【 #中村壱太郎 #尾上右近 】最強ブロマンスカップルの『 #二人椀久 』で幻想的な愛の世界に浸ろう!! 【歌舞伎沼への誘い#69】

「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南する本連載。今回紹介するのは、2025年1月歌舞伎座で上演中の舞踊『二人椀久』に出演している中村壱太郎さんと尾上右近さん。

若手の中でも踊りがうまいことで知られ、信頼と友情で結ばれた同志でもある二人。そんな令和の名コンビが繰り広げる幻想的で美しい愛の世界が評判を呼んでいます。
そこでバイラ歌舞伎部の二代目まんぼう部長とばったり小僧の新コンビが二人を直撃。舞台への思いを語っていただきました!!

まんぼう部長　1月歌舞伎座で上演中の『二人椀久（ににんわんきゅう）』、話題になっているみたいですね。バイラ歌舞伎部は千穐楽に行く予定ですが、今からめちゃくちゃ楽しみになってきました！

ばったり小僧　若手の中でも抜群に踊りのうまい中村壱太郎さんと尾上右近さんの舞踊だし、二人は大の仲良しで、最強コンビですもんね。きっと素敵な舞台を創り上げているに違いないです。

部長　私は歌舞伎初心者だから『二人椀久』は初めて観るんです。ラブストーリーなんですよね？

小僧　儚い恋のお話ですね。大坂の豪商の息子・椀屋久兵衛（通称、椀久）は、傾城（最高位の遊女）の松山太夫に入れあげて放蕩を尽くしたために座敷牢につながれてしまうんです。松山に会いたい一心で牢屋を抜け出した椀久が浜辺でまどろんでいると、美しい月の光に照らされて松山の幻が現れ、二人で戯れるという物語。幻想的で耽美な作品なんですよ!
実は2018年に右近さんの自主公演「研の會（けんのかい）」でも二人で踊っていて、そのときも素晴らしかったけれど、今回はさらにグレードアップしているはず。

部長　合同取材会に行ったときに感じたのは、本当に二人は仲がいいんだなということ。「研の會」をきっかけに、お互いに信頼を深めたそうで、つきあってるのか!?　ってくらいイチャイチヤしていらっしゃいましたよ(笑)。

小僧　本当ですよね。右近さんは、「自主公演で『二人椀久』を踊った翌日、ふと空を見上げたらすごい晴天で、『なんでこの空を壱太郎さんと一緒に見られないんだろう』と思った」「共演して結婚する俳優さんの気持ちがわかった」って(笑)。まさに歌舞伎界のブロマンスカップル!!

部長　壱太郎さんも「当時は若かったから思いが強すぎて、毎日会いたいみたいな、つきあいたての恋人みたいな感じだった(笑)」「でも6年半たって僕らも大人になったので、いい意味でちょっと距離をおけるようになった」って熟年夫婦みたいな発言をされていて。一体、どれだけアツアツの舞台になっているんでしょう??

小僧　昨年、1月の歌舞伎座では、壱太郎さんと右近さんで『京鹿子娘道成寺（きょうかのこむすめどうじょうじ）』の白拍子花子を月の前半、後半でダブルキャストで踊り分けたんですよね。そのときは二人とも超絶エネルギッシュだったけれど、今回はそういう華やかさとは違う、静かな情熱で魅了してくれるんじゃないかと。
「『二人椀久』はとてもシンプルな舞台。松と月と僕らしかいない。その少ないパーツでどれだけ究極に美しい世界を作れるかだと思う」と壱太郎さんも言っていたし。

部長　右近さんも「『二人椀久』の研ぎ澄まされた感じ、削ぎ落とされた感じがすごく好きなので、そういう世界観を出したい」って。これは見逃せないですよ。

小僧　本当に!　ちなみに『二人椀久』のあとの『大富豪同心（だいふごうどうしん）』にも二人はコミカルな役で出ていて、そのふり幅もすごいらしい(笑)。夜の部は必見ですね!

部長　さてさて、ここからは二人のソロインタビューで、一問一答にお答えいただきます!
まずは壱太郎さん、『二人椀久』では、愛の果てにすべてを失う松山ですが、壱太郎さんは松山のように恋愛に一直線になれるタイプですか?

壱太郎　いや～、これはもう役者の性とでもいいますか、やっぱり歌舞伎優先になってしまいますね。それに歌舞伎の演目って、男女がついた離れたっていう話が多いので、それで十分だなって感じになっちゃって。しかも芝居の中で壮絶なドラマ、壮絶な恋愛ができるので、それくらい壮絶じゃないと、もう一途にはなれないかもしれない(笑)。

小僧　いやいや、多忙な壱太郎さんにはぜひ穏やかな恋愛で心身を休めていただきたいです(笑)。では、恋愛でご自身がいつも陥りがちなダメポイントはありますか?

壱太郎　どうしても芝居、芝居になってしまって時間がないことですね。

部長　なるほど。そんな壱太郎さんが恋人として心惹かれるのはどんな人ですか。

壱太郎　何か自分自身で大切なものを持ってる人かな。僕には歌舞伎があるように、相手の方も何か主軸を持っていて、リスペクトできる人がいいと思います。

部長　合同取材会では『二人椀久』について、「究極に美しい舞台にしたい」とおっしゃっていましたが、壱太郎さんが美しいと思うものってどんなものですか? 　有形無形なんでもいいので教えてください。

壱太郎　マーク・ロスコの絵とかですかね。

小僧　マーク・ロスコの絵ってどんな絵でしたっけ??

壱太郎　抽象画で、キャンバスを地層のように大きく色分けして埋め尽くしたような絵です。じつはそれぞれ意味はあるんですけれど、見た目はすごくシンプルで、でもそのシンプルの中に美しさがあるんですね。マーク・ロスコの絵の世界観は、『二人椀久』にちょっと通じるものがあるんじゃないかと思います。

部長　確かにマーク・ロスコの絵の色には、死、官能、緊張、遊び心、はかなさ……などなど、7つの成分が色に込められていそうですから、『二人椀久』とつながるかも。おもしろい発想、さすが壱太郎さん!　あらためて『二人椀久』のご自身の見どころ、ここを見てほしいというポイントがあったら教えてください。

壱太郎　じつは以前「研の會」に出たとき、自分で打掛を作ったんですね。人の自主公演で衣裳を新調するってへんな話なんですけれど(笑)、あのときは本当に思いが強すぎて(笑)。今回もそのとき作った打掛を着ます。鬘も床山さんと話し合って、かなり写実的なものを使っていたりしていて、普段の歌舞伎とはちょっと違う雰囲気なんですね。そういうスタッフのみなさんの技術との融合を1つ見どころとしていただけたらなと思います。

小僧　では、共演の右近さんへのメッセージをお願いします!!

壱太郎　尾上右近という名前が大きく大きく羽ばたいていっているのは、いろいろな場面で感じていますけれど、いつ会っても変わらずにいてくれて、また歌舞伎に向かう姿勢も変わらないでいてくれることは、すごくうれしいし、本当に素敵な友人だと思います。
じつは一緒に舞台をやるのは、1年に多くて1～2回で別々に活動していることのほうが多いんですけれど、離ればなれになっている間にお互いが培ったことをぶつけ合うというか、融合するのが僕らだと思うので、そういう意味でも、この1月というのは大きな機会ですし、「また1年後に会いましょう」みたいなことになれるような舞台にしたいと思います。

小僧　ところで、壱太郎さんは昨年12月の南座、たいへんでしたね。新作歌舞伎『蝶々夫人』だけでもたいへんなところに、片岡愛之助さんのお怪我で代役を勤めることになって。『大津絵道成寺（おおつえどうじょうじ）』は、ひとり5役を演じ分ける舞踊ですから、さすがの壱太郎さんでもたいへんだったのではないですか。

壱太郎　そうですね。ちょうど初日2日前の舞台稽古で事故が起こってしまって、どうなるのかなと思っていたら、夕方、会社からお話を頂戴しました。そのとき僕は『蝶々夫人』で頭がいっぱいだったし、他にも2演目出る予定だったので余裕はなかったんですけれど、11月の「立川立飛歌舞伎特別公演」で上演した新作舞踊で、9役の早替わりをやっていたことが、すぐに代役に活かされました。
また、『大津絵道成寺』は祖父(坂田藤十郎)が得意としていた演目だったというご縁もありました。

でも、これは決して僕ひとりでできることじゃなくて、周りの方々の協力があってできたことだと思います。代役をやることが決まった日は、夜10時過ぎまで『蝶々夫人』の稽古があって、そのあと11時過ぎから『大津絵道成寺』のリハーサルをやったんですが、お弟子さん、衣裳さん、床山さん、大道具さんをはじめとするスタッフのみなさんがつきあってくださったからできたことで、歌舞伎はチームワークで成り立ってるというのをあらためて感じる時間でした。

部長　それにしても2日前の変更でできてしまうってすごい……。恐るべし、歌舞伎俳優。それでは最後に2025年の抱負をお願いします!!

壱太郎　はい。僕は昨年1月以来、1年ぶりの歌舞伎座になるので、まずはそこでいいスタートを切りたいですね。
また、僕のライフワークのひとつ、3月京都南座での花形歌舞伎が、今年で5年目を迎えます。これが6年目、7年目と続くためにも、年長者として後輩たちに何かいい形を見せるというのが僕の責務なんじゃないかなと思っています。

小僧　今年は中村米吉さん、中村虎之介さん、中村福之助さんというフレッシュな顔合わせですね。楽しみです!!

壱太郎　ぜひ3月は南座にいらしてください!!

部長　ここからは右近さんのインタビューです!　 まずは『二人椀久』は、愛の果てにすべてを失う椀久を演じていますが、右近さんも恋愛に一直線になれるタイプですか?

右近　はい、もうめちゃめちゃ、めちゃめちゃ一途になります。仕事に影響があるんじゃないかって思うぐらいで、相手のことを頭が独占するタイプです。

部長　冷静なタイプに見えるので、ちょっと意外かも。では、恋愛で自分が陥りがちなダメポイントって何ですか?

右近　わからない……というか、陥ることがわかっていれば陥らないと思うけど(笑)。ただ、自分には自信もなければ余裕もないのに、相手のことを考えようとするバランスの悪さは感じます。これは年齢とともに徐々に整って行けばいいかなって思ってます。

部長　そんな右近さんが、恋人として心惹かれる人はどんな人ですか？

右近　感情豊かな人ですね。ただ、いつもニコニコしている人より、僕の前では怒ったり、泣いたり、感情を表に出しくれる人のほうがいい。そのほうが信用できるし、自分に対して油断してるんだろうなって思うじゃないですか。

小僧　それを受け止められる右近さんは、なかなかキャパが広いってことですね。合同取材会では、究極に美しい『二人椀久』を目指したいと言っていたお二人ですが、右近さんにとって美しいと思うのものって、どんなものですか?

右近　去年、田中一村という日本画家の展覧会を上野の美術館でやっていて観に行ったんですね。すごい混んでると聞いたんですけれど、観ないと後悔すると思って、最終日の前日に朝イチで行って。これがすごく美しかったんですよ。

部長　同じ質問を壱太郎さんにしたら、やっぱり絵画を挙げていたんですよ。さすがアートな二人。田中一村の絵はどんな絵なんですか?

右近　50歳で奄美大島に移住して、奄美大島の自然を描いた人なんですけれど、ぐっとくるんですよ。たとえば「アダンの海辺」という代表作は、南国ならではの果物がばんっと前にくるんですけれど、その背景の空を見ると、南国の空ならではの薄曇りというか、今にも雨の降りそうな空が、墨とも金ともつかない色で表現されていて、海のさざ波とかも狂気のような繊細さなんですよ。

小僧　それでいて光はすごく穏やかで、本当に美しいですね。

右近　そうなんです。この絵を見ると、一村が毎日、心静かにこの海を見ていたんだなってことをすごく感じますし、一村の静かな情熱を感じます。そういうことって絵ではなかなか伝わりにくいものですよね。
歌舞伎でも、伝えたいものだけを扱っても人には伝わらないことがあるからエンタメ的要素を入れたりするんですけれど、この絵では、それを伝えるために、この南国の果物があるんじゃないかと思います。

小僧　では、あらためて『二人椀久』のご自身の見どころ、ここを見てほしいというポイントがあったら教えてください。

右近　『二人椀久』って一言もしゃべらないんです。セリフをなくして、一幕として作り上げられたものっていうのは歌舞伎にはなかなかないんですね。そんな中で、愛しい恋人と出会って、儚く散っていく。浄化されるイメージですね。
だからセリフのない物語を見たなっていう気持ちになっていただくようにしたい。バレエを観たみたい、って思ってもらえるような舞台にしたいですね。

部長　共演する壱太郎さんにメッセージをお願いします。

右近　普通に「お互いに頑張ろう!」じゃないですかね。壱太郎さんに限らず、歌舞伎役者の関係って惑星みたいな感じなんですよ。あるときはすごく近づくけれど、それを過ぎるとまた遠ざかっていく。でも、みんなでひとつの太陽系を作っているみたいな感じで。
壱太郎さんとも『二人椀久』では重なるけれど、そのあとはまた離ればなれになる。この先もずっと長く一緒にやっていくだろうけれど、ずっと一緒にいるわけじゃない。でも、コンビを組んだとき、離れている間にお互いに培った経験を活かせるように、僕も芸を磨いておきたいと思っています。

小僧　昨年はディズニー映画『ライオン・キング：ムファサ』の声優をやったり、歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』に出演したり、映画『八犬伝』や『十一人の賊軍』に出たりと、新しいチャレンジがいろいろありましたね。

右近　違う畑にひとりで入っていくひとり旅が多かったですね。『朧の森に棲む鬼』は、みんな歌舞伎俳優だったので、1人旅というより社員旅行という感じでしたけれど(笑)、歌舞伎俳優の底力をすごく感じる舞台でした。「劇団☆新感線」の演出家いのうえひでのりさんとも初めてご一緒できたのもうれしかったですね。もともと前向きな役者たちが、いつも以上に前のめりになっていて、あれはいのうえさんの力だと思いました。

小僧　右近さん演じたキンタは、主人公のライの弟分で物語の鍵を握る大事なお役でしたけれど、まるで当て書きされたようにハマっていて感動しました！ ライは松本幸四郎さんと尾上松也さんのダブルキャストでしたが、いかがでしたか。

右近　二人のライは全然違うので、僕の演技も変わってくるんですけれど、本当にどっちのライも大好きなんですよ。もし二人同時に「俺についてこい」と言われたら、マジで「血人形(劇中に出てくる呪いの人形)で殺してくれ」って思うくらい、どっちも好きなんです(笑)。

小僧　その愛が伝わってくるから、余計に切ない展開でした。2月の博多座での上演も楽しみです!!　では、最後に2025年の抱負をお願いいたします!!

右近　1月の『二人椀久』から始まって、1つ1つパンチ力が大きいものが続くと思うんです。でも、それで変に満たされた感覚になったら嫌だなって思っていて。だから「足るを知る」じゃなくて、「足るを知らない」まま行きたいというか。
もちろん感謝の気持ちは大切にしたいので、幸せで満ち足りた、邪気が一つもないような気持ちも持ちつつ、荒れ狂う嵐のような気持ちも持っていたい。その両方がないと役者としてダメなんだろうなと思っています。

部長　さらなる活躍、期待しています。まずは1月の『二人椀久』、壱太郎さんと熱く盛り上げてください!!

松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎」

劇場:東京・歌舞伎座

日程:2025年1月2日（木）～26日（日）
 【休演】8日（水）、16日（木）
※25日（土）昼・夜の部は「歌舞伎座 着物の日」

昼の部　午前11時～

夜の部　午後4時30分～

取材・構成／バイラ歌舞伎部　　写真／露木聡子