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【震災から11年。東北で未来を見つめるあのひとの仕事 vol.4】シェアハウス運営で『場所の価値をつくる』仕事

当たり前の日常が一変した11年前の震災は、東北に生きる女性たちの働き方にも、大きな影響を及ぼしました。あの日、そして今の彼女たちの仕事とは。vol.4は空き家にリノベーションを施し、シェアハウスを運営する渡邊享子さんを取材しました。

vol.3 震災から11年。スパリゾートハワイアンズで『笑顔をつなぐ』
vol.2 震災から11年。地域紙で震災を『記録し、伝える』仕事
vol.1 震災から11年。保険会社で人びとの『生活を支える』仕事
渡邊享子さん

株式会社 巻組

渡邊享子さん


代表取締役・ 34歳
1987年生まれ、埼玉県出身。これからの5年間で200軒のシェアハウスを建てることを目標にしている。

「街を盛り上げようとする前向きな石巻の空気に心を打たれました」

株式会社 巻組

楽しくて通っているうちに移住を決めていた

空き家を買い取ってリノベーションを施し、シェアハウスとして運営する事業を行っている渡邊さん。拠点にしている宮城県石巻市の住宅事情は、この10年で大きく変わったという。

「震災時に2万2千戸の住宅が津波の被害に遭ったのですが、その後、復興予算で約7千戸が供給されました。住宅供給が進んだのはいいけれど、10年がたった現在、人口は約2万人減少。空き家が多く放置されています。建築基準法上建て替えられない物件もあるので、1日利用から長期居住まで多様なライフスタイルにコミットする住宅に再利用し、移住に興味を持ってもらえるコミュニティづくりをしています」

銀行員の両親のもと、埼玉県の3LDKマンションで育った彼女が石巻と出会ったのは、東京の大学院で都市計画を研究していた頃。ボランティアとして訪れたことがきっかけだった。

「私の場合は単純に石巻が楽しくて通っているうちに移住した感じ。就職活動中も行きたい企業に出会えなかったし、東京にあまり執着もなくて。震災後は東京にも閉塞感や自粛ムードが漂っていましたが、石巻には街を盛り上げようという前向きで自由な空気が漂っていて、非常に心を打たれました

渡邊さん曰く石巻には「ラテン系」の気質があるらしく、「街のためになるなら頑張って」と、自宅をボランティアに開放してくれる方も多かった。

「サラリーマン家庭で育ち、水道がどうして出るのか、電気はどうしてつくのかなんて考えたこともありませんでした。石巻でのボランティア生活は、本当に生活に必要なものは何かに思いを馳せた時間でもありました。『今日は誰の家に泊めてもらおう』『お風呂はどうしよう』と考えることは、半キャンプみたいで楽しかったし、自分の生活をひとつずつ成り立たせていくことに充実感がありましたね」

仲のよさで解決できることは意外に多いと思っている

27歳で起業をするものの、初めから順調だったわけではない。

「立ち上げた当時は給料なんて出なかったけれど、それでも生活できたのはボランティア時代に生活レベルを極限まで下げたから。贅沢しなければ生活できるという楽観的な気持ちがありました。あとは人的資本。起業前に結婚して夫の実家に居候していたので、住む場所に困ることはありませんでしたし、洋服や食べ物は地域の仲間から買うことができました。仲のよさで解決できることって多いんですよね。そうして価値を回し合って気持ちよくつながり合っていれば、後々自分が助けられることもある。顔の見える距離で生活を成り立たせることは楽しいし、価値観が合う人の中で生きることは、なんだかすごく気持ちがいいです」

インタビュー中に何度も口にした「気持ちいい」というキーワードは、彼女の生き方や仕事を貫いている。

「私は1987年生まれのゆとり第一世代。『ゆとりはダメだ』なんて言われるけれど、最高じゃんって思うんです。会社はフレックス制にしていますが、やることさえしていればサボってもいい。日本人は働きすぎて生産性が下がっていると思うんです。無駄をそぎ落としてスリムアップする価値観は、日本をよくすると信じています

嫌なことはしない、楽しいほうを選ぶという信念を貫き通した渡邊さんは今、最高に気持ちよく働けているとか。

「経営者としては遅咲きだし、事業ですごく得をしているわけじゃないですからね(笑)。それならせめて、後悔しないように生きたい。時間場所にとらわれずに気持ちよく時間を使える働き方ができているのは、この土地に移住してこられたおかげだと思っています

仕事と震災のヒストリー

2011.3.11

23歳 東京の大学院に在学。ボランティアとして石巻に入る

肉体労働が主だったボランティア。東京で出会えない魅力的なクリエイターと知り合うきっかけにもなった

肉体労働が主だったボランティア。東京で出会えない魅力的なクリエイターと知り合うきっかけにもなった

24歳 修士論文を執筆中、生活拠点を石巻に移す
25歳 研究員として大学院に籍を置き、石巻で活動
27歳 それまでの活動を会社化することに。巻組を設立

シェアハウスだけでなく、店舗のリノベーションやお惣菜屋さんの事業開発など幅広く活動
シェアハウスだけでなく、店舗のリノベーションやお惣菜屋さんの事業開発など幅広く活動

シェアハウスだけでなく、店舗のリノベーションやお惣菜屋さんの事業開発など幅広く活動

31歳 第7回 DBJ女性新ビジネスプランコンペティション女性起業家大賞を受賞

撮影/misumi 取材・原文/松山 梢  ※BAILA2022年4・5月号掲載

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