経理部に所属するOL・森若さんが、経費の数字から見えてくるさまざまな出来事を紐解いていくお仕事小説『これは経費で落ちません!』シリーズ。身近に感じるお仕事ドラマの中に、ほんのり入る恋愛要素のバランスが絶妙で大人気な本作。隔月発売の漫画雑誌『Cookie』で連載中のコミカライズ版で、作画を担当している森こさち先生に制作秘話をインタビュー!
1話の中でお仕事と恋愛要素が8:2になるように
ー『これは経費では落ちません!』は、原作小説をもとにしたコミカライズ作品ですが、毎話どのように考えていますか?
原作をしっかり読みこみながら、まずプロットとして話を考えていきます。1話ごとの大事にしたい部分と、自分が描きたいなと思う部分を、それぞれ仕事パートと恋愛パートに分けて紙に書き出していくのが最初にすることです。書き出し終わったら、決められたページ数におさまるように1話の流れを作っていきます。
ー仕事パートと恋愛パートに分けて書き出すようになったのはどうしてでしょうか?
やっぱりお仕事パートが本筋なので、そこの邪魔にならないようにお仕事が8割、恋愛が2割になるようにしたいなという気持ちがあるので別々に書き出すようにしています。
ただ、どれだけ書き出しても、やっぱり1話分のページ数の中におさめようとすると、書けないことがほとんどです。書き出した紙に付箋を貼って、ストーリーに入れるエピソードを選びながら組み込んでいきます。
ーなんだかパズルみたいですね……!
はい、毎回パズルです(笑)。
ーコミカライズならではの難しさはありますか?
やっぱり小説は漫画よりも情報量が多いので、いかに分かりやすくなるように削るかと、その中にいかに自分が描きたいと思うことを入れるか、のせめぎあいがあるところでしょうか。
ー2017年に漫画連載が始まってから、5年半が経ちますが、連載当初よりはプロットを作る上での取捨選択はスムーズになっていたりするものですか?
いや……そんなことはないですね(笑)。それは私の要領が悪いからですが、毎回“なんでこんなに悩むんだろう”っていうくらい難産です。
ー連載開始から今にいたるまでに、変化したことはありますか?
2巻の途中くらいから作業環境をアナログからデジタルにしたことでしょうか。1巻まではデジタルとアナログ半々で進めていたのですが、途中から掲載ペースが変わったこともあり“間に合わない!”と思ってすべてデジタルに変えました。
ー連載をしながら作業環境を変えるのは難しそうですね……!
はい、難しくて超大変でした(笑)。本当になにも分からない状態だったので、実際にやってみながら一つずつ覚えていくみたいな感覚です。それでもデジタルはやり直しがきくので、私の性格にはあっているんですよね。
ー特にどの作業がラクになったと感じますか?
下絵でしょうか。この絵だけをサイズ変更したいとか、ピンポイントで調節できるので。ただ、細かいやり直しが何度もできる分、どんどん気になるところが出ちゃって、なかなか作業が終わらない…ということも多々あります(笑)。
小説を読んだときに浮かんだビジュアルを絵にしていきました
ーカラーイラストもそのタイミングでデジタルに移行しましたか?
カラーは予告ページ用にアナログで1回描いたきり、その後はすべてデジタルです。もともとカラーイラストをほとんど描いたことがなくて、予告ページ用のイラストを描くために画材を一式そろえたんですが、そのときに難しくてムリだなと思って(笑)。買った画材は全然使えずでしたが、今も大切に眠っています。いつか練習しようと思って(笑)。
ー登場人物たちのビジュアルはどのように決めていきましたか?
最初に原作を読んだときに自分の頭の中に浮かんだビジュアルでキャラ表を描きました。森若さんだけは小説の表紙イラストにビジュアルが登場していたので、それをベースに描いています。
太陽は原作の描写に“背が高い”や“胸板が厚い”と書かれていたので、その要素を落とし込みながら描いていきました。
ーキャラクター以外の、森若さんたちが勤めている会社内のディティールはどのくらい考えて描かれているものですか?
原作を読みながら、文章で様子が描かれている部分は自分で描き起こして、平面図みたいなものは作りました。ただ、私自身がオフィス勤めをしたことがないので“中小企業ってこんな感じかな?”と想像をふくらませながら考えた部分が大きいです。
ー平面図があったほうが描きやすいものですか?
そうですね。間取りを作っておかないと、画角が変わったときに何がどこにあるのかが分からなくなるんです。あとはアシスタントさんに共有するためにも作っておいたほうがスムーズな気がしています。
森若さんを描くのは実はちょっと難しい
ー森若さんを描かれる上で大切にしていることはありますか?
仕草がなるべく女性らしくなるように気をつけています。ただ、森若さんを描くのは常に難しいです。その仕草の綺麗さもそうですし、あまり大きな表情や行動をとらないタイプのキャラクターなので、さじ加減が難しかったりします。
ー逆に描きやすいキャラクターは誰ですか?
森若さんと同じ経理部の真夕ちゃんです。なんとなく、何も考えずに描けている気がします。あとは太陽も描きやすいほうです。やっぱり表情が大きいし、動きもつけやすいので。
ー森若さんは毎日のルーティンをしっかりこなすことにやりがいを感じているタイプですが、先生は共感できますか?
共感というか、すごいなと思いますし、羨ましいです。私は自分で決めたルールを守れない三日坊主タイプなので…。森若さんの丁寧な暮らしっぷりや、ズバッと言える性格も憧れる部分が多いです。
ー作業に煮詰まったときはどうされていますか?
なんでしょう……「やるぞ!」って言うとかですかね(笑)。ずっと言ってる気がします。プロットからネームの話を組み立てる段階のときは無音の環境が一番集中できるのですが、下絵からの作画に入ってからは、音楽やラジオをつけることが多いです。最近は無料通話で仲のいい漫画家さんとお互いに励まし合いながら作業することもあります(笑)。
ーコミカライズを描いていくなかで、改めて感じる原作の魅力はどこでしょうか?
たくさんありますが、キャラクターの良さと言いますか、森若さんのカッコよさと可愛さ、彼女ならではのモノローグが好きです。あとはキャラクター同士の些細なやりとりがすごく面白いと思っているんです。“こういう人いるよな”と思えるやりとりが多くて好きです。
原稿完成後に起こったまさかの大事件……!
ー5年半の連載の中で印象に残っている出来事はありますか?
トラブルは、わりといつもなんですが(笑)。自分の作業スピードを読み間違えて締め切り20分くらい前に、原稿がまだ真っ白なのが2ページぐらいあったときは震えました。……本当に震えました。
とにかく頑張って描くしかなかったんですが、それを機に自分の作業スピードをもっとちゃんと考えながらスケジュールを立てないとって思いました。
…あ! あと、珍しくはやく原稿があがったときに、それで安心して寝落ちしてしまって、起きたら締め切りの時間が過ぎていたときも本当に震えました。
ーそれは原稿を送る前だったのでしょうか?
そうなんです…。起きたら時間が過ぎていて、原稿を落としたと思って泣きながら担当編集さんに電話しました。
ー原稿がはやくあがっていただけに悔しいですね…!
そうなんです。“初めてはやくできたのに……!”と思いました。
ー漫画を描いていて楽しい作業を教えてください。
原稿中は常に必死と言いますか、得意と言える作業がないので…原稿が完成したときでしょうか。やり遂げた感が好きです。
ー先生自身は普段から漫画を読まれますか?
読みます。でも、今はインプットのために読んでいるという感じが強いかもしれません。ランキングや広告で気になったりして読むことも多いです。
ー先生にとっての思い入れの強い漫画作品は何ですか?
好きな作品として思い浮かぶのは『うしおととら』です。もうずっと好きな作品で、ストーリーはもちろん“とら”のキャラクターが大好きで。読むといろんな感情が満たされる気がします。たまにテレビアニメのオープニングをエンドレスで流していることもあります(笑)。
森こさち先生から直筆メッセージ!
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/上村祐子
@BAILAでは、マンガMeeの人気作品のほか、BAILAオリジナル漫画も読めます!
2022年秋、BAILAで初めて漫画カテゴリがオープン! 働く大人の女性を主人公にしたBAILA初のオリジナル漫画2作品の配信が開始されました。
『ランジェリーの女神さま』は体型や下着の悩みの解決をモチーフにしながら、働く女性の自己肯定を応援する物語。
『おいしい二拠点』はコロナ禍でリモートワークが定着し、東京と長野の二拠点生活をはじめる夫婦が主人公。この3年で変化した読者のライフスタイルを映し出します。
どちらも、『BAILA』が30代~40代女性のファッション・美容・ライフスタイルを常にキャッチアップし、発信しているメディアであるからこその「働く女性」の描写・ストーリー展開が魅力。“大人の女性がリアルに共感できる漫画が読みたい“という声に応えます!
また、同カテゴリでは集英社の少女・女性向け漫画タイトルが集結した漫画アプリ「マンガMee」の人気作品も配信。毎週更新で、2作品・1〜5話分を期間限定で無料で読めます。
『青春シンデレラ』著者の夕のぞむさん、『サレタガワのブルー』のセモトちかさんなど「マンガMee」人気作家、そしてBAILAオリジナル漫画『ランジェリーの女神さま』のユニさん、『おいしい二拠点』のイシデ電さんのインタビューも好評配信中!
カリスマフィッターが心と体のお悩みを解決! 『ランジェリーの女神さま』
帝王百貨店に勤務するカリスマ店員、ランジェリーフィッターの恵比寿天音。天音のもとには、下着選びや体型の悩みを抱えたお客様が毎日来店!
東京⇔長野の二拠点生活を決めた30代夫婦の物語『おいしい二拠点』
グルメライターとして都心で働く麻胡(32)は、同い年の夫・扇とふたり暮らし。
自然豊かな長野の町に魅せられた麻胡と扇は、ついに二拠点生活を決意する。まずは家探しから始めたが……。