宮崎県出身・二人の芸人の上京物語 おかずクラブオカリナさん 蛙亭イワクラさん
いつか上京し芸人を目指すつもりが偶然早まったオカリナさん。芸人として生きるなかで上京を決めたイワクラさん。「本当に何もない田舎、そこがいいところ」と話す宮崎県から東京に出てきた二人の、上京に対する想いとは。
「期間限定でも、周りに内緒でもいい、上京をあきらめる理由を探さないで」
「東京に慣れたい」と賞レースきっかけで上京
オカリナ いつか上京するつもりではあったけれど、20歳のときは本当にたまたま。私はもともと看護師を目指していて、学生時代に病院の奨学金を利用したんです。これは看護師として一定の期間働けば返さなくてもいい、という制度。じゃあその期間は働いてから芸人になろうと考えたんですよ。配属先の地域を選ぶときに、「関西弁で怒られるのは怖そうだから嫌だ」と思い、関東を選択。そうしたら、配属されたのが都内の病院だったんですよね。
イワクラ そうだったんですね。全然違う! 私の上京は芸人になってから、30歳になる年の春です。2019年に、初めて「キングオブコント」の準決勝に進出したんですよ。そのときの予選の会場が東京だったんですね。2日間あるんですけど、1日目が終わってホテルに帰ってひと息ついたら、ものすごく体調がおかしいことに気づいて。
オカリナ きっと知らずしらずのうちに負担がかかってたんだろうね。
イワクラ プレッシャーやストレスで体調をくずしたんだとすると、「これはなんとかしないとヤバいぞ」と思って。ストレス軽減のためには、東京に家があって、家から賞レースに行ける環境が必要だなと思ったんですよ……。
オカリナ なるほど。私は上京して看護師として働いた後、東京NSC(養成所)に通い始めたんですよね。最初から東京にいられたのはラッキーだったかも。最初から看護師を辞めて東京で芸人になるつもりだったし。上京ずみだったから、芸人になることを誰にも言わずに進められたし、よかった。
イワクラ 内緒にしてたんですか?
オカリナ うん。芸人になってからGWに帰省したときに、たまたま稽古が入ってバレたけど。連休中にいきなり東京に戻るのって変でしょ? だから「実は私芸人をやっていて……」と初めてそこで説明した(笑)。夢を持った高3から26歳まで、芸人をやりたいということすら明かさなかった。
イワクラ 内緒にするのもアリだと思います。私は地元から大阪に出ていくときに「続かないやろ」とか「無理やろ」とか言われたから。挑戦する必要はないって思わせてくる人がたくさんいたんです。内緒にすればよかったかも。
オカリナ 私は「言っても聞かないだろう」と思われていたのか、そういう経験はないな。親に初めて打ち明けたときも「うちからそんな子が出るなんて!」と驚いていた程度。親戚や近所の人には絶対言うなと口止めしたので、家族以外の人は私がテレビに出るようになってから知ったんだよね。
“30歳になる春に上京。21歳で大阪に出たときよりも気負わずに決意しました”
――IWAKURA
“20歳、就職先がたまたま東京。働いた後、東京で芸人を目指すとこっそり決めていました”
――OKARINA
田舎の閉塞感が苦手なら東京がきっと楽
イワクラ きっとオカリナさんのところもそうだと思うんですけど、田舎ってご近所づきあいが濃いじゃないですか。それがいいときもあるけど、面倒なときや向いてない人もいますよね。
オカリナ 誰が何してるか把握されてるし、平均から外れた人は噂される。
イワクラ そう。いまだに25歳までに結婚してないとツッコまれるとか、ありますよね。私は地元のあの感じが得意じゃなくて。東京は、誰も私のことなんか気にしてない。それが楽です。
オカリナ わかる。そういう人間関係のドライさは、東京のいいところ。
イワクラ 逆に上京して初めて気づける地元のいいところもあります。ある日、風のにおいがしないとか、窓から星が見えないとか、おしょうゆが違うとか、寂しくなっちゃって……。
オカリナ いきなり歌詞みたいなホームシックになっちゃった(笑)。
イワクラ 私、上京するときよりも宮崎から大阪に出るときのほうが「地元を出て都会に行くぞ!」という感覚が強かったんですよね。だからこのホームシックは大阪に出たときの記憶かも。だから、上京のほうは“環境を整えるための引っ越し”という感じ。
オカリナ 私もそう! 高校で寮に入ってるから、地元を離れて大きく環境を変えたのはそこが初めて。上京よりも、“遠くへ行く”最初の一発のほうが大変だった。だから一度そういう経験がある方はなおさら、フットワーク軽く上京してみるといい気がする。
イワクラ 意外と東京は怖くないですからね。私も上京したときは「方言でしゃべったら詐欺に遭う!」くらいおびえてたんですけど、そんなことなかった。
オカリナ 宮崎から「警察24時」とか見てると、「東京は危ない街だな」「怖いところだ」とか思っちゃうけど。
イワクラ でもそんなことはない。
オカリナ 意外と、街中にいきなり畑があってびっくりするしね(笑)。
私たちのせいにしてもいい。試しに上京してほしい
イワクラ あと、芸人にはとても優しい気がします。東京って仕事が細分化されてて、どこかにハマれるイメージがあります。“アニメ芸人”“地方出身芸人”とかでお仕事ができたりもするし、イベントのお仕事だったり、テレビや劇場以外の色々なお仕事もたくさんある。それもあって生きやすい。
オカリナ 売れっ子の芸人さんで、大阪でレギュラー10本とか持っていても、東京に出てくる。つまり、私たちのこの仕事は、東京だと幅を広げやすいってことなんだよね、きっと。
イワクラ そうですね。でもほかのお仕事の人も、東京に来ると幅が広がる人ってたくさんいると思うんですよ。
オカリナ 東京は聞いたことのない仕事してる人もたくさんいるから(笑)。だから、一回来てみるといいよね! 私の地元の友達、4人いて全員一回は上京してるの。ずっと東京にいる人もいれば、地元に帰った人もいるし、今はオーストラリアに住んでいる人もいる。半年くらいでいいと思うので、一度来てみて判断してはどうでしょう。違ったら帰ればいいだけなので、試しに。
イワクラ 迷って、反対されて、あきらめた人をたくさん見てきました。だからあきらめてほしくないんです。
オカリナ 上京をやけにすすめてる女がいたから、と思ってくれていいよね。
イワクラ はい! 迷ってるなら、ぜひ私たちのせいにして上京してください。
おかずクラブ
オカリナ
オカリナ●1984年9月28日生まれ。宮崎県出身。2009年、おかずクラブ結成。「女芸人No.1決定戦 THE W 2019」決勝進出。オカリナさんが食事をする動画をUPしているYouTubeチャンネル「ときどきオカリナ」が癒されると話題。
蛙亭
イワクラ
イワクラ●1990年4月10日生まれ。宮崎県出身。2012年、蛙亭結成。「キングオブコント2019」準決勝進出、「キングオブコント2021」決勝初進出。「イワクラと吉住の番組」(テレビ朝日)などレギュラー番組多数。
山口県出身・ ビジネスウーマンの上京物語 起業家 千田絵美さん
広島で小学校の教師をしていた千田さんが東京でPR会社を起業するまでの道のり。カギを握るのは、やはり“上京”だった。
「準備は4割でもいい。自分が生き生きする場所に来られた」
広報&PRの仕事のため上京。就職が決まったのは引っ越した後でした
幼い頃からの夢だった小学校教諭を目指し進学。臨時教員を3カ月務め、向いていないと実感した千田さん。 「真逆の仕事、そしてビジネスの基本を学ぼうと考え、広島で営業に転職しました。そこで働いている頃、広報・PRという仕事を知ったんです。憧れた理由はけっこうミーハー(笑)。林真理子さんの小説『コスメティック』を読んで、その職業でバリバリやっている登場人物の姿から“こんな仕事をしてみたい!”と思ったこと。さらに当時よくテレビに出ていたベンチャー企業の広報の女性を見て、カッコいいなと思ったこと。この二つが理由です」
25歳で上京。その転職活動の仕方はチャレンジングなものだった。
「広島にいながら転職活動も考えたのですが、当時はリモート面接などほぼない時代。これは難しいかもしれないと思い、先に会社を辞めて東京に引っ越しました。上京直後から毎日2〜3社の面接を受け続け、2週間後に就職先が決定。でも“背水の陣”のような追い詰められた気持ちではありませんでした。2〜3カ月は生活できる貯金があり、もしそれが尽きてしまったら帰ろう。働いてみて向いてなかったらまた新しい道を探そう。とりあえずやってみるしかない。そう思っていました」
最初の就職先は当時上場目前のベンチャー企業。社長秘書兼広報だった。
「それ以前は東京を遠い場所、怖い場所だと漠然と思っていました。そのイメージは上京してガラリと変化。人間関係に恵まれたこともありますが、手探り状態の広報の仕事に没頭し、同年代の友達もでき、とにかく忙しくて怖さを感じている暇もなかったですね」
3年後には大手メーカーに広報として転職。ここで結婚と出産も経験。
「上京したときも、転職したときも、まだ“絶対に起業する”とは思っていなかった。ですが、幼い頃から漠然と“子どもといる時間をつくりやすい、自分で時間をコントロールできるような働き方をしたい”とは考えていました。それが独立・起業につながったんです」
独立を心に決め、次の転職先は経営者の仕事ぶりを間近で見られるスタートアップ企業のPRマネージャー。その後36歳で起業した。順調なステップアップに見えるが、準備万端ではなかったそう。
「いつも準備は4割くらい。4割って少ないですよね(笑)。でも私は、準備万端になるまで待っているうちに、できなくなってしまうほうが怖いんです。やってみたいことは絶対にやりたい。だから、タイミングが来れば準備できてなくてもチャレンジしてきました。起業したタイミングも、勤め先の体制が変わることになり“また転職するなら、もう起業しようかな”と。そこからすぐに登記をとって……。上京したときと似たスピード感でしたね」
ライフスタイルのように上京の理由もタイミングも多様化してほしい
準備や覚悟なんてそれほど必要ない。来たければいつだって東京に来たらいいと千田さんは話す。
「リモート勤務なども増えてきましたが、私はずっと東京で働くつもりです。メンバーと空気感やトレンドの読み方やつかみ方を共有することはとても大事ですから。そして私はミーハーなので、トレンドに直接触れられる、にぎやかな場所で自分の心を満たしたい、という感覚ですね(笑)。逆に“地元に帰って広い家でリモートで働くほうが生き生きする”という人もいますよね。今はどこでだって働ける時代。現代の上京は、“必要性”ではなく、“自分が生き生きできる場所で暮らす”という感覚で決めていいと思います。さらに、ひと昔前は何歳までに結婚、何歳までに出産というイメージを漠然と持ちながら働いている人が多かった。でも今は、それも多様化していると思います。私自身、25歳で上京したときは、遅かったかも……と焦っていましたが、振り返ればそんなことなかった。今ならなおさら“何歳では遅い”ということはないと思うんです。私の会社にも、30歳前後で地元の安定した職を辞めて上京した女性がいます。上京したいと思う理由は何でもいいです。楽しそうとか、住んでみたいとか、そんな理由で全然いいと思います。“上京してみたい”。そう思った自分の気持ちを大事にして、チャレンジしてみてほしいです」
History
22歳 小学校教諭の夢をかなえるも、数カ月で退職
24歳 広島で営業の仕事をしているとき、広報やPRという仕事を知る
25歳 上京。ベンチャー企業で社長秘書兼広報の仕事に就く
28歳 1社目よりも規模の大きい企業に広報として入社
30歳 出産
33歳 ベンチャー企業にPRマネージャーとして入社
36歳 広報・PRエージェンシー「フロントステージ」を起業
上京1社目の広報時代。上場する女性社長の取材対応のためテレビの撮影チームと
広島時代。営業として働いていたときの仲間たちと
大人の上京、Q&A スーパー バイラーズ編
大人になってから上京した5名のスーパーバイラーズが上京に迷う人が悩みがちなポイントにアドバイス! 家賃や人間関係などリアルな不安も解消。
迷っている人が知りたいのはこれ! “大人の上京”質問List
Q1上京したら「イメージと違った」ことは?
Q2東京で住む場所を選ぶときの指針は?
Q3東京で働くって、実際どうなの?
Q4東京の人間関係って冷たくないの?
Q5上京して感じるメリットはどんなこと?
【29歳で上京】理由は…夫の転勤(小野絵里さん)
「夫の転勤で8年住んだ大阪から東京へ。興味のあったフラワーアレンジを仕事に」
A1「よくも悪くも、イメージとの差はなかったかも。思ったより芸能人の方を見かけたので、“本当にいるんだ!!”と驚きました(笑)」
A2「ひと口に“東京”といっても広いので、探せば家賃が高くないところもあります。何に重きを置くかを決めて、それに合う条件の物件を探しましょう!」
A3「東京は仕事のチャンスがたくさんある! 私はもともと介護職でしたが、上京をきっかけにフラワーアレンジの仕事へ転職。今勤めている生花店は、フラワーアレンジメントの資格を持っていない未経験の私を働かせてくれました。そこで働きつつ屋号を取り、個人でも依頼をいただくようになっています。人脈をつくる上でも、東京にいることはとても大きいですよ」
A4「東京は新しい人でもコミュニティに入りやすい環境。けれど様々な人がいる分、仲よくなる相手をつくるのは大変かも。今はSNSがカギになると思うので、積極的に使ってみてください」
A5「今の職場は高級ブランドの生け込みも手がけるお店ですが、入社時は知らなかったんです。そういう機会があるのは東京ならではですよね」
【28歳で上京】理由は…自分の転勤(松田みさきさん)
「やりたい職種にチャレンジするため異動を希望し、滋賀から単身赴任!」
A1「イメージと違う、というよりイメージ以上だったのは家賃に対する家の狭さです! 家賃が高いのに日が当たらない物件も多い……」
A2「都心に近いほど家賃は上がり、その分部屋も狭いです。都心に住んで便利さを取るか、郊外に住んで広さを取るかは決めておいたほうがいいです。私は便利さを取って狭い家に住んでいますが、部屋の広さは心のゆとりにもつながるのだなと感じるようになってきました(笑)」
A3「地方よりも今どきの働き方がしやすい雰囲気はある。他社の人とも交流しやすいのはメリットです」
A4「社会人になると友達がつくりにくくなるのはどこにいても同じ。でも、東京にいたほうが出会うチャンスは増えると思います。ただ、そこから友達になれるかは自分の行動次第。“東京だから友達をつくりやすい”というわけではないかもしれません」
A5「はやりのものや最新のものはやはり東京発が多いですね。イベントや店舗も主要都市である東京は優先的に開催・出店されます。仕事に関しては、リモートで働くことができれば東京である必要はないと思います」
【32歳で上京】理由は…結婚・夫の転勤(大山麻央さん)
「夫の転勤で大阪から東京へ。同時に金融からアパレルに転職しました」
A1「満員電車ばかりと思っていましたが、路線によっては通勤時もストレスがないくらいにはすいています。日々のスピードは大阪の速さに慣れていたので、むしろゆっくりに感じました(笑)」
A2「夫の仕事が激務なので、夫の職場から近いことが最優先事項でした。私の職場からも通勤時間30分ほどのところを探したので、東京の中心地に住んでいます。その代わり少し築古で狭めの家ですが、大好きな猫も飼える物件なので満足しています」
A3「特に“東京だから~”という違いは感じません。場所よりも、どの会社で、どういう働き方を選ぶかだと思います。ただ、東京は人が多く、代わりの人員も見つかりやすいので、産育休は取りやすい気がします」
A4「私の場合は学生時代の友人がわりと東京にいるので、久しぶりにつきあいが復活して楽しいです。イベントごとも多いですし、有名な出会いスポットもあるのでシングルの人も出会いが増えると思います♪」
A5「東京出身の人は意外と少なく(笑)、様々な土地で育った、様々なバックグラウンドのある方に出会えるのが楽しいです」
【29歳で上京】理由は…キャリアアップ(横井万里子さん)
「30歳直前、最後のチャンスかも?と、愛知から上京し広報職にチャレンジ」
A1「おしゃれなスポットやお店がたくさんあるけれど、ありすぎて迷う。行動範囲は意外と広がらないですね(笑)」
A2「東京はリモートできる会社も多いので、住宅設備は大切! 無理しない範囲の家賃でも、自分の譲れない条件3つはかなう家がベスト。ずっと家にいるのがしんどいタイプなら、家の近くに仕事ができそうなカフェやスペースがあるかも大切なポイントです」
A3「イメージどおり優秀な人は多いですが、そういう人ほど面倒見がよく、尊敬できる人が多い印象。職場環境の当たりはずれは、地元と変わりないかも。でも、転職は当たり前だし、挑戦して失敗しても、巻き返すことが可能な環境が東京にはある。臆せずどんどんやりたいことをやってみると意外と応援してくれる人が多いですよ!」
A4「同じように地元を離れて寂しいと感じている人も多くいるので、動けばつながりができやすいし、そういう状況でできた絆はむしろ強いかもしれません」
A5「感度が高くいられる。逃げたくなったら逃げられる選択肢がたくさんある。そしてなんといっても、楽しい!」
【26歳で上京】理由は…住んでみたくて(岩見果歩さん)
「大学も就職も地元の兵庫。東京への思いが募り、思い切って転職&上京」
A1「地元と同じ金額を出しても、食事の美味しさは下がっているような気がしました。地元のほうが安くて美味しいものがあったかもしれません」
A2「実家が駅から徒歩15分と少し遠かったので、東京では“絶対に駅から近い家!”と決めていました。一人暮らしなので、知らない街で怖い思いをしたくなくて。比較的栄えている駅の近くにしようと思っていましたが、その“駅”をどこにするかについては、決め方がわからなかったので半ば博打的に決めました(笑)」
A3「職種や会社、部署によると思いますが、私の環境はあっさりな感じ。陰湿に感じることも少ないような気がします」
A4「Instagramやスーパーバイラーズの前に参加していた雑誌の読者組織で、知り合いや友達を増やせました! 座談会などを通して共通の好きなものがある子と仲よくなったり、Instgramで相互フォローになって趣味が合いそうな子を誘ってカフェに行ったり、自分から動くと友達をつくる手段はたくさんあります」
A5「近くの大きな駅に行けばなんでもあること。もう東京から離れられない気がします」
撮影/nae. 取材・原文/東 美希 ※BAILA2023年8・9月合併号掲載