近頃TikTokでやたらと見かける、“沼らせる女”というワード。不特定多数の男性を夢中にさせる究極のモテ論・魅力あふれる女性像として推奨されているが、私たちは誰かを沼らせることで本当に幸せになれるのだろうか。バイラ世代の女性たちと一緒に、考えてみた!
1.“沼らせる女”って、どんな人だと思いますか?
『トーキョーカモフラージュアワー』の松本千秋先生と考えてみた─っ!!
そもそも、TikTokなどに上がっている特徴は合っているのだろうか。バイラ世代にあてはめたときの“沼らせる女”像とともに、現代の恋愛事情に精通する、作者の松本先生に分析してもらった。
『ニュートーキョー カモフラージュアワー』
松本千秋著 少年画報社
4巻まで発売中 各880円〜
男を沼らせる女の特徴は?
①〈大人女子ver.にあてはめると…〉…用件のない連絡は返さない
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…LINEの返信速度がバラバラ
②〈大人女子ver.にあてはめると…〉…相手の都合に合わせない
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…ほどよくわがまま
③〈大人女子ver.にあてはめると…〉…精神的にも経済的にも余裕がある
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…一人行動ができる
④〈大人女子ver.にあてはめると…〉…将来や人生に前向き
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…ポジティブで自信がある
⑤〈大人女子ver.にあてはめると…〉…仕事にやりがいを持っている
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…恋愛以外に熱中しているものがある
⑥〈大人女子ver.にあてはめると…〉…自分のペースで体の関係を持つ
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…1回目のデートで絶対に体を許さない
⑦〈大人女子ver.にあてはめると…〉…自分を好きでいるために努力している
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…何事にも努力を怠らない
⑧〈大人女子ver.にあてはめると…〉…他人に素直に頼れる
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…親しみやすいが媚びすぎない
⑨〈大人女子ver.にあてはめると…〉…自然に褒めるのがうまい
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…細かい変化に気づいてくれる
⑩〈大人女子ver.にあてはめると…〉…全力で感謝する
〈TikTokでよく見る、沼らせる女〉…いつも笑顔、よく笑う
自立なくして、なれない! それが「沼らせる女」です
「沼らせる女をひと言で表すならば、“自立した女性”。他人に依存しておらず、一人でも充分に楽しめる精神状態が、男性を沼らせることになるんだと思います。残念ながら、本来は『誰かを沼らせたいから』と今日明日に努力してなれるものではないのです」
そう分析し、「沼らせる女になりたいと考える人の多くは、自分が沼る立場にあるのではないでしょうか」と続けた松本先生。自身の体験をもとに、その理由を解説してくれた。
「38歳のとき、マッチングアプリにハマり、年下のイケメンを見つけてはデートをしまくっていました。年上の自分は年齢的にも外見的にも劣っていると感じ、嫌われないために、都合のいい女を演じていたんですね。その結果、誰からも沼られず惨敗。そして数年後の42歳のときに、漫画のネタに尽きて、またアプリに再挑戦したんです。恋人探しがゴールではなかったから、好かれなくてもいいや!と思っていたら、余裕のある女性に見えたようで。出会った男性から次々と沼られたんです。モテにおいて、外見や年齢は関係ないこと、そして相手に依存しないことの大切さを再認識しました」
つまり、自立していて相手に執着しないことが、結果として“相手を沼らせる”。そんな無自覚に男を沼らせる女性についてさらに具体化すべく、TikTokでよく見る特徴の正否を聞いた。「ネットによくある特徴は、作り手の年齢によって表現が異なり、バイラ世代の沼らせる女像とはズレている部分も。たとえば、連絡を取り合う際には、返信速度よりも中身が重要。“元気?”などの中身のないLINEには返信しない、もしくは要件を聞き返すくらいの厳しさを持っています。セックスも、デートの回数は問わず、求められるがままには体を許しません。体の関係を持った後でも、気が乗らないなら自宅デートは断る。すると相手は混乱し、のめり込むきっかけになります」
最大のポイントは、頼り上手であること。前回ご馳走してもらったから今回は私が、といった大人の配慮は案外、必要ないと松本先生は断言する。
「男性は女性に与えれば与えるほど、元を取ろうとして頑張るもの。逆に、対価を返してくれる女性は、頑張らなくても手に入る存在だと判断します。そのほかにも、食事は自分が行きたいレストランを指定し、日程は相手に合わせないなどの行為は、自分の価値を高めることにつながっています。一方で感謝の言葉や笑顔は大盤振る舞い! そうすれば傲慢な印象を抱かれず、むしろ彼は“自分のことが好きなんだな”と勘違いして、ますます努力することに」
どれほど努力を重ねても好きな人は沼らせられない!?
ここまで聞いて、ある疑問が浮かび上がる。好きな人に対しても、これほど強固な態度をとれるのだろうか?
「それこそが人間の弱点です。なぜなら恋愛では、先に恋に落ちたほうが“負け”だから。相手に好かれたいと感じた時点で、その人に対しては、これまで挙げたような沼らせ行動を取れなくなる人が多いはず。でも、たとえそうだとしても、私は沼らせる女であることは、恋愛において有利だと思います。冒頭でも言ったとおり、沼らせる女は、総合的な自立の結果としてなるもの。自立は成長につながり、周りの人間関係のレベルが上がる。また、成長して自信が増せば、自分を卑下しなくなります。その結果、素敵な男性と出会うチャンスも、恋が成就する確率もグンと上昇するはずですから!」
2.“沼らせる女”は幸せだと思いますか?
バイラ世代女芸人「3時のヒロイン」の二人と話してみた─っ!!
3時のヒロイン
2017年に結成。(右)かなで●1992年生まれ、東京都出身。(左)福田麻貴●1988年生まれ、大阪府出身。「トークィーンズ」(フジテレビ系)、「トゲトゲTV」(テレビ朝日系)などにレギュラー出演中。
男性の見る目が養われてモテる女性の特徴が変化?
──SNSで話題の“沼らせる女”の特徴について、どう思いますか?
かなで 条件だけ見ると、すごく素敵な女性ですよね。
福田 これが自然にできたら、そりゃモテるやろな!と(笑)。“沼らせること”を目指してなるものというより、素敵な大人の女性の中身をひもといた結果がこれ!って印象。
かなで 思い返してみたら、友達で彼氏が途絶えない子って、あまり恋愛に依存しないタイプが多いかも。
福田 確かに。やたらとモテる私の友達も、沼らせ女の特徴に当てはまる。本人は一切モテを意識してないのに!
かなで 昔は、ぶりっ子がモテてた印象もあるけど……。
福田 沼らせる女の特徴にも含まれてるけど、今って、自立してることを好きな女性のタイプとして上げる男性が少なくない。時代の変化に伴い、男性の見る目が養われたんやろな。
「モテるためじゃなく、ポジティブに生きるために目指すべき存在だと思う」──福田
──お二人は、男性を沼らせたいと思いますか?
かなで うわー。私は自分が沼っちゃうタイプなんで、憧れますけど……。
福田 かなでちゃんと知り合って6年たつけど、ずっと沼ってるもんな(笑)。
かなで 麻貴はモテるよね。それこそ沼らせる女寄りじゃない?
福田 いや、逆に自立しすぎてスキがないと思われるのか、沼らせるほど好かれることは少ないかも。
かなで で、どう? 幸せ?
福田 自分の好きな人に好かれへんと意味ないと思う。人を好きになる上でリスペクトって大事やと思うねんけど、沼られてる時点で相手への尊敬が少し下がってしまわへん?
かなで うーん……そうなの?
福田 沼るって、相手に執着してる状態のこと。人って、自分に執着してる相手をリスペクトできへんと思うの。
かなで お互いに尊敬し合える関係にならないってことか。
福田 だから誰かを沼らせることを目的に、沼らせる女になるのは違うと思う。ホンモノの自立した沼らせ女子は、そんなこと考えてないし、自分に依存する人を好きになることはなさそう。
「恋愛に依存せず、人生を謳歌してる。同性から見てもカッコイイ!」──かなで
どちらかが沼っていると幸せな関係は築けない!
──では、お二人の理想的な恋愛は?
かなで 愛情も愛情表現も均等な関係ですね。一方的に沼ってきた経験上、相手に愛されたい、嫌われないために、顔色をうかがい続けるのはしんどいので。
福田 そうそう。愛情量が均等じゃないと、幸せな恋愛関係は築けない。沼り・沼られの先には、幸せはないのかも。
かなで でも、誰かにすごく愛されると自信がつくよね。それは沼られたり、モテることの利点のひとつだと思うんだ。以前、ドラマで明るくてめちゃくちゃポジティブな子の役を演じたときに、周りから「モテるでしょ?」と聞かれる機会が確実に増えた!
福田 自信がある人って、男女問わず爆モテやもんな。そういう意味で、沼らせる女を目指すのはアリかもしれん。
──結論、“沼らせる女”は幸せなのでしょうか……?
かなで どうだろう……これまでは自分が好きな人に沼られたら最高!と感じてましたが、今日、そうでもないと思い始めました(笑)。
福田 条件を見ると本来、沼らせる女って、恋愛だけで幸せになろうとしてないやん? だからそもそもが幸せやと思う。
かなで そういう沼らせる女の特徴を兼ね備えた女性は、同性から見てもすごく素敵だしかっこいい。でも「男を沼らせたい」という理由で無理して演じるのは、幸せではなさそうだよね。
福田 恋愛のためではなく、素敵な女性像として目指してたら、結果誰かを沼らせてた!っていうのはアリちゃう?
かなで 仕事を頑張ったり、夢中になれる趣味を見つけたり。人生は間違いなく豊かになるよね。
福田 その結果、無意識に男性を沼らせるようになったら、人間として成長できた証拠。ポジティブに生きたいと考える大人の女性のための指標としては、すごく理想的な存在やと思う!
結論
真の沼らせる女は、恋愛で幸せになろうと思ってない! 人に頼らずに人生を楽しむ最高にかっこいい女性です♡
3.人気芸人たちはどんな人に沼ってる? 作品の中の“僕の沼った彼女”
ハライチ 岩井勇気さん:アニメ『冴えない彼女の育てかた』の加藤 恵
ハライチ
岩井勇気さん
1986年生まれ、埼玉県出身。ニコニコチャンネルの「ハライチ岩井勇気のアニ番」を放送中。
カテゴライズできないミステリアスさが魅力
“沼らせる女”と聞いて思いつく特徴は、自分に都合よく話しかけてくれて、ほどよくエロいこと。コミュニケーション能力が高すぎると「違う世界の人間なんだ」と思ってしまうし、エロすぎると「いろんな経験をしてきたんだろうな」と感じてしまう。そんな“都合のよさ”を求めていて、それをかなえてくれるのがアニメのヒロインだったりします。でも、この加藤恵というキャラクターはその真逆。
ヒロインっぽさがまるでなく、何を考えているかわからない言動をとるので、彼女はジャンル分け不可。僕らは他人をカテゴライズすることで安心する部分がありますが、それができない加藤恵は、ミステリアスで現実を本当に生きているようにすら思えるんです。
現実の女の子は、つきあったらどんな感じかを想像しきれない部分があって、加藤恵にもそれを感じるんですよね。つきあったからこそわかる部分や、つきあった人にしか見せない部分がたくさんあるように感じられて、楽しそうだなと期待が高まります。
『冴えない彼女の育てかた』
原作:丸戸史明
監督:亀井幹太
制作:A-1 Pictures
オタク高校生の安芸倫也が運命的な出会いをしたのは、クラスで目立たない普通の少女・加藤恵! 恵をヒロインにしたギャルゲーを制作しようと考える。
©2015 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA 富士見書房/冴えない製作委員会
マヂカルラブリー 野田クリスタルさん:マンガ『ラブひな』の青山素子
マヂカルラブリー
野田クリスタルさん
1986年生まれ、神奈川県出身。総監督を務めたゲームソフト「スーパー野田ゲーWORLD」が販売中。
硬派なのに実は隙だらけ。そのギャップがたまらない!
剣術の一門であり、しつけの厳しい家庭で育った青山素子は、きまじめで曲がったことが大嫌い。ずっと女子校出身のため男子に免疫がなく、主人公の浦島景太郎を激しく警戒し、景太郎の軟弱さとおっちょこちょいな性格を知ると、ますます毛嫌いします。まあ、最終的には彼に片思いするんですけどね。
僕にとっての青山素子の魅力は、まず、家の中でも常に袴姿という古風な見た目で、性格も硬派なのに、実はいろんな面で隙だらけというギャップ。彼女の本性がどんどん明らかになるにつれて、僕の心はますます引き込まれていきました。
特にグッときたのが、最初は大嫌いだった景太郎を大好きになるところ。ひどく軽蔑して罵倒していた相手に対して、赤面してしまうほど恋する彼女が、とにかく可愛くて、愛おしくて……。
青山素子のような女性と出会ったことも、恋に落ちたこともありませんが、きっと存在するはず、という妄想はやめません。
『ラブひな』
赤松 健著 講談社
新装版 全7巻 各968円
東京大学への合格を目指す主人公・浦島景太郎が女子寮「ひなた荘」の管理人となり、住人の美少女たちとドタバタを繰り広げるラブコメディ。
おいでやすこが こがけんさん:映画『(500)日のサマー』のサマー・フィン
おいでやすこが
こがけんさん
1979年生まれ、福岡県出身。映画と洋楽に精通し、『BRUTUS』のシネマコンシェルジュを務める。
駆け引きや噓、忖度は皆無。沼らせる女のカリスマです
サマーは、主人公のトムや僕のような冴えない男にとって高嶺の花。キュートな見た目にセンスが感じられる服装、屈託がない素直さ。そんな女性に対して僕らサブカル男子は「きっとはやりの音楽を聴いているんだろう。ザ・スミスのようなバンドは知らず空虚な人生を歩んでいるんだ」と思うことで、心のバランスを保っているんですね。だからこそ、トムのヘッドホンから漏れるザ・スミスの曲にサマーが気づいて「その曲、好き」と言われたとき、心を無惨にも乱され、僕はトムとともに一瞬でサマーに沼っていました。
サマーについて特筆すべきは、一切の駆け引きや噓、忖度のないところです。彼女の行動はすべて素直な欲望からきていて、俗的な下心は皆無。それほど自分が確立されており、人は好きだけれど執着するわけではないという、まさにカリスマ的存在ですね。正直、完璧すぎて、やめてくれよ!という気持ちです。手に入らないのは目に見えているのに、好きにならずにはいられないんですから。
『(500)日のサマー』
ディズニープラスのスターで配信中
地味な毎日を送るトムは、ある日、秘書として職場にやってきたサマーにひと目ぼれする。音楽の趣味を通じて交流が始まり、サマーへの恋を募らせていくが……。
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撮影/千葉タイチ イラスト/サレンダー橋本 構成・原文/中西彩乃 ※BAILA2023年6月号掲載