市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第7回は日本民藝館で開催中の「柳宗悦と朝鮮の工芸:陶磁器の美に導かれて」を訪問しました。柳宗悦が追求した美しさを実感できる館内で、暮らしに根づいた実用品の愛らしさとぬくもりを感じられます。
今月の展覧会は…柳宗悦と朝鮮の工芸 陶磁器の美に導かれて
暮らしに根づいた実用品の、愛らしさとぬくもりに、ほっこり
「民藝」という言葉を生んだ柳宗悦は、生活の中で使う道具の中にこそ美しさがある、と考えた人。彼が日本各地、世界各国で収集を続け、広くその美を共有したいという思いを傾けた日本民藝館を訪れました。美術館といえばシンプルで無機質な建物が多いのですが、ここは真逆の濃密さ。築80年超になる建物のすみずみに、柳の考える「美しさ」が表れています。1階の土間はやわらかな風合いの大谷石が敷き詰められ、ヨーロッパの石畳みたい。ツヤのある木材は古民家風だけれど、障子窓には朝鮮半島の雰囲気も。日本とも海外とも思えるような、様式にとらわれない独自のデザインが面白い。
今回ここに展示されているのは16世紀から19世紀の朝鮮時代の人々が使っていた工芸品たち。様々な器や壺、掛け軸や占いに使う冊子など、暮らしのぬくもりが伝わってきます。ユーモラスなモチーフやゆるいキャラクターもいて、「可愛い!」を連発。とびきりセンスのいい、自分の哲学のある柳宗悦のフィルターを通すと「美しいもの」とは、こうも時代や場所を超えてゆくのか、と感心します。200年前の朝鮮半島の壺、と言われなければ、イギリスのものにも、地中海の国のものにも見える不思議な感覚。人類皆兄弟というか、世界はやっぱりつながっているのね、という発見がありました。使い勝手がよく愛着のわくものは、どこか共通してくるのかもしれません。「インテリアは“〇〇系”でそろえなきゃ」みたいな固定観念から解放されて「好き」を集めるっていいな、とあらためて感じたり。生活に根差した道具たちは、アートよりも自分との距離感が近く感じられるのも新鮮です。あれがいいな、これが欲しいな、なんて、リラックスして楽しめました。
ほかのどこにもないデザインだけれど、誰かの家に招かれたような温かみもある柳宗悦が追求した美しさを実感できる空間
日本民藝館のエントランスホールにて。
入館の際はシューズカバーあるいはスリッパを利用。特別に許可を得て撮影しています
2階のメイン展示室にて。朝鮮時代の人々の生活の道具には、おおらかな空気を感じます
書の道具のひとつ、水滴。手のひらに収まる愛らしいモチーフをコレクションするのは、当時の男性たちのたしなみのひとつだったそう
「白磁鎬文瓶」(19世紀前半)は、イギリスの陶器と言われても納得してしまう形。時空を超えたシンプルな美しさ
16世紀「白磁祭器」
このフニャンとした脚の形!小さなツノ!可愛いものを見つけると、思わず同じポーズをとってしまうクセがあります(笑)
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…日本民藝館学芸部 古屋真弓さん。
市川 昔の生活の道具を見ていると、家に持ち帰って使いたくなるものがたくさん。展示ケースまで素敵ですよね。
古屋 この棚は80年間使われているんですよ。開館時に柳宗悦が細かに指示を出し、拭き漆で仕上げたものです。
市川 さすが!質感といい、作りといい、今、作ろうとしても作れないだろうな、と思っていました。彼の美学は、館内の至るところに息づいているんですね。
古屋 そうです。たとえば、民藝館の展示品には、最低限の情報しか書かれていません、これも開館当初からの伝統です。
市川 普段の美術展にある「ご挨拶」や解説文がないですね。
古屋 文字ばかりを読んでものを見ないこと、大きな札が作品の邪魔をしてしまうことを柳は懸念しました。そのものの美しさを伝えるために出した答えが、黒地の木札に最低限の情報を朱で書くことだったんです。
市川 シンプルで、控えめで、きれい。大量生産品にも、作家の一点ものの高級品にもない、民藝ならではのよさですね。
訪れたのは…日本民藝館
東京大学駒場キャンパスの近く、閑静な住宅地にある日本民藝館。1936年に柳宗悦自らがデザイン。向かいには柳が私邸として住んでいた西館がある
柳宗悦がこだわった館内の説明板。黒地の板に朱で最低限の情報が書かれている
外に面した受付の小窓。すみずみまで美しく作られた意匠に、ぐっときます
【展覧会DATA】
柳宗悦と朝鮮の工芸 陶磁器の美に導かれて
~11/23 日本民藝館
東京都目黒区駒場4の3の33
10時〜17時(最終入館〜16時30分)
休館日/月曜 観覧料/大人¥1200ほか
https://mingeikan.or.jp
ファッションモデル
市川紗椰
1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
ニット¥30800・ドレス¥46200/ケイル ピアス¥27500・シルバーリング¥33000/バウゴヘイアン ストーンリング¥48400/ノムグ バッグ¥55000/イッチ ショールーム(イッチ) 靴¥97900/フラッパーズ(ネブローニ)
撮影/柴田フミコ ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2022年12月号掲載