管理職昇進も現実的になってくる30代は、女性にとってライフステージの転換期。妊活や出産、子育てとの両立は可能? そもそも管理職になるメリット・デメリットって? 読者の体験談や専門家のインタビューを参考に、今後のキャリアをじっくり考えてみよう。
1. 管理職についてどう思う?BAILA読者のリアルな現在地
管理職になりたい人ってどれくらいいるの?なりたくないと感じる理由は?BAILA読者の現状&意識を調査するべく、アンケート調査を実施しました。
(回答者117名 2024年9月27日〜9月30日に実施)
そもそも管理職の定義とは?
部や課のトップとして組織の目標達成に向けて決定権と責任を持ち、売上&予算管理、部下の育成&指導を担う職位。一般的には、課長、次長、部長などの肩書を持つ。
Q 現在の役職は?
人材と組織についての調査を行うパーソル総合研究所の調査によると、管理職のファーストキャリアである課長への平均登用年齢は38.5歳。回答したBAILA読者(29〜42歳)の管理職比率は平均的なものといえそう。ちなみに2022年度の課長相当職における女性の割合は11.6%(参照:厚生労働省HP)。
Q 将来、管理職になりたいと思いますか?
「わからない」の理由は、「メリットが見えないから。ただ、管理職にならないと評価が下がるので悩む」(メディア関係・30歳)、「今の会社ではなりたくないが、今後転職や起業などする場合は興味が出るかも」(メーカー・30歳)など。ネガティブな意見も多かった。
Q 管理職になりたくない理由は?
1 責任が重くなる
2 仕事量が増える
3 給料が仕事に見合わない
4 煩わしい人間関係が増える
5 残業代がつかなくなる
(複数回答可)
1位の「責任が重くなる」を選択した人が約半数。チームの目標達成や部下の育成など、管理職が担うマネジメントの重要性にプレッシャーを感じているよう。次いで業務量増加を懸念する声が2位に。ちなみに6位は「現場の仕事がしたい」というポジティブな理由。
Q 現在所属する会社では、管理職になるために必要な条件はありますか?
会社員をしている読者に質問。「面談で希望を聞かれ、自分のキャリアプランを伝えます。社内規定研修を受講し、評価ポイント獲得の上、上司の推薦をもらって試験を受験」(商社・36歳)や「キャリア・実績・所属年数を踏まえた上層部の意向と面談時の意思」(メーカー・30歳)など、企業によって管理職になる方法は様々。
Q キャリアを考える上で、いちばん大事にしていることは?
1 ワークライフバランス
2 収入の多さ
3 仕事のやりがいが大きいこと
4 人として成長できること
5 興味のある仕事ができること
(複数回答可)
1位の「ワークライフバランス」は、2位の倍の票を獲得。理由は、「人生でいちばん大切な軸は家庭。仕事のために家庭を蔑ろにはしたくないので、バランスのよさが重要」(金融・31歳)、「自分の時間がなければ、何のための収入なのかわからない」(鍼灸師・34歳)など。6位以降は順に、「安定していて不安がないこと」「職場での人間関係が良好であること」「自分が評価されること」
Q 現在所属する部署に、女性の管理職はいますか?
規模を会社全体に広げると、「いる」の割合は89%。また、「身近にロールモデルとなる女性管理職がいる」と回答した人は26.9%だった。そのロールモデルを尊敬している理由としては、「子育てをしながら仕事もしっかりとこなし、周囲との関係も良好」(営業事務・36歳)といった、育児との両立を挙げる回答が目立った。
Q 入社したばかりのときと今で、管理職に対する考え方は変わりましたか?
社会人として経験を重ねた結果、管理職に対する意識が変わった人が35.5%。そのうち、「『管理職になりたくない』とより強く思うようになった」人が「『管理職になりたい』とより強く思うようになった」人より圧倒的に多かった。
Q 「管理職になりたくない」とより強く思うようになった理由は?
「家庭を大事にしたい気持ちが強くなったから」(経理事務・33歳)
「上司の働き方が異常すぎる。今より大幅に忙しくなるわりに給料が見合っていないと思う」(IT・29歳)
「これ以上、精神的ストレスを増やしたくない」(看護師・37歳)
「職種的に新規事業が多いので、現場の仕事をしながら中間管理職としての動きを求められることになり、プライベートとの調整が難しそう」(SNSマーケティング・39歳)
多くの人が挙げていたのは、結婚や出産を経てワークライフバランスを重視するようになったことによる意識の変化。次に多かったのが、身近な管理職の働き方を見て「あんなに働きたくないと感じた」という拒否反応。「管理職に興味がある」派よりも、プライベートやメンタルヘルスを重視する傾向が。
Q 「管理職になりたい」とより強く思うようになった理由は?
「チームの方針を決めることに関われるし、自分の職域の地位向上を目指せる」(医療・40歳)
「同じ仕事をしているなら、給料が上がるほうがいい」(建設・36歳)
「会社員たる者、管理職を目指すのが当然という考えを持っているから」(金融・37歳)
「違う視点で部署を見てみたいから」(メーカー・39歳)
「実際に働いて仕事をますます好きになり、成長したい!」と感じている“キャリアアップ”派と、「たくさん稼ぎたい」といった“収入重視”派で意見が二分。「なんとなく」で回答している人はおらず、自分の適性や将来像を意識して冷静に判断している人がほとんど。
Q 管理職になるかどうか、という問題に関して不安に思っていることは?
「現在33歳でまだ子どもがいません。これから出産、育児を考える上で、業務負担も増えるであろう管理職を目指すべきなのか……タイミングも含めて悩んでいます」(人材・33歳)
「キャリアと家庭とのバランス。管理職になれば仕事の責任も増え、家庭を優先できるとは限らない。職場の人に迷惑をかけないか心配」(コンサル・31歳)
「女性管理職を対外的にアピールしたいがために、管理職を希望しない=チャレンジ精神がない、と考える男性役員・管理職が多すぎる。管理職を希望しなくても、やる気がある人はたくさんいることをわかってもらいたい」(卸売・33歳)
「会社は女性の管理職を増やす取り組みをしているけれど、出産後に復職するだけでも精一杯なのに、それでも管理職を目指さないといけないのかと思うと憂鬱です……」(メーカー・33歳)
管理職になることに対するいちばんの不安は、やはり育児と仕事の両立。「昇進を断るのは気が引けるけど、管理職業務をこなせる自信もない」という迷いが、多くの読者の悩みに共通していた。また、なかなか改善されない管理職のジェンダーギャップを指摘する声も。
2. 管理職を選んだ? 選ばなかった?40代の先輩にインタビュー
業務内容も仕事に求めるやりがいも持って生まれた個性も様々な3人。彼女たちの経験談から見えてくる、自分らしいキャリアの築き方のヒントとは?
【管理職を選んだ先輩】資生堂ジャパン株式会社・越間美布さん
資生堂ジャパン株式会社 エイジングケアマーケティング部 バイスプレジデント
越間美布さん(45歳)
「エリクシール」「HAKU」「プリオール」を統括するマーケティング部長として、それぞれのブランドの戦略構築や人材の育成、業務効率化のための仕組みづくりを担っている。
ブランドを守る責任とプレッシャーに直面
美白美容液市場でNo.1の売り上げを誇る「HAKU」のブランドマネージャーとして、4年前に管理職のキャリアをスタートさせた越間さん。もともとマネージャーを目指していたわけではまったくなかったそう。
「どちらかというと全力で日々の業務に取り組んでいたことを評価され、引き上げてもらえたという感覚です。当時はマネージャーになるための試験があったのですが、テストとなると合格したくなる性分で(笑)。もちろん先輩方が育ててきたブランドを汚してはいけない、成長させなければならないという不安やプレッシャーもありました」
今年からさらに役職が上がり、マーケティング部門のバイスプレジデントに就任。3つのエイジングケアブランドを統括し、35人のメンバーをまとめている。大きな責任を背負うポストを任されながらも、「おかげさまで楽しめています」と笑う裏には、彼女が築いた独自のマネジメントスタイルがあった。
「リーダーにも色々な個性があっていいと思うんです。私の場合は『ついてこい!』と強いリーダーシップを発揮するタイプではなく、自分の得意なこと、苦手なこと、個人的な想いもすべてメンバーに吐露した上で方向性を伝えていくスタイル。困り事があったらレイヤー関係なくチャットにSOSを出して相談しています。自分からメンバーに門戸を開くことで『この人には話しやすいな』と思ってもらい、気軽に相談しやすい環境づくりを心がけています」
「自分らしいマネジメントスタイルを見つけ管理職の楽しさややりがいを知りました」
過去の失敗から学んだ管理職としての覚悟
強みは人の想いに寄り添えること。ただし、相手の心情をくみ取りすぎるあまり、過去にはそこが弱点になってしまったこともあるという。
「私が持つべき判断基準はブランドの価値を最大化できるかどうか。関わるすべての人が納得する判断ができればいいのですが、場合によっては困難な道を選択しなければならない場面も生じます。打ち合わせをする中で心が揺れてしまい、他部門の意見に寄りすぎた判断をしてしまったことがあったんです。あとから『それはブランドの価値を守る判断ではない』と指摘され、いたく反省しました。立場上、厳しい判断をしなければいけないことがあるときは相手にリスペクトを示しつつ、個人的な心情は“幽体離脱”のように切り離してお伝えするようにしています」
9歳の娘さんを育てる母親でもある越間さん。社員の80%以上を女性が占める資生堂グループでは、子育て中でも働きやすい環境が整っている。
「コアタイムのないスーパーフレックス制なので、個人の事情に合ったフレキシブルな働き方ができます。子どもの送り迎えや通院などの予定も共有し合い、いつでも確認できるようにしているので、『この人にはこの時間に相談しよう』と互いに調整できるのはありがたいですね。保育園が休園したコロナ禍には、娘と一緒にリモートワークに参加したことも。個人的には、親が一生懸命働く姿を子どもに見せるのはいいことだと思っています。おかげで娘は自分も大人のチームの一員だと思って私の仕事を応援してくれています」
仕事も家庭も総力戦。強みや弱みを隠さず開示し合える関係性をつくることで、強力なワンチームを形成している。
「総力戦で戦えば苦手な部分をみんなが補完してくれますし、チームとしてできることが増えていく。自分だけでなくメンバーの成長を感じられることもやりがいになります。管理職は、ビジョンさえ明確に示すことができれば効率的に働けますし、必ずしもハードワークになるわけではありません。むしろ、日々視座が上がってやりたいことの幅が広がっていく感覚があります。目指していたわけではなかったけれど、結果的には管理職になってよかったと思っています」
「肌も人生も前向きにできる商品に関われて幸せ!」
越間さんのHistory
23歳 2002年 | 資生堂入社 |
27歳 2006年 | 高知県に赴任 |
29歳 2008年 | 東京本社に戻り、 |
管理職を選んだ 41歳 2020年 | |
45歳 2024年 | エイジングケア マーケティング部 |
管理職になる? ならない? 越間さん的回答
現場担当時代より、管理職になったほうが成長を感じられて楽しい!
【管理職を選んだ先輩】株式会社メルカリ・田辺めぐみさん
株式会社メルカリ 「メルカリ ハロ」プロダクトマネージャー責任者
田辺めぐみさん(42歳)
空いた時間で簡単に仕事を探すことができるアプリ「メルカリ ハロ」の立ち上げから参画。メルカリを退職して独立した経験があるものの、挑戦を応援する社のカルチャーに共感し2年前に復職した。
管理職はタスクではなく仲間が増える強みがある
33歳でメルカリでは女性として初めてプロダクトマネージャーの管理職に抜擢された田辺さん。学生時代からリーダーを任される経験が多かった彼女にとって、管理職になることは「より大きな挑戦ができるワクワクしかなかった」そう。
「自分がプレイヤーだったときはサービスを成長させることだけを考えていましたが、マネージャーになってからはサービスだけでなく組織への貢献を考えられるようになったことが大きな変化。今はスキマバイトサービス『メルカリ ハロ』のプロダクトマネージャーの責任者として企画担当者やデザイナー、エンジニアを取りまとめ、コンセプトづくりや戦略のロードマップづくり、アプリの開発やメンバーの採用について責任を持たせてもらっています」
「メルカリ ハロ」は今年の4月にサービスをスタートさせてから登録者数800万人を突破。急成長を遂げるサービスに携わっているのは、田辺さん自らが採用に関わった多様なバックグラウンドを持つメンバーたち。
「メルカリではプロジェクトごとに社内外からメンバーを募集するのですが、起業を経験した人や、金融のプロフェッショナル、エンジニア経験がありアプリ開発の幅広い知識を持つ人など、専門性の高いメンバーが集まっています。ドイツや中国、ベトナムなど外国籍のメンバーもいますし、約半数が女性。私がいなくても自走できる、多様性のある優秀な人材ばかりです」
管理職としてパワフルにキャリアを築いてきたように見えるけれど、過去には壁にぶつかったこともあった。
「DeNA時代に初めて責任者を任されたのですが、成果が出せずひとつ下のポジションに落とされたことがあったんです。当時はひとりでサービスを伸ばさなければいけないと思い、肩ひじを張っていたんでしょうね。一度メンバーに戻ってみると、みんながもっと積極的に私と話す時間を持ちたかったのだと知りました。そのときの経験から、管理職はタスクが増えるのではなく仲間が増えることだと考えるようになりましたし、メンバーの能力が最大限に生かせる組織づくりを目標にするようになりました。週2〜3回の出社日は1対1の面談や顔を合わせながらのアイディア出しをする時間に費やしています。自分に限界があることを知った過去の経験は学びになりましたし、今では私の強みになっています」
子どもを産んだことでさらに仕事での武器が増えた
2022年に双子を出産し、以前と同じように働くことは不可能だと実感。「限られた時間の中で生産性や成果を最大化すること」はもちろん「自分にしかできないこと」を探求するように。
「ベビーシッターサービスを利用するようになったことで、『メルカリ ハロ』へのユーザー視点のインプットが増えました。育児をしながら管理職をしている私の姿を見て、この1年で産休から復帰したメンバーも2名います。女性ならではの相談を受けることも増えましたし、理解あるチームだと思ってもらえているのは嬉しいですね。出産前の状態がベストなわけではありません。育児と管理職、両方の経験があることが、自分の価値だと思っています」
とはいえ産休・育休でキャリアが中断され、仕事のスキルが落ちるのではないかと不安を抱いたことも。田辺さんの胸に刺さったのは「キャリアとはハシゴではなくジャングルジム」という、Meta(旧Facebook)社初の女性COOが語った言葉だった。
「向いていなかったらポジションを降りてもいいし、横に移動したり、一度立ち止まったっていい。いろんな景色を見ながら自分らしい働き方を見つければいいと思っています。今、管理職が自分に務まるか不安を抱く女性が多い傾向にありますが、経験していないことはいくら想像しても仕方ありません。失敗してもあとから課題を解決することは可能。チャレンジしてみて初めて、意外に管理職が向いていることに気づくこともあるかもしれません」
「管理職になればもっと大きな挑戦ができる。ワクワクしかありませんでした」
「一緒に働きたい優秀な人材を採用できるのもメリット」
田辺さんのHistory
24歳 2006年 | 株式会社NTTデータ入社 |
29歳 2011年 | 株式会社DeNA入社 |
31歳 2013年 | 株式会社スマートエデュケーション入社 |
管理職を選んだ 33歳 2015年 | 株式会社メルカリ入社 |
38歳 2020年 | 起業 |
40歳 2022年 | 株式会社メルカリに復職 |
管理職になる? ならない? 田辺さん的回答
一度挑戦してみて! 課題はあとからいくらでも解決できます
【管理職を選ばなかった先輩】フリーランス広報・小野 茜さん
フリーランス広報
小野 茜さん(43歳)
株式会社ABC Cooking Studioで広報を経験後、7年前に独立しPR会社を立ち上げ。様々な企業の広報支援・コンサルを担当する。著書に『ひとり広報の戦略書』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
頑張るのはここじゃない。独立を決めた管理職試験
食に関連する案件を中心にフリーランス広報として10社のPRを担当し、様々な場でそのノウハウを発信している小野さん。7年前に独立・起業をしたきっかけは、会社員時代に管理職試験に落ちたことだった。
「当時は広報の仕事に可能性や面白さを感じていた時期だったので、上司からマネジメント試験への受験を打診されたときはポジティブに受け止めていました。ところが試験にはあえなく失敗。一緒に受けた新卒5年目・広報に異動して間もない後輩が合格しました。私自身は広報としてしっかり結果を出してきたつもりでしたが、会社の慣習として新卒入社の社員のほうが出世が早い傾向にあったんです。企業には企業なりのルールや文化があるし、中途入社の私が上のポジションを目指すには時間がかかる可能性も高い。頑張るとしたら別の選択肢を考えたほうがいいと思い、退職することを決めました」
組織に属さず働くメリットは、スピード感と働き方の自由さ。
「稟議を待つことなく自分の判断でフットワーク軽く動けますし、アイディアをそのままクライアントに渡せることが魅力です。会社員だと評価されるまでに時間がかかる印象がありますが、ひとりで仕事をしていると感謝される瞬間が日々ありますし、仕事ぶりを認められて新しい案件のご相談をいただく機会も多い。人伝いでご縁がつながっていくのが嬉しいです。土日に仕事をすることもありますし、平日に趣味のゴルフに行くこともあります。その自由さは独立のメリットです」
仕事を受ける際に大切にしているのは、自分がワクワクするかどうか。イベントの運営やインバウンドツアーの企画、ECサイトでの商品の販売など、広報業務から大きくはみ出してプロジェクトに携わることもしばしば。
「経験したことがあるかどうかはあまり考えません。それよりも、ワクワクしたら多少リスクがあっても挑戦するスタンス。基本的にはひとりで仕事をしていますが、経験のない分野では知見のある人の力を借りて一緒にプロジェクトを進めています。大きいイベントを組むときにはフリーランスのPR仲間にメディアへの声かけを手伝ってもらっていますし、今年の春から講師を務めている『ひとり広報アカデミー』の生徒さんたちに、インターンとして手伝ってもらい乗り切ることも。ひとりだからこそ、その時々でチームを組めますし、働き方を自由にデザインできることは大きな魅力だと思います」
管理職になるほうが独立よりリスクは少ない!?
当然、組織という後ろ盾がないからこその不安定さや、仕事をシビアにジャッジされる厳しさに直面するのもフリーランスの宿命。
「独立にはリスクが伴います。『責任を負う自信がない』という理由でマネージャーを躊躇している人が、キャリアチェンジの選択肢として独立することはおすすめしません。会社に所属して管理職になるほうが、フリーランスよりも断然リスクは少ないはずですから」
もちろん、マネージャーよりもプレイヤーとして活躍していきたいと強く思うなら独立もあり。今はフリーランス向けに仕事を斡旋する人材会社もあり、以前よりリスクを負わずに独立できる環境にあるという。
「スタートアップ企業など、部署として広報を持たない会社からスポットで案件が来ることも増え、フリーランス広報の需要が高まっているのを感じます。パソコンとスマホさえあれば初期投資をかけずに独立できますし、遠方にいるクライアントの仕事もリモートで受注することが可能。いずれにせよ、仕事の向き不向きはやってみないとわからないですよね。私もいまだに広報が向いているのかどうかわからないので(笑)。もしも管理職になる貴重なチャンスが巡ってきたらぜひチャレンジしてみてほしいし、独立に興味があるなら、副業から徐々に始めてみるのもいい。リスクと責任を負うからこそ、仕事はさらに面白くなるはずですから」
「管理職試験での失敗をきっかけに独立することを決意しました」
「フリーランスはリスクもあるけど自由もある!」
小野さんのHistory
21歳 2002年 | 株式会社AOKIホールディングス入社 |
23歳 2004年 | 2年後に退社しフランス・パリへ留学 |
24歳 2005年 | ハイアット リージェンシー東京入社 |
29歳 2010年 | 外食業界向けニュースメディアでライター・編集に携わる |
31歳 2012年 | 株式会社ABC Cooking Studio入社 |
管理職を選ばなかった 35歳 2016年 | |
36歳 2017年 | PR会社「EAT UNIQUE」設立 |
管理職になる? ならない? 小野さん的回答
向き不向きを決めつけず、ワクワクするほうを選んでみて
3. やりがいは?忙しさは?お給料は? リアル30代管理職の匿名座談会
メーカー・課長職
A子さん(34歳)
既婚。6年前に転職し、2年前から企画部のマネージャーに。夫が主夫として家事を担当。
IT系・課長職
B子さん(36歳)
未婚。2018年にIT広告の企画を行うシニアマネージャーに。ストレスは趣味の登山で発散。
広告系・部長職
C子さん(32歳)
既婚。人材会社を経て2018年に中途入社。2019年にマネージャーに、2021年に部長へ昇格。
中間管理職ならではの悩みや孤独感に直面することも
A子 私が管理職になったのは上司が抜けた外的要因もあったけど、半分は自分でも目指していました。
B子 管理職になる前提でアシスタントマネージャーを経験したから、私も昇進の不安はなかったかな。
C子 うちの会社はある日突然抜擢されるパターン。昇進は想像してはいたけどあまりに急で驚きました。マネージャー時代、メンバーの悩みを聞いたりモチベートするのはめっちゃ得意で。ただ、部長に上がったとき、上司から「マネージャー業務ばかりしてるんじゃない。中長期の事業プランをつくれ」と怒られて。誰もやり方を教えてくれないから一旦ネットで調べたけど、新規事業だったので当然情報は落ちてなくて(笑)。初めてのことを突然ポンッと任されるのは死ぬほど大変だったし、最初はかなりの挫折を経験しましたね。
A子 それは大変そう……。私の場合は直属の上司が辞めて暫定的に営業の部長が企画を兼務していた状況があったんです。その人は企画への理解がないから社長の承認を得る会議もほぼ私に丸投げ。「誰が最終的に責任をとってくれるんだろう」という不安はありました。頼れる上司がいなかったのはしんどかったな。
B子 愚痴や不安を部下に言うわけにいかないしね。
「愚痴を言える相手が減った!昇進したことによる孤独感は人脈づくりで乗り越えました」
A子 そうそう。私はそれまでに仕事でつくった人脈をフル活用して、他業種で管理職をしている知り合いに言える範囲で相談したりしていました。今の上司も私の提案を自分の提案として発表したり、手柄を横取りしたりするから本当に嫌。中間管理職ならではのモヤモヤや孤独感はけっこうあるかも。
B子 私の場合、一日会議で埋まってしまうことや、承認系の作業が想像以上に多いのが不満。実際になってからのギャップに悩むことはあるよね。
C子 わかる。管理職になってみて、あらためて自分の知識や責任者としての覚悟が足りていないことに直面して、ヘコんだりすることも増えました。ただ、役職が上がった分、ある程度給料がUPしたのはメリットかも。私は給与査定も任されていて、メンバーより低くならない程度の差分をもらっています。
「管理職になって給料はUP!業務量は必ずしも増えるわけではないと思う」
B子 私は1.5倍くらい上がったかな。
A子 私の場合、管理職になると残業代が役職手当に含まれるから、メンバー時代と月給はほぼ変わらず。トータルの年収が少し増えた感じ。ちなみにうちの部のメンバーたちはみんな、面談のたびに「あの人のココが嫌」とか好き勝手言うから困ってて(笑)。全員の事情をくんでいたら組織は回らないし、人間関係の面倒くささも管理職ならではかも。
B子 メンバーに人事評価を伝えるときなんかは特にコミュニケーションの難しさを感じるよね。以前、自己評価が高めな、年上の男性メンバーに厳しめの評価を伝えたら気を悪くされてしまったことが。
C子 すごくわかる。自己評価が高い人には、事前に高めの目標を伝えておくのが大事だよね。そういう手柄を挙げて目立ちたい、評価されたいって人はプレイヤーでとがったほうが絶対にいい。逆に自分を客観視できて謙虚なタイプこそ、管理職の適性があると思っていて。そういうメンバーには強みを伝えて励ますだけじゃなく周囲にも「あのコを次の管理職候補に」とアピールするように心がけています。
B子 管理職に向いていそうだなと思う部下はいるけど、実際になりたい人は少ない印象。
C子 仕事量が増えると思っている人が多いよね。一日の時間は物理的に変わらないし、管理職になったからといって働く時間が2倍になるわけじゃない。業務量はそれほど変わらないのになーって思う。
A子 できないことは潔くあきらめるというのも大事かも。私の場合は家事が苦手なので、忙しくなると掃除や洗濯ができず、そんな自分にイライラしちゃっていて。今は夫が主夫として家事をしてくれるようになったのでストレスが激減。キャパオーバーにならずに仕事に集中できるのはありがたいです。
C子 家庭はもちろん、仕事においてもあきらめは大事。忙しすぎて処理できないことは優先度を決めて「来週にさせてください」と調整し、切り捨てるようにしています。そういう調整力だったり、前もって期待値をコントロールすることは重要だよね。
B子 全部を完璧にこなそうと思うまじめな人はつぶれちゃうかも。ある程度手の抜き方を知っている人のほうが長く活躍できると思います。私は管理職になってからかなり図太くなりましたから(笑)。
C子 わかる。メンバーから「C子さんみたいに働けない」と言われることもあるけど、実際は10個依頼されたうちの重要な6個くらいしかやっていないし、友達との時間を優先することだってある。要領よくやっているだけで、裏ではけっこうサボっています(笑)。
「全部完璧にやるのはあきらめる!管理職になってから図太くなったと思います」
A子 次の世代のためにも、いろんな人が管理職になってロールモデルのバリエーションを増やすことも大事だよね。子どもがいる人や、趣味やプライベートを大切にしている人が残業せずに管理職として働くこともできると思うし、社会全体が女性活躍を推進している今はすごくチャンス。昔より自分のスタイルで働くことが許容されていると思います。
C子 心の底から管理職が嫌ならすすめないけど、少しでも気持ちに余裕があるなら踏み出してみてほしい。
A子 あと、私は仕事に納得感がない人ほど管理職をおすすめしたいです。メンバー時代、会社の決定にモヤモヤすることが多かったんです。でも管理職になってからは決定に至るまでの経緯が見えるし、自分で仕組みを変えられることも知りました。
C子 方針決定の当事者になれることを前向きに考えるか、それを責任ととらえるかってことだよね。
B子 役職が上がると裁量が持てて成長できるし、自分が磨かれている実感もあります。自分たちの働きやすさは、自分たちでつくっていけると思います。
裁量が持てる分、自分で働きやすさをつくっていける!
4. 管理職を取り巻く現状と今後の対策は?“管理職の今”がわかるキーワード10
本来は喜んでいいはずの“昇進”。なのに、管理職になるのを嫌がる人がここまで多いのはなぜなのか。『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』の著者が、その原因や有効な対策を詳しく解説!
パーソル総合研究所
小林祐児さん
NHK放送文化研究所、総合マーケティングリサーチファームを経て現職。労働・組織・雇用に関する多様なテーマを研究。著書に『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)など。
【現状1】女性役員比率19%の目標
「これは政府が2023年に発表した目標。男女共同参画局が公表した2022年時点のデータによると、女性役員比率の平均は、日本以外のG7加盟国の38.8%に対して、日本のプライム上場企業は11.4%でした。労働力としての女性の割合は増えている一方で、役員および管理職がなかなか増えない原因は日本企業の昇進構造にあります。総合職の社員を平等に選抜するため時間がかかり、管理職になる平均年齢は他国と比べて10年ほど高い。女性にとっては出産して未就学児を育てる年齢も選抜期間に含まれるため、管理職になることを早々にあきらめてしまう人がとても多いんです」
【現状2】プレイングマネージャー化
「“プレイングマネージャー”とは、部下の指導などを行うマネージャーと、現場仕事を行うプレイヤーとしての役割をともに担う人のこと。少子高齢化による人手不足や成果主義のトレンドによって、バブル崩壊後から増加の一途をたどっています。成果を上げ続けるためにプレイヤー業務を余儀なくされ、その結果、マネージャーとしての役割がおろそかになり部下が育たない。管理職のファーストキャリアである課長クラスが陥りやすい、悪循環のひとつです」
【現状3】360度評価
「多面評価とも呼ばれ、上司や部下、同僚など複数人で従業員を評価する手法。評価の客観性を保てるなどの理由から近年、多くの企業が取り入れています。しかし現時点では、その効果は微妙。なぜならば部下が上司を評価する場合に、好き嫌いで評価してしまうことが多いんです。部下からよく思われていないと知った上司はショックを受けて、ますます育成に消極的になる。上司と部下の関係性が悪化してしまった、という話をよく聞きます」
【現状4】複線型人事制度
「複数のキャリアコースから、従業員が自ら選択できる人事システムのこと。近年、人件費の高い管理職を増やさずに長期雇用を続けるため、部下を持たない“スペシャリスト等級”を設ける企業が増加。その影響で誕生した制度です。管理職になりたくない人には有益ですが、管理職からすれば、負担なく年次に見合った給料をもらえるスペシャリスト等級はズルいと感じますよね。しかも管理職には残業代を払わない企業も多いため、責任が増えても給料はほとんど変わらず管理職=罰ゲームのように感じられる原因となっています」
【現状5】回避型マネジメント・マイクロマネジメント
「プレイングマネージャー化が進むことで忙しくなった上司は、部下のミスで自分の業務がさらに増えることを防ぐため、仕事を細かく指示する“マイクロマネジメント”を行うようになります。さらにハラスメント対策の厳格化によって、部下を叱らない&誘わないことで摩擦を回避する“回避型マネジメント”もトレンドに。それらの相乗効果によって部下を育てる余力も気力も失い、最終的には自分で部下の仕事を負担してしまうことも、管理職の激務化につながっています」
【対策1】管理職候補の早期選抜
「優秀な人材の流出や昇進意欲の低下を防ぐために有効なのが、管理職候補を早い段階で選抜し、エリート意識を持たせる育成方法。入社後5年も見ていればデキる部下とデキない部下の差は歴然です。優秀な人ほど自分の能力を自覚し、年功序列の平等な昇進を待ち続けるのは馬鹿馬鹿しいと感じて転職してしまう。特に女性には、出産などを経て出世をあきらめてしまう前に昇進の可能性を伝えることが重要。ダイキン工業はこの方法を実践し、女性の管理職が増えました」
【対策2】管理職分業
「管理職業務の分業制をいち早く取り入れた日揮グループは、マネジメントを担っていた部長と部長代行のうち、部長代行職を廃止。代わりに“CDM(キャリアデベロップメントマネージャー)”と“PCM(プロジェクトコーディネーションマネージャー)”というポジションを創設し三位一体で分担する体制に変更しました。管理職からは『業務が明確になった』、部下からは『相談がしやすくなった』などの声が上がり、ポジティブな変化があるそう。管理職の負担を減らすための解決策として注目されています」
【対策3】クロスカンパニーメンタリング
「女性の昇進意欲やリーダーシップの向上を目的として、経済産業省が推進している、他企業同士の組み合わせで行う企業横断型メンタリングプログラム。実践する大手企業の報告では、参加者の多くが意欲の向上を実感するなど、効果がてきめんに表れていました。最大のメリットは、他社と意見交換することで、自社のよいところを認識できるようになること。また、こういったプログラムに選ばれる=自分は期待されているんだ!と、モチベーションもUPします」
【対策4】ネットワーク・アプローチ
「管理職が抱える問題の中でも、近年特に重大化しているのがメンタルヘルスの不調。原因のひとつは、悩みを共有できる仲間の不在です。経営陣から部署の業績を比較されることで、管理職同士はお互いをライバル視しがち。同性の管理職が少ない女性はなおさら孤独に陥りやすいんです。そうならないためには、ネットワーキングが重要。社内だけではなく、社外にも管理職の人脈をつくることで、愚痴を言い合えて心の負担が軽減します」
【対策5】脱・リーダーシップ幻想
「管理職のプレイングマネージャー化に加えて、メディアによる偏ったリーダー論が広まり、ひとりで問題解決すること=優れたリーダーシップだと思い込む人が増えてしまいました。本来は、部下を通じて成果を出すのが管理職の仕事。しかし、そういったマネジメント方法を管理職候補者に教える企業は現状ほとんどありません。上司はフィードバックの与え方を、部下はフィードバックの受け取り方を、それぞれ一緒に学べる研修制度の必要性を提唱しています」
管理職はやりがいも多く転職にも有利に働く!?
「『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』を執筆した背景には、女性の活躍推進を題材にしたコラムへの大きな反響があります。業務は増える一方で給料があまり上がらない、そんな罰ゲーム化の影響を最も受けやすいのは女性で、それが日本全国のあらゆる業種において女性の社会進出が進まない原因になっています。
アンケート結果のとおり、現在日本で管理職を志す女性はとても少ない。無理をする必要はないけれど、迷っているなら挑戦する価値はあると思います。家族との両立にハードルを感じる人が多いですが、現代は家事代行やベビーシッターなどのサービスがあります。家事・育児をアウトソーシングしない日本の文化は、女性活躍を妨げる要因のひとつ。アメリカではパワーカップルほど子どもを預け仕事や夫婦の時間を確保します。家事も育児も適度に人に任せれば、選択肢はぐんと増すはずです。
管理職の現状は厳しいですが、実は辞める人は意外と少ないんです。それは苦労相応のやりがいがあるから。収入の向上や、部下の成長を実感することの喜び、そしていちばんは、非管理職にはないビジョンが持てること。大きな仕事を任されて社内外で自分の裁量の範囲が広がりますし、経営陣や投資家との関わりも増えて視座が高まります。
管理職になると転職が難しくなると考える人もいますが、管理職は目標設定や組織運営など、様々なマネジメントを行う中で、ピープルマネジメントと呼ばれるスキルが身についていきます。抽象度が高い能力ではありますが、きちんと言語化さえできれば転職は可能。女性の管理職経験者を求める企業は多く、現役プレイヤーよりも需要が高いともいえるかもしれません」
撮影/花村克彦〈Ajoite〉 イラスト/3rdeye 取材・原文/中西彩乃、松山 梢(インタビュー、座談会) ※BAILA2025年1月号掲載