世代が異なる女性たちが登場する小説『記念日』。著者の青山七恵さんに、人の心と体が揺れ動く様子を考察して気づいたこと、年齢やバックグラウンドを超えたコミュニケーションについても伺った。

青山七恵
あおやま ななえ●1983年、埼玉県出身。’05年『窓の灯』で文藝賞を受賞し、小説家デビュー。’07年に『ひとり日和』で芥川賞を受賞。『めぐり糸』『私の家』など著作多数。プライベートでは、語学(韓国語)、編み物などの趣味を楽しんでいるそう。
年齢と心のバランスは意外といつまでもアンバランスなのかも
最新作『記念日』を発表した、作家の青山七恵さん。この物語は40代の女性ソメヤを中心に、彼女が始めるルームシェアのシェアメイトで部屋のオーナーでもある20代のミナイ、さらにひょんなことから出会う70代の乙部さんという、異なる世代の女性たちの心と体の揺れ具合を描き出したストーリー。青山さん自身はソメヤと同じ40代前半。バイラ読者にとっては、少しお姉さんの世代になる。
「ソメヤは、私自身が実際に感じたことも交えて生まれた人物なんです。この小説を書き始めたとき、ちょうど私は30代後半に入ったくらいでした。時期的にはちょうどコロナ禍の真っ最中。その頃から『朝起きると、自分の体調が日によって随分と違うな』と思うことが増えて。コロナ禍の外出制限が終わった頃には、40代に突入。まるでトンネルを潜り抜けるような感じで、気づいたら青年期から中年期になっていた感覚がありました」
20代のエネルギーを持て余すミナイと、70代の“老い”を受け入れながらどこか俯瞰している乙部さんのキャラクターは、どうつくっていったのだろうか。
「乙部さんは正直まだ未知の領域です。それだけに、年齢を重ねた女性=肉体は衰えているものの精神は成熟した素晴らしい人、という書き方は避けました。彼女なりに、自分の心や体を自由に使いたいという葛藤はあるはずと思って。20代のミナイは『若いのに落ち着いているね』など、若さを基準に自分を語られるのに抵抗を感じていた、かつての私の感覚が入っています。ミナイのように、早く年をとりたい、みたいな感覚が私にもあったので。……と考えると、年齢と心と体のバランスって、合致する人もいるのかもしれないけど、実際はアンバランスな場合が多いのかも。調和しきれないもどかしさから、人は変化を求め、周りの刺激を受けるのかもしれません」
青山さんご自身は30代をどう過ごしていたのかを聞いてみると――。
「30代前半ぐらいに『この年代は人生の選択肢が多いと同時に、自分の人生をしぼり込む場面も多くてつらい』と悩んだことがあって、少し年上の編集者に相談したんです。そうしたら『どの道を選んでも、みんな大変ですから!』とアドバイスをいただいて。その言葉に少し吹っ切れたのを覚えています。30代の10年はやっぱり仕事が忙しかった。20代は小説の執筆作業だけに集中していましたが、執筆以外のお仕事もいただけるようになって。新人賞の選考委員をしたり、人に創作の仕方を教えるなど、小説の仕事をベースに新たな挑戦を始めた時期でした。とにかく体を動かして前に進むみたいな感じで、振り返るとあっという間だったように思います」
世代が違う人とのやり取りは「ややいい加減」ぐらいでいい
現在は執筆と、週に3回、大学での創作指導を両立している。学生たちとの交流で気を配っていることはある?
「過度に相手の責任を負わなくてもいい、とは思ってます。レポートの締め切りを守ってもらえなかったとか、面談をすっぽかされたとか、イライラしてしまうことは多々あるんですけれども(笑)。強く言うぞ~と意気込むも、結局は必要最低限のことしか言えないです。でも、それでOKかなと。今回の小説の中でも年齢の違う人同士が交流していますが、みんな、ほどよくいい加減。年上だし、年下だからと相手に萎縮するわけでもないし、過剰に踏み込みすぎない。自分の価値観へ無理に誘導しないのが、人づきあいの適度なさじ加減かもしれません」

『記念日』
集英社 2200円
中年期に入った体に翻弄される42歳のソメヤ、加齢に憧れを持つ23歳のミナイ、そこに「お年寄り」である76歳の乙部さんが加わり――。3人の交流と日常、身体感覚に寄り添った長編小説。
撮影/井手野下貴弘 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2025年8・9月合併号掲載
























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