市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第8回は東京ステーションギャラリーで開催中の「鉄道と美術の150年」を訪問しました。「鉄道」というモチーフを通して、日本の美術と社会の歴史がわかるスケールの大きなアート展。
今月の展覧会は…鉄道と美術の150年
「描かれた鉄道」に乗って体験する、人と世相、150年のタイムトラベル
ああ楽し♡ああ楽し♡と、観ている間ずっとつぶやいていました。鉄道好きの私がいつ来てもテンションの上がる東京駅、丸の内北口改札から徒歩0分の東京ステーションギャラリー。幕末の鉄道開業前夜から現代までを美術で振り返る「鉄道と美術の150年」は、期待に違わぬ充実ぶり! けれどご心配なく、今回の展覧会は、マニア心をくすぐりつつも間口は広く懐の深い内容。「鉄道」というモチーフを通して、日本の美術と社会の歴史がよくわかります。アート、ファッション、クラフトが好きな人にもおすすめ。
幕末から明治にかけての鉄道は、“最先端で、まだよくわからないもの”。浮世絵にも、ファンタジックでときにはヘンテコ、ときには恐ろしいもののように描かれています。大正期には憧れと夢の存在から日常風景へとなじみ、人々の暮らしが豊かになっていくさまも絵の中に反映されます。やがて戦争が始まり、国威高揚や産業発展の証として利用される鉄道。そして戦争の焼け跡から復興し、今度はノスタルジーの象徴に。時代ごとの展示には、見たことある!という有名作品から、こんなものにも鉄道が……という珍品まで、ジャンルも洋画、日本画、ポスター、写真、ハプニングの記録など様々。
鉄道には利用する人と社会が欠かせない。だから、描かれる絵には服装や建物など、時代の空気が必ず込められている。そのディテールの積み重ねに「たまらん!」という喜びがあります。モノと人との関係性がどんなふうに変わってきたかを感じ、今の私たちも歴史や風景の中の一点なんだな、と思える、なかなかスケールの大きなアート展。次の150年はどうなっているのかな? 楽しみな気持ちにもなってくるのです。
生活風景の移り変わりと、アート史と人工物のデザインの美しさも楽しめる。鉄道好きにも、そうでない人にもおすすめ!
(右)望月晴朗『同志山忠の思い出』1931年、東京国立近代美術館 (左)中村岳陵『驀進』1943年
展示室のロケーションも「東京駅の美術館」らしい魅力。1914年の創建当時から残る鉄骨レンガの構造がよくわかります
(右)香月泰男『バイカル』1971年・(左)香月泰男『煙』1969年、2点とも山口県立美術館
作者が従軍中に見た、大陸鉄道の風景を振り返って描いた作品に惹かれました
黒岩保美『連合国軍用専用客車車内図』1946年、鉄道博物館
終戦直後、進駐軍が使用した客車の記録画
勝 海舟『蒸気車運転絵』1872年、鉄道博物館
勝海舟が宮中で鉄道を説明したときの絵!
駅舎創建当時からの軀体が見える展示室
(右から)南 薫造『鉄道開業式:明治天皇鹵簿新橋着の図』『同:横浜式場の図』ともに1921年、日本交通協会、不染 鉄『山海図絵(伊豆の追憶)』1925年 木下美術館
戦前の作品群を前に、館長・冨田章さんとディープトーク
杉浦非水『東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通』1927年、日本交通協会
地下鉄開通のポスター。今、復刻車両が走っている銀座線だ!
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…東京ステーションギャラリー館長・冨田章さん。
冨田 今回の展示作品は150点。1年ごとに1作ずつという構想もありましたが、いい作品がまとまって出てくる年もあり、最終的に編年体での構成になりました。
市川 鉄道をテーマにした150年の日本美術史でもありましたね。ただ、やはり女性の作家が少ないなと感じました。
冨田 現代作家の遠藤彰子さんなどごくわずかですね。女性作家の数自体が少なかったこと。鉄道というモチーフを取り上げる女性はさらに少数だという理由があります。
市川 私自身はメカニックと人間の生活が密着しているものが本質的に好き。よく「女性なのに鉄道好きって珍しい」と言われるのですが、男女に興味の差はあるのでしょうか。
冨田 傾向として男性は機械の構造に惹かれ、女性は鉄道を利用している人に惹かれてきたということがあるかもしれません。ただ、モチーフとしての鉄道が日常の一部からノスタルジーの対象へと変化した今後はどうでしょう。
市川 男女それぞれの興味も融合してくるかもしれませんね!
訪れたのは…東京ステーションギャラリー
東京駅丸の内駅舎内という便利で特別な立地。改装によって創建当時の姿を表した回廊や特徴的な塔の形が中からわかる館内にワクワクしっぱなしです
【展覧会DATA】
鉄道と美術の150年
~2023/1/9 東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1の9の1
10時〜18時(金曜〜20時・入場は閉館の30分前まで)
休館日/月曜、12/29〜1/1(1/2、1/9は開館)
観覧料/一般¥1400ほか
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
ファッションモデル
市川紗椰
SAYA ICHIKAWA●1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
シャツ¥29700(ヨーク)・カットソー¥17600(エスロー)/エンケル スカート¥29700(オニール オブ ダブリン)・靴¥68200(へリュー)/ビショップ バッグ¥19800/エスアンドティ(ヴィスク) ピアス¥30360/ノムグ カチューシャ・靴下/スタイリスト私物
撮影/柴田フミコ ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2023年1月号掲載