仕事でもプライベートでも、近くにいると心地がよくてどこか控えめなのに、いざというときに頼りたくなる。そして、いつでも自分らしく生きているように見える。あなたの周りにもきっといる、そんな素敵な人の話。今回は齋藤 薫さん特別寄稿をご紹介。
世の中が動きだそうとする今こそ求められているのは“圧”なき芯の強さ!
美容ジャーナリスト・エッセイスト
齋藤 薫
世間のトレンドを社会的な視点で切り取るエッセイが現代の女性たちに寄り添う。『キレイはむしろ増えていく。大人の女よ! もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)など著書多数。
コロナ禍で必然的に人との距離感を保てたことで、対人関係も頭の中で整理するゆとりができた。そのとき、この人とはもっとつながっていたい、そう思わせる人ってどんな人なのか。いやそもそも自分はどんな印象を人に与えてきたのか。新たな始まりを前に、ちょっと立ち止まって考えてみたいのだ。
たとえば、世の中の仕組みをとことんわかりやすく描き出す韓流ドラマには、対照的な二人の女が登場する。多くの場合それは“芯の強い女”と“圧の強い女”。ヒロインはもちろん前者で、後者はいわゆる敵役。少女漫画なら、心優しい女と意地悪な女の対比になるのだろうが、社会はもう少し複雑で成熟しているから“芯と圧”の対比になる。重要なのは、ヒロインも「強い女」であること。強くないとドラマにならない、人を惹きつけることもできないからだ。一方の圧の強い女も、別の意味で影響力を持つから厄介なのだけれど。異例なのが「愛の不時着」。ヒロインは最初“圧のある女”として登場するが、北に不時着後、愛を知り、人の痛みを知って、傲慢さが抜けていく。芯の強さだけが残り、かなわぬ恋を胸に生きていくわけで、結局ハリウッド映画も含め全てのドラマが、時を超え“心穏やかな、芯の強い人”こそ、結果として人生の成功者になるという法則を描いているのだ。
Yoon Se-ri ユン・セリさん
大ヒットドラマ「愛の不時着」のソン・イェジン演じるヒロイン。財閥令嬢、社長のいわゆる“強い女”から北朝鮮の軍人らとの出会いを通して変化していく。
で、この対比を“地で行く”のが、キャサリン妃とメーガン妃ではないだろうか。善い人悪い人と言うより、まさしく芯と圧の違い。キャサリン妃はたおやかに見えても、一般から王室に入る勇気と覚悟、また王室のルールに従いながらもZARAの服を公務で着てしまえる気概にも、芯の強さをのぞかせる。そもそもウィリアム王子と交際10年、途中にあった破局も、平民を妃に迎えるのはいかがなものかという声があったからとされるが、そうした苦難も乗り越え、結婚に至るのは忍耐と大らかさ、ブレない軸の勝利だろう。メーガン妃との確執報道でも、メーガンが「泣かされたのは私のほう」と言い出しても黙して語らず。黙れたり許せたりするのも芯の強さにほかならない。
奇しくもメーガン妃が圧の弊害を見せてくれたから、逆にキャサリン妃の“圧を持たない芯の強さ”が浮き彫りになった形。圧ある女は目立つが、芯は芯だけに見えにくい。時間をかけて伝わってくるもので、最近のキャサリン妃は頼もしさも加わり安定感抜群。肩の力を抜きながらも一生懸命、わずかも偉ぶらずに好感度をさらに高め、人を惹きつける力も増している。そういうものはやはり顔に出るのだろう。人を威圧しない、慈愛さえ感じさせる美しさはますますまぶしい。
Duchess of Cambridge キャサリン妃
いわゆる一般家庭に育ちながら、ケンブリッジ公爵夫人として国民に支持される彼女。その親しみやすさと、伝統的な枠にとらわれない芯の強さが注目の的に。
さて、日本の女優の場合は芯までは見えにくいが、顔を見ればやっぱりわかる。石田ゆり子さん、綾瀬はるかさん、新垣結衣さんといった、役柄でも「圧を出さない芯の強い女」を演じる人たちは、そういう人柄が顔に出ている。とりわけ石田ゆり子さんの年齢を超えた活躍! ただそれも、単に人を癒す柔和さだけで築いたものではない。一方に、確かな意志をSNSなどでも発信するエッセイストの側面を持ち、まさしく内側に強い芯があって、周りをやわらかさ優しさが包んでいる人だから、あらゆる年代あらゆる価値観の人を惹きつけるのだろう。ちなみに女子アナ界で揺るがぬ人気を誇る水卜麻美アナも、人を受け止め包み込む、やわらかな笑顔の奥にしなやかな軸を感じる。
Yuriko Ishida 石田ゆり子さん
女優としての活躍だけでなくSNS上での動物たちとの日常やエッセイからも、圧のなさと芯の強さがうかがえる。自分らしく年齢を重ねている姿にも支持が厚い。
Haruka Ayase 綾瀬はるかさん
最近の出演作だけでも、子どもを守る母親役から、夫を支える妻、正義感の強い刑事まで、幅広く芯のある女性を演じる。自身の持つやわらかさも魅力の理由。
Yui Aragaki 新垣結衣さん
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系列)の森山みくり役をはじめ、彼女が演じる役は迷いながらも軸がブレない女性が多い。昨年は自身の結婚も話題に。
職場にもきっといるはずだ。学校のクラスにもいた。私が私がとは言わないのに、誰もが一目置き、気がつけばみんなその人が好き。でもそれはただ穏やかだからでなく、多分誰にもわからぬように人を助けるような正義感を持っているから。日常での小さな行き違いで、困った人を救ったり、誰も傷つけずに事を丸く収めたり。そういうふうに反射神経のように他者を思える心こそ、芯の強さからくるものなのだ。言い換えれば、芯の強さ=ある種の正義感、なのかもしれない。だから必要なときにはちゃんと強くなれる。強さも正義感もこれ見よがしに表に出さないのは、世の中も人間もよく見えていて「普段は優しさのほうが大切」と知っているから。そして本人も気づいていないような静かな自信を宿しているからだろう。
Asami Miura 水卜麻美さん
朝の情報番組「ZIP!」(日本テレビ系)の女性初の総合司会を務めるアナウンサー。アナウンサーとして確かな技術がありながら飾らない人柄で人気を集める。
逆に人に圧を与えるのは“根拠なき自信”や“自信のなさ”の裏返し。自分を否定されたくないから先回りして相手に圧を与え、マウントする。むしろ打たれ弱い人が陥りがち。でも芯の強い人は、人に見せない自信が根っこにあるから人を許せるし、かばえるし、支えられる。聞き役にもなれるし相談役にも回れる。自分は目立たなくていいという控えめさや謙虚さも、また静かな自信の表れなのだ。でもイザとなれば自ら力強く立ち上がれる。人として素晴らしいとしみじみ思う。
20世紀までは、あるいは圧があるほうが魅力的に見えたのかもしれない。でも今や「ものより心」「地位や財産より、人との絆が大切」とされる風の時代……「強い私」を見せつけるキラキラした圧より、人には見せない物静かな強さが魅力のカギとなる。誰の心も疲れやすく傷みやすいときだからなおさら……。
今、世の中が動きだそうとしている。新たな対人関係の中で必要とされるのはまさしくそういう人。周囲を幸せにした分だけ本人も幸せになるという磁場が働く時代だけに、その人の周りにはぬくもりある幸せも集まってくるはずである。
イラスト/Asami Hattori ※BAILA2022年2月号掲載