できないと言ったら相手が困るかも。嫌われるかも。評価が下がるかも。言っていいの? 逃げや甘えじゃないの? 相手との関係を壊さず上手に伝えるには? そんなもやもやに読者が様々な角度から回答。「できません」についてあらためて考えます。
1.「できません」と言える? アンケートから分かったみんなの実情
Q.「できません」と言えますか?
回答が大きく二分する結果に。「言いたいけれど相手を不快にさせるのが怖い」「言えないから仕事をいつも抱え込んでいる」という言えない人のストレスフルな声の一方、言える人からも角が立たない言い方や言った後の関係性にヒビが入らないようにする方法を知りたいとの声が
Q.「できません」が言えない理由は?
断るのがとにかく苦手 34%
頼られるのが嬉しい 17%
伝え方がわからない16%
できないと思われたくない 16%
できないと認めたくない 10%
自分のほうがうまくできるから 3%
その他4%
Q.「できません」が言えずに後悔したことは?
約7割が後悔あり。「仕事を断れず、職場でも家庭でもしわ寄せが出て、結果的に周囲に迷惑をかけた」「できない自分を認めたくなくて、ハードワークの末体調をくずした」「友達にすすめられ気が乗らないコンサートに行って楽しめなかった」など仕事でもプライベートでも後悔の声が続々
Q.誰に言うのが難しい?
1位 上司 27%
2位 先輩 19%
3位 社外の人 14%
4位 同僚 12%
5位 後輩・友人 8%
7位 夫・恋人 6%
8位 両親 4%
9位 その他 2%
Q.周りに「できません」がはっきり言える人はいる?
「いる」が7割以上。具体的には「会社の先輩が『これはできますけど、それはできせん』と役員含めどの人にも言えて尊敬」「断りにくい雰囲気の会社の忘年会を『それは義務ですか』と言い切った後輩が忘れられない」など。自分には言えないことを言える人が印象に残った声が多かった
アンケートの結果、できませんをもっとうまく言いたい読者が多数!
「言いたいけれど言いにくい」代表格とも言える「できません」。相手に不快な思いをさせたくない。よい関係性を保ちたい。でも自分の心にも余裕が欲しい。その間で葛藤する切実な声が多く寄せられた
できませんと言えずに失敗・後悔したことは?
ハードワークだったのに土日返上してまでやって、結果体調もくずし、最終的に自分にも周りにも負担をかけることに…(33歳・IT)
一回引き受けたことで何でもやってくれる人だと思われて、“できませんを言わないキャラ”認定されていると気づいた(34歳・建設営業)
誘われるまま遊びの予定が入るととても疲れる(32歳・会社員)
友達との食事のお店の予約や、人数調整など…なぜか毎回自分がやっている。「できません」っていまさら言えない…(30歳・マスコミ)
家族の誕生日にも残業(33歳・銀行)
本当はこんなときに「できません」と言いたい!
苦手なことを「できません」と言えたら、とても心が楽になると思う(35歳・営業)
仕事や自分の悩みなどで手いっぱいのときに偶然友人にも相談事をされたとき。「私だっていっぱいなのに…今は余裕ないわ…」と思っちゃう(42歳・メーカー製造)
これ以上引き受けると、プライベートの時間を犠牲にしないといけなそうなときに、仕事をほかの人に任せる、振れるようになりたい(33歳・IT)
あまり意味のない仕事。自分じゃなくてもよいのでは?と思うことは正直、断りたい(34歳・営業)
心に残った、あの人の「できません」
今年の日本アカデミー賞の授賞式で、俳優の安藤サクラさんが「“子育て”と“撮影”は今のところうまくできない」とスピーチされていたこと。自分も仕事との両立に悩んでいたので、勇気をもらいました(35歳・会社員)
リモートから出社に切り替えていく部署が増えていくなか、チームの一人が「僕は今の在宅が快適で、支障もないです。無理に出社とするのであれば、僕はしたくありません」と堂々と言ったこと(33歳・メーカー)
現場の忙しさがわからない上司に、リーダーが「現在の状況でこの業務はできません」とはっきり伝えていて、格好よかった(40歳・介護)
2.そもそも「できません」って言えたほうがいいんでしょうか?
言いにくい、言っていいのかわからない。結局、言えない…というあなたへ。そもそも「できません」って言えたほうがいいんでしょうか?という疑問に、日野瑛太郎さんと犬山紙子さんがアンサー。二人とも「言えた方がいい」と断言! その理由と言うことで何が変わるかを仕事とプライベートの両面から考えます。
働く視点から…
ソフトウェアエンジニア
日野瑛太郎さん
経営者と従業員の両方の経験から、働き方に関する意見をブログやサイボウズ式への寄稿などを通して発信し続けている。
「できる」と言ったのに「できない」ことが結果、人をいちばん失望させる
仕事をしていると、自分のできる範囲を超える要求をされることがあります。そんなときは勇気がいりますが、仕事の責任を果たすためにも、できないなら「できません」と言うことが大切だと僕は思います。アンケートに「相手を失望させたくない」という声がありましたが、失望がなぜ起こるのかを考えると、期待にこたえられないときに起こります。なので、「できる」と言っておいて、いざやってみたら「できない」となった場合、結果的に相手に与える損失が大きく、最も相手を失望させることになってしまいます。相手の期待値をコントロールすることは働く上での重要なスキル。期待値が高すぎるときは「できません」と言って下げるのも仕事のうちなのです。
「できません」が言えるようになると、仕事全体を通して、コミュニケーションよりも仕事そのものに集中できるようになり、クオリティやアウトプットが上がっていくと思います。また、人間的にバランスのとれたアサーティブな人になれるのではないでしょうか。アサーティブとは、相手を尊重しながら適切に自己主張をするという意味の言葉です。現代社会は、攻撃的な人は周りから人が離れていき、逆に受け身な人はつぶされてしまうリスクも。心身ともに健やかに働き続けるためにアサーティブでいることは大事だと感じます。
日野さんの「できません」の判断基準は?
❶技術的にできない
❷予算的にできない
❸時間的にできない
「自分が抱えている仕事量や内容は、基本的に自分が最もよくわかっているはず。技術的、予算的、時間的にできない可能性がある場合は、きちんと伝えるのが誠実です。そうしないと、できる方向で話が進んでしまって最終的に大変な事態に陥ることも。僕自身も過去にできると言った手前、休日出勤を重ねて間に合わせた経験から、余裕をもった安全な基準で判断するようになりました」(日野さん)
家族の視点から…
イラストエッセイスト
犬山紙子さん
女性の生き方やコミュニケーションなどについて発信。児童虐待防止チーム「#こどものいのちはこどものもの」を発足。
「できません」を受け止め合える関係は人生をより持続可能なものにする
家事や育児、介護などは、できなくてもやらなければいけない現実があり、家族の誰かが無理をしてしまうことも。でもそれは持続可能ではありません。「できません」を受け止め合える関係と、家族の「できません」を第三者の力を借りて解決する選択肢が必要です。
褒められたものではありませんが、私が「できません」を言えるようになったのは、20代で母の介護を経験し、無理をし続けて爆発したことがきっかけでした。精神的に追い詰められ、ある日、体が重くて起き上がれず、声を出すのもつらくなり「もう無理」とSOSを出しました。そうなるまで「私がやらないと」と自己責任論を自分にぶつけて、無理をしている自分に気づけなかった。無意識に無理をしてると、自分では無理してることに気づけないこともあるんです。心にはキャパシティがあって、それを超えると不調が出てくる。「自分さえ我慢していれば」という気持ちで乗り切れるものではありません。それ以来、追い詰められる前にどうすればよいか家族で作戦会議をするように。私は「できません」を言ったことで、それを受け止めてもらえる成功体験を積めました。相手に自分の「できません」が受け入れられたとき相手への愛情が増え、お互いに「できません」を受け止め合えると愛情が深まっていくように感じています。
犬山さんの「できません」の判断基準は?
❶睡眠時間
❷自分の時間
❸子どもと過ごせる時間
「私の場合は、一日7時間の睡眠と自分の趣味の時間1時間を確保したいです。仕事量に関しては、土日終日と平日の夕方以降は子どもと一緒に過ごしたいという基準も。忙しい週の翌週は多めに休みを取ったり、夫に『仕事が立て込んで寝る時間が取れないから、ちょっとこれ頼んでいい?』とお願いしたり。無理せず機嫌よく毎日を過ごすことが、最良のアウトプットにつながる気がします」(犬山さん)
3.【「できません」の認め方】自分の中で「できないこと」を整理する
「できない」と言えない人へ。できないことを認めることは、自己否定ではなく、自分軸を大切に生きることだそう。自分を知り、ストレスを減らす方法を精神科医 Tomyさんが伝授。
精神科医
Tomyさん
心療内科・精神科のクリニック院長として勤務。38万フォロワー突破のTwitterが人気で、TV・ラジオなどの出演も多数。
「私は納得しているか?」この問いかけができないを認める一歩
できないことを自分で認めて、相手に誠実に伝えることにはメリットがあります。「私はこういう状況です」と伝えて、それを踏まえて「どうしましょう」と相手と話すことが大事なんですよね。なんのために大事かというと、自分が納得して生きる=自分軸を大切に生きるためです。たとえば、「他人に言われたから」「評価されたいから」「世間がそう思うから」と自分軸より他人軸を優先して、自分が納得していないことをしているとストレスがたまってしまいます。
自分軸で生きることはわがままなのではと言う人がいますが、僕はまったく逆だと思います。わがままとは、相手が納得しているかどうかを考えず、自分の都合を相手に押しつけること。自分軸で生きている人は、自分が納得して生きているからこそ、相手の自分軸も大切にすることができるのです。
自分のできないことが自分の中で整理されるほど、自分軸が明確になります。その第一歩がこの問い。「あなたはいつも納得して生きていますか?」と自分に問いかけてみてください。納得するとは、腑に落ちる感覚に近いです。たとえば、テーマパークで並ぶときに、友達が乗りたいと言ったから並びたくないのに並ぶとなると納得していないから嫌だけれど、自分がどうしても乗りたいと思って納得して並べば別に不満は生まれないですよね。自分が納得しているかがわからないという人は、もやもやしてるなと感じたときに、「なんでだろう?」と書き出してみると、自分の苦手やできないことが見えてくると思います。
仕事のできる・できないは一日単位に落とし込む。依頼は感情で判断しない
仕事の場合、僕は一日単位に自分のできることとできないことを落とし込んで、依頼を受けたときの判断基準にしています。できる基準は決して疲れを翌日に持ち越さない分量。徹夜をするようなプランを組んでも、疲れがたまり、体力がなくなって仕事が嫌になり、相手が喜ぶものができません。
その上で、依頼を受けたときに即答を避けます。できるかできないかの判断は事実に基づくもので、感情では解決しないからです。少し時間をおいて感情が収まった頃、落ち着いて判断します。
自分が納得してできることを増やしていきましょう。一日は24時間。石の数が決まってるオセロのようなものです。納得してできる白の数が増えていけば、その分黒が減りより幸せに生きていけます。
整理するためのポイント
□自分が納得していないことができないことの正体
□何がどのくらいできるのか自分の能力を把握する
□依頼を受けたら、自分の状況を相手に伝えてすり合わせる
「自分の軸を持って、自分が納得できないから『これはできない』とわかることがまず一歩。そして、相手にそれを誠実に伝えて、相手の自分軸=相手の決めるべき領分を尊重しつつすり合わせていくと、自分も相手も大切にできます」(Tomyさん)
バイラ読者にも聞いてみました! Q.自分の中に「ここまできたらキャパオーバー」と感じる「できません」というべき見極めラインはありますか?
子どものお迎えの時間が迫っているとき(35歳・マスコミ)
イライラしたり、心の余裕がなくなったとき(32歳・IT)
やるべきことの順序がわからなくなったら(30歳・獣医師)
家が荒れ始めたら…(40歳・販売)
夜の飲みは最大で週3回まで。22時以降の残業は週2回まで。月に1回は「半日休養の日」を設ける。(34歳・ウエディング)
対応予定の業務を期限から逆算して、残業しても終わらないと判断したら(33歳・商社経理)
約6割が見極めラインあり。最も多かったのが心身の不調。具体的には、眠れない、笑えない、頭痛、月経不順など。次に多かったのがタスクの数、残業時間などを客観的な数値に落とし込んでいる声。ラインを持ってない人からは「必要性を感じる」「自分の生活を振り返り、導き出したい」との声も
4.【「できません」の伝え方】「できません」を相手にうまく伝える
相手を不快にさせず良好な関係を保つ断り方のポイントをコミュニケーションのプロ、公認心理師の大野萌子さんに教わりました。
公認心理師
大野萌子さん
企業内カウンセラーとしての長年の職場経験を生かし、働く人のメンタルヘルスとコミュニケーションの専門家として幅広いメディアで大活躍。
「できません」は拒絶ではない。できる範囲を伝えるフォローが大事
「できません」を伝えることを、相手を拒絶しているようにとらえている人がいますが、そんなことはありません。きちんと意思を伝えることは、お互いを理解し、信頼関係を深める大事なコミュニケーションです。
ただ、「できません」だけを伝える0か100かのやり取りをしてしまうと、誤解が生じることも。相手との関係を良好に保つために、「できません」だけではなく「〇〇ならできます」と、自分の状況とできる範囲をプラスのニュアンスを持って伝えるフォローが大事です。譲歩案があるならば出してすり合わせる。無理ならば「今回はできませんが、次回はぜひご協力します」と未来の話をしてもいいですね。
伝えるときのポイントは、感情論ではなく事実を述べること。言い訳をしたくなりますが、「本当はやりたいんですが難しいです」とやる気だけを見せるのは逆効果。気持ちを述べるのは自己満足で相手にメリットはなく「やりたいと思ってるならやってほしい」と思われることも。できない理由も譲歩案も、謙虚な姿勢で、具体的な事実のみを述べることが大切です。
断り下手さんが、まず覚えておくと役立つ言葉
「ご依頼いただき、ありがとうございます」
「できません」を伝える前に、まず相手に伝えたいのが感謝の言葉。そのワンクッションがあると、「ただ今回は残念ですが」と続けて言いやすくなります
「〇〇はできませんが、△△ならできます」
△△には、「可能なスケジュール」「この範囲ならできる」「資料をもらえればできる」「入力の人員サポートがあればできる」など具体的な内容を入れて、自分のできる範囲を譲歩案として伝えましょう
「私は今このようなスケジュールの案件を抱えています」
上司やクライアントなど断りにくい関係性の相手の場合も、自分の現状を伝えることで誠意ある対応と受け止めてもらいやすくなります
言葉だけでなく“声”と“話し方”も重要に!
フリーアナウンサー
小倉星羅さん
地方の局アナを経てフリーとして活動。プロ野球の場内アナウンスや大学講師、また代表を務める話し方スクール「トークラボ」が開校予定。
ポイントは「山なりにしゃべる」「最後は笑顔」
コミュニケーションにおいて、表情やしぐさなど見た目の視覚情報が55%、声の強さやトーンなどの聴覚情報が38%、言語情報が7%の割合で相手に影響を与えると心理学のメラビアンの法則ではいわれています。ですから、「できません」も声や話し方によって印象が大きく変わります。
まず自分が否定したいときは語尾が強くなりやすいので、語尾を弱めに。また文頭の声のトーンが高いのも強い印象につながるため、全体的に文章を山なりにゆっくり話すとやわらかく伝わりやすいです。最初に依頼してくれた相手を思い、「ありがとうございます」と感謝を伝えて本題に入るのも大切。別れ際の印象も相手に強く残りますから、最後は「次は頑張りますのでよろしくお願いします」と笑顔で締めくくるとよいです。
小倉さんを先生に迎え、仕事で役立つ「話し方」講座がスタート!
現役アナウンサーに学ぶ「仕事が上手くいく」話し方講座
「BAILA college(バイラ カレッジ)」としてHAPPY PLUS ACADEMIAで開催予定。(講座は基礎編と応用編の全2回、それぞれ約50分のオンデマンド配信。価格は2回セットで¥3300。6/28〜販売中)
5.【「できません」の受け止め方】相手に言われたときどうする?
相手に「できません」と言われたときどうする? そのまま受け止めるべき? 理由は聞いていいの? 読者のお悩みに様々な視点から識者がアドバイス!
イラストエッセイスト
犬山紙子さん
女性の生き方やコミュニケーションなどについて発信。児童虐待防止チーム「#こどものいのちはこどものもの」を発足。
精神科医
Tomyさん
心療内科・精神科のクリニック院長として勤務。38万フォロワー突破のTwitterが人気で、TV・ラジオなどの出演も多数。
公認心理師
大野萌子さん
企業内カウンセラーとしての長年の職場経験を生かし、働く人のメンタルヘルスとコミュニケーションの専門家として幅広いメディアで大活躍。
ソフトウェアエンジニア
日野瑛太郎さん
経営者と従業員の両方の経験から、働き方に関する意見をブログやサイボウズ式への寄稿などを通して発信し続けている。
【働くCASE1】チームのメンバーに、家庭の事情(子育てなど)を理由に仕事を断られたとき、悩みます…(36歳・営業)
A
フラットに交渉を!(日野瑛太郎さん)
状況確認をしっかり(犬山紙子さん)
「家庭の事情って踏み込んではいけないことのように考えがちですよね。でも実は聞いてみないとわからないことも多いもの。『どこまでなら大丈夫ですか?』とフラットに交渉してみては」(日野さん)、「今後、仕事を一緒にする上で大事なので『先の仕事の振り方や、どうやったらお互いに仕事を負担なくやりやすいか知りたいから状況を教えてほしい』と具体的に聞いていいと思います」(犬山さん)
【働くCASE2】先輩にどうしてもお願いしたい仕事を、明確な理由も言われず断られてしまいます。どうしたらよいですか?(30歳・マスコミ)
A
上司に相談(日野瑛太郎さん)
細かく頼んでみて(Tomyさん)
「これは理由を言わない先輩がよくないです。先輩にも上司がいるはずなので、『〇〇さんが理由も言わずに仕事を受けてくれません』と相談するといいですね」(日野さん)、「これはやりたくないという意思表示かも。もう少し上手に頼むなら、全部を相談せずに『この部分で専門的な知識が必要なので、そこだけ教えてくれませんか』とポイントをしぼってお願いしてみたらどうでしょうか」(Tomyさん)
【働くCASE3】管理しているメンバーに「あの人にはできないことを認めていたのに」と言われました。公平に判断するには?(35歳・メーカー)
A
あいまいにしないこと!(大野萌子さん)
判断をブラさない(Tomyさん)
「職場の平等性は何よりも大切。個別対応ではありますが、たとえばメンバーへの話し方や言葉遣いを統一するほか、業務を平等に遂行するための基準をあいまいにせずにある程度明確にする必要があります」(大野さん)、「メンバーに言われたからといって、本当にアンフェアかはわかりません。言うとおりにする必要はなく、正当性がない限りは自分の判断をブラさないことが大事」(Tomyさん)
【働くCASE4】メンタルが弱く、依頼して断られるたびに落ち込んでしまいます。「できません」で心を折らない方法はありますか?(31歳・IT)
A
断られる前提で依頼を(日野瑛太郎さん)
誰でもガーンとくる(Tomyさん)
「この気持ちわかります。受けてくれる前提で考えるからへこむので、僕は相手への期待値を下げるようにしています。ベストを尽くしてあとは神頼みみたいな気持ちをつくるとよいのでは」(日野さん)、「誰でも断られるとガーンときます。私もです。数を打てば当たるので、数を打つしかない。あなたの問題じゃないんですよ。条件がよくないか、数をまだ打ってないかのどちらかです」(Tomyさん)
【家族CASE1】私のパートナーは家事が得意ではありません。「できない」とは言わないものの、乗り気じゃない様子で動いてもらえません(40歳・会社員)
A
折れちゃダメ! 話し合いを(犬山紙子さん)
具体的に頼みましょう(大野萌子さん)
「今が踏ん張りどころ。ここで譲歩してしまうと、その先が大変になりそう。『家事を分担しないと私が追い詰められそう。わが家がうまく回る方法を一緒に考えたい』とチーム視点で話し合いを」(犬山さん)、「家事は細分化されているタスクが多く、初心者はどうしていいかわからない場合も。たとえばトイレットペーパー購入なら『ダブルで最も安いものを』くらい具体的な指示を」(大野さん)
【家族CASE2】遠方に一人で住む母親が骨折したとき、妹に「帰省できない」と言われ、私が帰省し看病しました。私にも仕事があったのに…(39歳・事務)
A
家族だけで解決しないで(犬山紙子さん)
話し合いで役割を分担(大野萌子さん)
「介護は思いつめる前にプロに頼ることが大事。どこまで第三者の力を借りるかという前提で、お互いに不満が出ない平等な方法はどうやっていけばいいかということを家族で話す機会を」(犬山さん)、「やれるときにやれることをというふうにしないで、看病、手続き、金銭面など、はっきり役割分担を決めるような話し合いを持ったほうがいいと思います。そうしないと後々までもめる可能性も」(大野さん)
6.リアルバイラ世代3人の“できません”にまつわる座談会
それぞれ管理職、プレイヤー、部署で最年少という3人が“できません”を伝える・受け止める葛藤を赤裸々本音トーク!
Kさん(メーカー・29歳)
部署で最年少、頼まれ気質、頑張り屋が重なり、雑務を含んだ大量の業務をこなす日々。まだ限界がきていないが、いつくるか心配。
Yさん(化粧品会社・32歳)
専門職で社内、社外への依頼業務が多い。「相手に楽しく仕事をしてもらいたい」というモットーで依頼するが心折れることもしばしば。
Sさん(人材・32歳)
管理職2年目。後輩2人と育児中の先輩3人がメンバー。上司とチームの間に立ち、“できません”を伝える・受け止める悩みが尽きない。
できませんの判断基準は色々。一度も言ったことがない人も!
Y 「できません」って言えるほうですか?
K 私、実は仕事で一回も言ったことないんです。部署に私より下がいなくて。頼まれることしかなく全部受けてしまい……。結局パンパンになって、周囲にフォローしてもらうパターンもあって反省が多いです。
Y 何か断らない理由があるの?
K 仕事ができないやる気ない子と思われたくなくて。断ったら仕事を振ってこないんじゃないかと思っちゃうと断れなくて。
S 私も最初は抱えちゃうタイプで。毎日夜中の2時まで仕事をしていて、このままだと周りも育たないし、自分も本来やるべき仕事ができないと判断基準を持ちました。
K えーどんな基準ですか? 知りたいです。
S 週10時間の残業を超えたら業務を持ちすぎというラインを決めて、私の部署の後輩にも伝えています。私自身「いっぱいになったら教えて」って昔から上司によく言われてたんですけど、「いっぱい」の基準がよくわからなかったんですよね。いちばんわかりやすいのが労働時間かなと思って。
Y すごくわかりやすくていいですね。私は「私がするべき仕事か」が基準かなぁ。この業務だからこの給与と納得して働いているので、そこはわりと明確な理由を求めます。
断るときは、ネガティブな空気が生まれやすいので気をつかう
K お二人は、「できません」と言うときに心がけていることはありますか?
Y 気づかいのもとに断ることを大切にしてますね。理不尽な断り方だけはしないようにしようと思っています。理由を伝えた上で「この部分はできます」と添えたりも。
S 私、断ることに限らず、仕事のコミュニケーションって、たまたま仕事で関わっているだけの基本的には理解し合えないことが当たり前の相手だと思っているんです。特に「できません」を伝えるときは、ネガティブな空気になりがち。まず感謝の気持ちを伝えて、丁寧に言葉を選びますね。
Y お願いされているのに、受け流して「あの人あの人」みたいにすぐパスを回してうまくかわす人もいますよね。「やれるでしょ自分も」と周囲からの視線は冷ためですが。
S 結局、そういう人ってみんなからバレますよね。うまいことやってるなって。
K うちの職場では、けっこう強く「無理。できない」と依頼を断っている人もいますね。
Y それを見てKさんはどう思うの?
K その場の空気が悪くなるし、ああはなりたくないって思いますね。でも、私、社外に対しても断るのが苦手で。
S とことん「できません」が言えないのね。
K 見積もりを数社から選定するときに、落ちた会社に申し訳なくて連絡できず。話し込んだのにどうしようみたいな感じで、ギリギリまで言えなかったことも(涙)。
S Kさん優しい……。でも相手もお気の毒。
Y 管理職として断ることもありますか?
S 管理職になって、チームのために役員の依頼を断ることが出てきたんですよね。「Sのチームは何でもやるチームだ」となっちゃうのもよくないですし。キャパオーバーであることが説得力をもって伝わるように、より現状をしっかり説明しています。あえてチームのみんなの見えるところで上司に「できません」と言う姿を見せることも大事だと思っています。
断られる苦労もあるけれど、コミュニケーションで乗り越える
S 管理職として仕事を振るとき、メンバーに「子どもの行事が」と家庭の事情を出されると対応が難しいなと感じることがあって。「できない」とはっきり言われるわけじゃないんですけれど、そう聞こえることも。
K それ以上、踏み込みづらいですね。
S 結局、私が仕事を引き取ったりして。チーム内で平等に仕事を振るのは苦労の連続。毎週月曜朝に全員でタスク共有のミーティングをして業務状況を把握。週に1回1on1でさらに細かく確認しています。
Y 私、本当にメンタルが弱くて。どうやったら断られずに仕事をするかに、仕事の8割の脳のリソースを割いてるんですよ。
K 断られない方法があるんですか?
Y 断られた人に「後学のためにお断りの理由を教えてもらってもいいですか」と聞くんです。人によって理由が違うので、私の中でファイリングしてキャラづけしています。「この人は急なお仕事をお願いすると断ってくるから、余裕を持ったお願いをしよう」とか「ボリュームがあると嫌な人は小さなことをちょこちょことお願いする」とか。
K 断られる率は減りました?
Y かなり減りましたね。「いやちょっと無理」とゴニョゴニョ言う先輩だけは「私のこと嫌いなのかな?」とまだ攻略できてませんけど。Kさんみたいに受けてくれたらなぁ。
S Kさんは、プライベートでも幹事とかお店決めとか引き受けるタイプなの?
K そうですね。私には妹がいて、小さい頃から「お姉ちゃんだから」と何でも任されて、そのまま仕事でもプライベートでも色々を引き受け続けてますね(笑)。でも今日、もっと自分を知って「できません」を言えるようになりたいと思いました。
Y 自分の状況も言えて、相手の状況も聞いてすり合わせたほうがいい関係が続きそう。
S 「できません」という選択肢を持っていることが大事だと思う分、相手の「できません」も受け止められるようになりたいです。
イラスト/二階堂ちはる 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2023年8・9月合併号掲載