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【市川紗椰の週末アートのトビラ】ポーラ美術館「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画ー横山大観、杉山寧から現代の作家まで」をご案内

市川紗椰がご案内 週末アートのトビラ

市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第15回はポーラ美術館で開催中の「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画ー横山大観、杉山寧から現代の作家まで」を訪問しました。

今月の展覧会は…「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画ー横山大観、杉山寧から現代の作家まで」

天然の画材から生まれた、独自の美しさとマチエールの奥深さに吸い込まれる

市川紗椰  天然の画材から生まれた、独自の美しさと マチエールの奥深さに吸い込まれる

「日本画」――“伝統の美”とか“古来の芸術”というイメージを描く人もいるかもしれませんが、実は、明治政府のお雇い外国人、アーネスト・フェノロサが名づけた“Japanese Painting”を和訳した、比較的新しい言葉なんですね。

今回は、明治時代から現代のアーティストの作品を通じて、あらためて日本画ってなんだろう?と問う展覧会。日本画と聞いて「堅い、地味」といったイメージを持っていたら、あるいは、現代アートにふんわりした小難しさを感じていたら、先入観は大きく裏切られるはず。かなり没入感のある体験だったのです。

堪能したのは、日本画に使われるマテリアルの楽しさ。天然原料を使った絵の具や紙や木などの画材は独特で、絵筆などの道具も含めると無限の組み合わせ。顔料が塗り重ねられた画面を見ていると、絵というより、うすーい彫刻みたいに思えてきます。岩絵の具は天然の顔料なので、のぞき込むと極小の岩の粒がひしめいているのがわかる。キラキラと光ったり、顔料を定着させる膠(にかわ)の照りを感じさせたりと、奥行きが深い。

銅を酸化させてできる緑青や、サンゴや貴石を砕いて作る鮮やかな色には化学変化の不思議さも。手すき和紙や木板びょうぶのような下地の存在感。絹の布に描いたフラットで透明感のある世界……。どの作品もミクロの世界に吸い込まれるようで、いつまでも離れられなくなります。プリントやデジタルデータではとらえられない「物質感」が、説得力満点!ずっと見ていたくなって、美術展では珍しく「家に飾りたいな」と思う作品が多かったです。

一歩出れば、箱根の大自然に出会えるというロケーションも魅力。遠出する価値のある、アトラクションのような楽しさがありました。

日本画って、なんだろう? 進化して、深化し続ける同時代のアートにワクワク

市川紗椰

山本基 
(手前)『たゆたう庭』2023年 作家蔵(12/3まで展示)
(奥)『時を纏う』2023年 YUKIKOMIZUTANI(9/1まで展示)

丸い鏡の上に、塩を使って描いたインスタレーション作品は、4日間の滞在制作で生まれた新作。清らかさのある物質感に吸い込まれます

荒井経『草虫図』(部分) 2019年 作家蔵

荒井経『草虫図』(部分) 2019年 作家蔵

きれいな色彩と立体感が面白い。最低限の線で描かれた細密な昆虫に感心!

市川紗椰 三瀬夏之介(手前)『日本の絵』 2017年 作家蔵 (奥)『だから僕はこの一瞬を永遠のもの にしてみせる』 2010年 作家蔵(奈良県立万葉文化館寄託)

三瀬夏之介
(手前)『日本の絵』2017年 作家蔵
(奥)『だから僕はこの一瞬を永遠のものにしてみせる』2010年 作家蔵(奈良県立万葉文化館寄託)

最初の展示室には、逆さまの日本地図を吊り下げた「日本の絵」。批評性の高い作品だけど、まじまじ見てしまう美しさがある

野口哲哉『Clumsy heart』2018年 個人蔵

野口哲哉『Clumsy heart』2018年 個人蔵

意外性のある立体作品も。足もとで、甲冑をまとった武士がハートマークを落書き!

市川紗椰 奥右は絹布彩色の谷保玲奈『Bulb』『腹部の余韻』(2023年)、左は天野喜孝の湯の花を使った仏画シリーズ、手前は手すき和紙の巻物作品、半澤友美『生々流々』(2023年)。展覧会のために制作した新作たち

奥右は絹布彩色の谷保玲奈『Bulb』『腹部の余韻』(2023年)、左は天野喜孝の湯の花を使った仏画シリーズ、手前は手すき和紙の巻物作品、半澤友美『生々流々』(2023年)。展覧会のために制作した新作たち

アトリウムギャラリーでの展示「マテリアルズー日本画材の博物館」で、顔料やその原料が見られます

アトリウムギャラリーでの展示「マテリアルズー日本画材の博物館」で、顔料やその原料が見られます

トビラの奥で聞いてみた

展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…ポーラ美術館学芸員 内呂博之さん。

市川 日本画という言葉によってジャンルが生まれたのか、その前から概念があったのか、因果関係が気になりました。

内呂 展覧会の前半では、日本画と名づけられたことで、日本の伝統と西洋文化とがせめぎあう歴史を。後半では、時代が移りゆくにつれて、日本画という受け皿からあふれ出していくような現代作家の作品をたどりました。

市川 どんどん革新的なものが出てくるのが面白かったです、進化が続いているのを感じてワクワクしました。

内呂 「シン・ジャパニーズ・ペインティング」の「シン」には、様々な字を当てはめることができます。進化の「進」かもしれませんし、深まる「深」もありそうです。

市川 今、アートは値段が高騰していて、カードゲームみたいに交換できる感覚がある。天然の稀少な画材で作られた日本画には、デジタル化して配れない「もの」としての魅力もある。アートの価値を考えるきっかけにもなりました。

内呂 そのとおりです。価値の変わりにくい、日本画の「真」の部分に触れてもらえたら嬉しいです。

訪れたのは…ポーラ美術館

市川紗椰 四季折々の自然の姿が美しい、箱根ポーラ美術館。エントランスの渡 り廊下は、木漏れ日があふれ、空気には都会にはない清涼感が!

四季折々の自然の姿が美しい、箱根ポーラ美術館。エントランスの渡り廊下は、木漏れ日があふれ、空気には都会にはない清涼感が!

市川紗椰
ポーラ美術館

【展覧会DATA】
シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画ー横山大観、杉山寧から現代の作家まで
~12/3 ポーラ美術館
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
9時〜17時
会期中無休
観覧料/一般¥1800ほか
https://www.polamuseum.or.jp/sp/shinjapanesepainting/

市川紗椰

ファッションモデル

市川紗椰


SAYA ICHIKAWA●1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。

ドレス¥49500・ビスチェ¥106700・バッグ¥58080・パンプス¥46200/マメ クロゴウチ オンラインストア(マメ クロゴウチ) ピアス¥19800・リング(左手人さし指)¥41800・(左手中指)¥58300/エトワライト 右手リング/本人私物

撮影/森川英里 ヘア&メイク/中村未幸 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2023年10月号掲載

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