する時代に、初のソロリサイタルを開いたのがリスト。セルフプロモーションに長けており、ピアノの向きや自分をどう見せるかなど、徹底的に演出。甘い顔立ちのイケメンで、リサイタル中に興奮しすぎて失神者が出るほど、熱狂的なファンが多かったそう」(nacoさん)
楽器編
Q ストラディヴァリウスやグァルネリウス、楽器は高ければ高いほどいいの?
A
「ストラディヴァリウスやグァルネリウスなどの、名器とされるバイオリンで使われている木材は環境の変化に伴い、現在の土壌では同じ木材を育てることが困難。その希少性の高さなどから、価格が高騰しているのです。ただし名器なら誰もが美しい音を奏でられるわけではなく、楽器を生かすも殺すも奏者次第。特に骨董的な価値がある楽器はこれまで手にしてきた奏者の魂が宿るので、そう簡単にはよい響きが得られないそうです」(飯田さん)
Q コンサートで注目すると面白い楽器は?
A
「バイオリンのコンサートマスターを見ると動きが大きく、曲の流れがわかりやすいと思います。私が個人的に見るのは、音楽で大切なベース音を担っているコントラバスです」(飯田さん)
「たとえばミニマリズムの原点であるラヴェル『ボレロ』なら、最初から最後まで同じリズムを刻み続けるスネアドラムを見るのも面白いと思います」(川崎さん)
Q クラシック音楽で使われている意外な楽器はありますか?
A
「有名なところではルロイ・アンダーソンの『タイプライター』の中で使われる、タイプライターがあります。彼は『サンドペーパー・バレエ』も作曲しており、その中ではやすりをこする音が入っています」(飯田さん)
「チャイコフスキー『1812年』の終盤で効果的に使われているのが大砲の音。またエリック・サティのバレエ音楽『パラード』にはサイレンやむち、ピストルの空砲も。耳をよく澄まして聞いてみると面白い音に気がつくはずです」(川崎さん)
イラスト/KOTOMI FUJIWARA 取材・原文/池田旭香 ※BAILA2024年10月号掲載