今年7年目を迎える大人気の音楽祭「サントリーホール ARKクラシックス」でアーティスティック・リーダーを務めるピアニストの辻井伸行さんとヴァイオリニストの三浦文彰さん。世界で活躍するバイラ世代の音楽家のお二人に、コンサートホールで聴く生演奏の魅力や、お二人が楽器を始めたきっかけについて伺いました。
※辻井伸行さんの「辻」は公式の表記では「 辶 」(しんにょう)の点が一つです。
伝統が息づくクラシック音楽 生の演奏をぜひ聴いてほしい
2023年「サントリーホール ARKクラシックス」公演画像
©N.Ikegami
三浦 クラシック音楽は、今世の中に存在している音楽のもとだと思うんです。一人でも百人でも演奏できる幅の広さ、多くの人と一緒に音楽をつくる喜びや共有する魅力があります。
辻井 嬉しいときやつらいとき、色々なときに音楽の力って大事ですよね。クラシック音楽には皆が聴いて元気になったり、癒されたりするものが詰まっているところも僕は大好きです。
三浦 長い歴史がある音楽で、演奏者や楽器が変わっても音楽は変わらず伝統が今も受け継がれています。歴史や文化を感じられるのも魅力ですね。
辻井 クラシック音楽は敷居が高くて聴きに行きづらいという方もいらっしゃると思うんですが、僕はおすすめの楽しみ方として、生の演奏を聴いてもらいたいという思いがあって。ライブならではの臨場感を味わってほしいです。もちろんCDやYouTubeなどでも聴けますが、コンサートの場でしかできないことがたくさんあってそれが楽しいので。僕が2009年に受けたヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールの創設者でピアニストのヴァン・クライバーンさんが亡くなる直前に「クラシック音楽に興味がない方にも生の演奏を聴いてもらえるようなピアニストになってほしい」と僕におっしゃってくださって。やはりそうなんだとその言葉が今も心の中にあります。
三浦 僕も同感。一度踏み入れることが大事だと思います。行ってしまえば大丈夫。視覚的にも楽しめるし、ホールの響きや空間を味わえるので、きっと何かを感じていただけると思います。たとえば同じ交響曲でも指揮者やオーケストラが違うと演奏が全然違うんです。指揮者によって解釈が異なり、オーケストラとのやりとりやライブ感が醍醐味。同じメンバーで同じ曲を演奏しても決して同じ演奏を繰り返すことはできない一期一会の魅力があります。
音楽一家に生まれた三浦さんと8カ月で才能芽生える辻井さん
――お二人が楽器を始めたきっかけとは? 音楽家としてクラシック音楽に携わる情熱やその原動力を伺いました。
三浦 僕の場合は、両親がヴァイオリン奏者なので自然と習い事のひとつとして3歳からヴァイオリンを始めました。6歳のときに両親の師匠である徳永二男先生に入門したことが音楽家を目指す転機に。野球もしていたのですが「野球もやったほうがいい」と先生が言ってくださりヴァイオリンも野球も勉強も遊びもする学生生活を送りました。ヴァイオリンと向き合う時間は僕にとって最も集中する時間。ヴァイオリンを続けているおかげで、人生の様々な出会いや経験にヴァイオリンが導いてくれているような気がします。特に名器には歴代の演奏家によって受け継がれたオーラのようなものが宿っていて人間味があるというか人みたいなんです。そのせいもあってヴァイオリンをパートナーのように感じています。
辻井 僕は三浦さんとは違って両親とも音楽はやっていなかったんです。ただ、僕が8カ月の頃に母が色々なCDをかけていたなかで僕がショパンの「英雄ポロネーズ」という曲が大好きで。ロシアのブーニンというピアニストの演奏をかけると足をバタバタさせて喜んでリズムをとっていたみたいです。同じ曲でもほかのピアニストの演奏には反応しないので、演奏家を聴き分ける力があるんだなと両親は思ったようです。2歳の頃におもちゃのピアノを買ってもらったことがピアノを始めたきっかけですね。4、5歳くらいのときに海外旅行先のショッピングセンターのピアノを弾かせてもらう機会があったんです。そこで皆が僕の演奏を聞いて喜んで拍手してくれたり、話しかけてくれたりして、こんなに僕の演奏で皆が喜んでくれるんだと初めて知りました。それ以来、小さい頃はとにかくステージで弾けることが楽しみで、それに向けて頑張って練習をしていました。プロになってからも練習など大変なこともありますが、やはりステージで多くの方に演奏を聴いていただけることが楽しみで原動力になっています。
「ヴァイオリンの名器にはオーラがあって人間味がありパートナーのようです」(三浦)
「ステージで演奏する喜びが原動力。ピアノは自分を表現できるもの」(辻井)
ピアニスト
辻井伸行
1988年生まれ、東京都出身。2009年にアメリカのヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールにて日本人として初優勝。以来、世界的なピアニストの一人として活躍。ニューヨークのカーネギーホールの主催公演や、イギリス最大の音楽祭「BBCプロムス」に出演し大成功を収める。2018年よりサントリーホール ARKクラシックスのアーティスティック・リーダーを務める。
ヴァイオリニスト
三浦文彰
1993年生まれ、東京都出身。2009年にドイツのハノーファー国際コンクールにて史上最年少の16歳で優勝。以来、国際舞台でヴァイオリニストとして、近年は指揮者としても活躍している。2018年よりサントリーホール ARKクラシックスのアーティスティック・リーダーに就任。21/22シーズンにロイヤル・フィルのアーティスト・イン・レジデンスを務める。’23年にウィーン、パリ、日本、ソウルでリサイタルを開催。
サントリーホール ARKクラシックス
開催日:2024年9月27日(金)~10月1日(火)
辻井伸行さんと三浦文彰さんをアーティスティック・リーダーに迎え、素晴らしい音楽仲間が集結する豪華な音楽祭。サントリーホールの大ホールとブルーローズ(小ホール)を舞台に、5日間で多彩な11公演を開催し、ホール前のアーク・カラヤン広場では全公演を大スクリーンで無料鑑賞できるライブ・ビューイングを実施予定。
https://avex.jp/classics/arkclassics2024/
撮影/曽根将樹〈PEACE MONKEY〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2024年10月号掲載