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作家・金原ひとみさんインタビュー。新著『ミーツ・ザ・ワールド』に込めた女の友情のかたちとは?

コロナ渦を経て「女友達」との距離感はどう変わり、どんな関係になった? 今回は金原ひとみさんにインタビュー。話題の新刊小説『ミーツ・ザ・ワールド』をひもときながら、彼女が考える女の友情について語っていただきました。

「友達」というカテゴライズにしばられない、もっと個人的な関係があっていいんじゃないか。新著にはそんな提案も込めました

金原ひとみさん

自分の価値観がいかに脆弱か、他者と出会って気づかされる

今年初めに上梓された金原さんの新著『ミーツ・ザ・ワールド』。雑誌『SPUR』で連載されていた長編小説で、主人公は、焼肉擬人化漫画(!)をこよなく愛する27歳の腐女子・由嘉里。これまで誰ともつきあったことがなく、「推し活」に情熱を注ぐ彼女が、新宿・歌舞伎町で美しいキャバ嬢・ライと出会ったことで物語は動きだす。

「最近、私の周りにも腐女子が増えていて、彼女たちの話を聞いていると、みんなパワフルでバイタリティにあふれていて、たゆまぬ愛情で自分の推しを応援しているんですね(笑)。私はそこまで何かにハマったことがないので、それがとてもうらやましくて、こういう人たちを書いてみたいという思いが最初にありました。そしてそんな彼女が、まったく違う考えをもった女性と共同生活を送ったらどうなるか。人と人が出会って、関係を築いていくことの可能性を書けたらと思いました」

生き方も価値観もまったく違うものの、惹かれ合い、互いに向き合おうとする二人。固定観念にしばられて生きてきた由嘉里もライと出会ったことで、次第に新たな世界の扉が開かれていく。

「人の価値観や理想は、主に育った家庭やコミュニティによって形成されていきますけれど、それに対して、『それおかしくない?』と突っ込みを入れてくれる人と出会うことで、自分の信じる価値観が思い込みにすぎなくて、いかに脆弱なものか、初めて気づくことができると思うんですね。その中で、あらためて自分が信じられるものを見つけることは、大変な作業ですけれど、これからは、自分で生き方を決めていくことが必要とされる時代だと思います。由嘉里も、人の手を借りながらも少しずつ自分のあり方に自覚的になって、ちょうどいい着地点を見つけられたのかなと思います」

それにしても作品に登場する焼肉擬人化漫画『ミート・イズ・マイン』なるものが、あまりにリアルで、現実に存在するのかと思ってしまうほど。

「友人が国を擬人化した『ヘタリア』という漫画にハマっていて、擬人化というモチーフに興味を持ちました。それで何かにハマっている主人公を書きたいと思ったとき、せっかくなら自分の好きなものにしたいと思って、それなら肉かなと(笑)。焼肉なら細かい設定もつくりやすいし、長い連載の間も楽しいだろうと思って。実際、『ミート・イズ・マイン』の設定を考えているときはすごく楽しかったですね」

人間関係って流動的だし、瞬間的なつながりがあっていい。友情も四季の移り変わりのように変化するものだと思う

自分の個人的な思いで人間関係は成り立っていることを自覚して

本著の中で描かれる由嘉里とライの関係は、一般的な「女友達」のそれとはかなり異なっている。心が通う一瞬があっても二人は同化せず、むしろお互いの差異を尊重し、受け入れることで強く結びついていく。金原さんは、二人にどんな思いを託したのだろうか。

「そもそも『友達か、友達じゃないか』というくくりをすることの野蛮さってあると思うんですね。男女の関係もそうですけれど、レッテル貼りとかカテゴライズをするのではなく、もっと個人的な関係があっていいんじゃないか。そういう提案もこの本には込められているので、由嘉里とライの関係もはっきりさせてないですし、この二人にしか築けなかった関係と私はとらえています。

『誰が本当の友達なのか』とか、『友達と親友の違いはなにか』とか、正直、私はどうでもいい話だと思っていて。そうやってカテゴライズするから、そこに付随するイメージとか、思い込みにしばられて、『友達なのに……』みたいに苦しい気持ちになったりするんだと思います。これは恋愛や親子関係にも当てはまりますよね。自分と相手の個人的な思いで人間関係は成り立っているということに自覚的になれば、ややこしい人間関係で悩むことも減るのではないでしょうか」

そもそも「友達」という言葉のイメージに、私たちがしばられすぎているのではないかという。

「友情は永遠に続くもの、揺るがないものだと考えがちですけれど、人間関係って、もっと流動的だし、瞬間的なつながりがあっていいと思うんです。人生を長く生きていると、友達でも恋人でも人生がクロスする瞬間があって、また離れることも普通にあります。学生時代の親友と、卒業後は疎遠になっちゃったけど、子育てを終えた頃に、今度は『今、BTSにハマってて』『えっ、私も~!!』みたいに友情が復活するかもしれないし。人間って“生もの”なので、いろいろな偶然の中で、関わったり、関わらなかったりするものだと思うんですね。コロナ禍で友人関係に変化があった人も、友情とはそういう四季の移り変わりのようなものだと思うと楽になるんじゃないかな」 

そして、「移ろう友情は決してむなしいものではない」とも。

「今、偶然ここに一緒にいるという感覚のほうが、その瞬間、瞬間を大切にしようと思えるし、相手に何かを課すこともなくなるだろうし。友情って、本来、そういう自然発生的なものであるべきなんじゃないかと思います」   

彼女といるとすごく開放感があって、純粋に個と個でつきあえる感じ

そんな金原さんには、実は片思い!?している女友達がいるのだそう!

「私がフランスで暮らしていたときに出会った友達で、彼女は旦那の転勤でパリにいたんですね。今はお互いに日本にいるので、よく二人で飲んだくれています。会うとくだらない話をしてるだけなんですけど、一つひとつのエピソードが面白くて、彼女といるときほど、楽しい時間はなくて。私は彼女のことが好きで好きでしょうがないんですけれど、彼女はむちゃくちゃコミュニカティブで友達がわんさかいるタイプなんですよね。最近も『また海外に行くかも』と言ってて、『海外に行ったら会えなくなるじゃん、寂しい!』と私が言うと、『来ればいいじゃん~』って、私と離れることなんて何とも思っていない感じなんです。でもそれがよくて、さらに『好き』ってなるんです(笑)」

なんともユニークな関係!

「お互い何かに悩んで相談しても破滅的なことしか言わないし(笑)、支え合うとか、全然ないんですけれど。ただ、彼女のいいところは、自分と誰かを比べることはしないし、カテゴライズとかレッテル貼りとかを一切しないところなんです。自分の人生を真正面から生きている人なので、一緒にいてすごく開放感があって。ママ友っていう関係でもなくて、純粋に個と個でつきあえる感じなんです」

うらやましい! これぞ理想の大人の女友達かも。では、どうしたら、こんな自由な関係を築けるのだろう。

「根本的に自分の中に揺るがないものがあって、自分の人生は他人の人生とは違うということを身体感覚で受け入れることができるようになったら、人間関係もラクになると思います。ただ、そう簡単にはいかないですよね。もし友人関係でつらい思いをしたり、心が激しく揺れ動いてしまうようだったら、すべてシャットアウトするというのもありかも。それで健康な精神を保てるのなら、長いスパンで考えて、2~3年は友達とは連絡をとらなくてもいいと思うし。そしてそういうときこそ、由嘉里のように心に推しをもっていると、意外と強いと思いますよ(笑)」

金原さん新刊はこちら!

『ミーツ・ザ・ワールド』

『ミーツ・ザ・ワールド』
金原ひとみ著 集英社 1650円
焼肉擬人化漫画にハマる腐女子の由嘉里は、夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会い、一緒に暮らすことに。価値観も理想も違うライの存在が、由嘉里の世界を大きく変えていく。

「歌舞伎町という、言ってみれば動物園みたいなところで、いろんな生き物を見て、自分がどんな生き物なのかを把握していくという体験が、由嘉里の中でできたかなと思います。トモサン、ミノくん……といった焼肉擬人化漫画のキャラは、焼肉に関する本を読み込んで作り上げました」

金原さんからバイラ読者へ
“女友達”について考えるおすすめの本

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』

『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』
サリー・ルーニー著 山崎まどか訳
早川書房 2530円
大学生で詩人のフランシス、元恋人のボビー、ジャーナリストのメリッサとその夫ニック。濃厚な四角関係に現代の病理が映し出される。アイルランド出身の著者は本作で文学界のスターに。

「フランシスとボビー、二人の女性の会話が知的で生き生きとしていて劇的だったのと、二人の関係性がなれあいではなく、自立した者同士の厳しさがあって普遍性を感じました。また、主要人物4人はそれぞれ現代的な生きづらさを抱えていて、こんなに今っぽい小説は久しぶりでした」

撮影/須藤敬一 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年3月号掲載

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