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【第95回アカデミー賞作品賞】ノミネート10作品を読み解くキーワードをプロが解説!

世界中の映画ファン、映画人たちが注目する年に一度の華やかな祭典、第95回アカデミー賞授賞式が3月12日(現地時間、日本時間は13日)に開催される。授賞式の会場は、ロサンゼルス・ハリウッドにあるドルビー・シアター。受賞結果はもちろんのこと、セレブたちのファンションチェックから受賞者のスピーチまで、楽しみどころはもりだくさん! 今回は、作品賞にノミネートされた10作品をキーワード別に解説する。

この記事を書いたのは…
今祥枝/Sachie Ima

映画・海外ドラマ 著述業/ライター・編集者

今祥枝/Sachie Ima


雑誌やウェブ媒体にて映画・海外ドラマに関する記事を執筆。『BAILA』本誌連載は、創刊時から担当。著作に『海外ドラマ10年史』(日経BP)など。

目次

  1. 【キーワード1:映画愛】『トップ・ガン』、『アバター』…コロナ禍で映画を救った劇場体験
  2. 【キーワード2:アジア旋風】異色の娯楽作『エヴエヴ』に熱い視線! アジア系俳優に注目が集まる
  3. 【キーワード3:女性をめぐる問題】『TAR/ター』が踏み込む、女性のキャリアと生き方の物語
  4. 【キーワード4:社会派】『エルヴィス』、『西部戦線異状なし』…現代の社会問題をエンターテインメントとして伝える
  5. 【第95回アカデミー賞作品賞のノミネート一覧】

【キーワード1:映画愛】『トップ・ガン』、『アバター』…コロナ禍で映画を救った劇場体験

映画トップガン マーヴェリックの写真。主演のトム・クルーズの写真

『トップガン マーヴェリック』U-NEXTにて好評配信中。©2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

どの作品にも関わった人々の熱い映画愛が込められているのは大前提。しかし、コロナ禍で大打撃を受けた映画業界、映画関係者にとって、劇場で映画を体験することの喜びや映画への思いを、今こそ再認識する気運は高まっている。

そんな中、『トップガン マーヴェリック』の主演でプロデューサーの一人でもあるトム・クルーズは、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて何度も公開を延期。コロナ禍で躍進した動画配信サービスという選択肢を退け、徹底して劇場公開にこだわったという背景にも注目が集まった。

ふたを開けてみれば、映画はクルーズの体を張ったアクションから臨場感のある映像のスペクタクルまで、「これぞ映画!」と言うべき至福の時間で映画ファンは感涙。さらに興行的にも大成功を収めて、映画業界に勇気と活気をもたらしてくれたクルーズの映画愛は、アカデミー賞でも得票につながる可能性は大。

2月に開催された恒例のアカデミー賞候補者たちが参加するランチ会では、クルーズと再会した『フェイブルマンズ』のスティーヴン・スピルバーグ監督の言葉が大きな話題になった。「君はハリウッドを救った。映画配給を救ったんだ。もっと言えば『トップガン マーヴェリック』は映画業界全体を救ったかもしれないよ」と言って、熱い抱擁を交わした二人の姿をとらえた動画は拡散され続けている。

同じくジェームズ・キャメロン監督の執念の続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』も、劇場で観なければ意味がないと思わせる3Dの映像体験に、またしても驚かされた人も多いのでは。物語の面ではキャメロンの時代にそぐわない価値観が目立つところもあるが、世界興行収入歴代ランキングでは1月の時点で4位まで上昇。2022年度に映画館に最も貢献したのは、クルーズとキャメロンといえるだろう。

題材として映画愛そのものをテーマにする監督も、昨今目立っている。その代表格が、本作で3度目のオスカー監督賞受賞となるかに注目が集まるスピルバーグの『フェイブルマンズ』。スピルバーグ自身の原体験をベースとして、映画に魅了された少年が映画監督になるまでの姿と家族の変遷をつづる。ノスタルジーと映画愛をかき立てる内容にスピルバーグの確かな演出力も相まって、投票する会員の多くが共感する内容であることは間違いないだろう。

【キーワード2:アジア旋風】異色の娯楽作『エヴエヴ』に熱い視線! アジア系俳優に注目が集まる

映画エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの写真。主演のミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァンほか

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』3月3日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 © 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

今年の台風の目は、なんといってもマルチバースとカンフーを掛け合わせた異色の娯楽作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』! ついにというかようやくというか、今年のオスカーほどアジア系俳優たちが存在感を見せている年はない。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の主演はマレーシア出身で香港、ハリウッドで活躍するミシェル・ヨー。その夫役で、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の子役として人気を得たキー・ホイ・クァンが、久々に俳優第一線に復帰。さらに中国にルーツを持つ若手の注目株ステファニー・シューらも候補入りして、キャスティングから内容も含めて、アジアンパワーが全開の痛快作。前哨戦でも強さを発揮しており、主要部門での受賞に注目が集まっている。

今年のオスカーでは、ほかにも死期の迫った肥満症の男性を描いた人間ドラマ『ザ・ホエール』で、主人公に寄り添う看護師リズを好演したタイ出身のホン・チャウがノミネートされている。また、現代の階層社会を痛烈に風刺した『逆転のトライアングル』で、印象に残る演技を見せたドリー・デ・レオンにも注目を。オスカーからは外れたが今期の賞レースで高く評価されている、フィリピン出身のベテラン俳優だ。

【キーワード3:女性をめぐる問題】『TAR/ター』が踏み込む、女性のキャリアと生き方の物語

映画TAR/ターの写真。主人公ターを演じるのはケイト・ブランシェット

『TAR/ター』5月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開 © 2022 FOCUS FEATURES LLC.

女性をめぐる問題を扱った作品は、#MeToo運動以降、どんどん進化を遂げている。

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ターを描いた『TAR/ター』は、複雑でセンシティブな問題に切り込む重厚な一作。これまでは得ることのできなかった地位や権力を手にした才能あふれる女性が、どう苦悩し、どのようにして道を踏み外してしまうのか。ケイト・ブランシェットの圧巻の演技は、今作でも神レベル。女性をめぐる社会の状況やキャリア、生き方についても、一歩踏み込んだ視点をもたらし、議論を呼ぶ意欲作だ。

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、近年は監督として活躍するサラ・ポーリーの監督作品。自給自足で生活するキリスト教一派のとある村を舞台に、たびたびレイプされていた女性たちが未来を懸けて話し合う姿を描く。女性をもののように扱う非道な犯罪に対し、信仰に従い沈黙するのか、この地に留まって闘うのか、それとも別の選択肢があるのか? 

特殊な環境にある女性の物語ではあるが、「今ある世界は、社会のルールは誰が作ったのか?」という普遍的かつ現代的な問いと、彼女たちが選ぶ道にはっとさせられる。

【キーワード4:社会派】『エルヴィス』、『西部戦線異状なし』…現代の社会問題をエンターテインメントとして伝える

映画西部戦線異状なしの写真。最前線に送られた兵士たち

Netflix映画『西部戦線異状なし』独占配信中

いつの時代にも、映画とは社会を映す鏡だ。今年もオスカーには現代の社会問題を、様々な形でエンターテインメントとして伝える秀作がそろっている。

ドイツ映画『西部戦線異状なし』は、第一世界大戦下、膠着状態に陥った西部戦線に送り込まれた学生たちを軸にした反戦映画。戦争の過酷な現実に打ちのめされ、上層部による理不尽な命令に振り回され、命を落とす若者たちの姿に、今も世界で起きている紛争や、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を重ねずにはいられない。

1923年、アイルランドの小さな孤島を舞台に、親友から絶縁を宣告された男性。こじれた二人の関係性を描いた『イニシェリン島の精霊』は、『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督による濃密な一作。コミュニケーションについて、あるいは背景として示唆されるアイルランドの内紛と、昨日までの隣人との諍いを重ねて考えることもできるだろう。近い関係性だからこそ、本来なら分かり合えるはずなのか、それとも愛憎は増すのか。

『エルヴィス』は、『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督が描くエルヴィス・プレスリーの生涯。圧倒的に娯楽度は高いが、いつの時代にも変わらない人気スター、セレブリティの苦悩と音楽業界の構造的な問題を読み取ることも。スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督の『逆転のトライアングル』は、豪華客船と無人島の両極端なシチュエーションの対比から、現代の階層社会を痛烈に風刺する。価値観を反転させることで、これまでとは異なる世界が見えてくるはず。

【第95回アカデミー賞作品賞のノミネート一覧】

『西部戦線異状なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『イニシェリン島の精霊』
『エルヴィス』
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『フェイブルマンズ』
『TAR/ター』
『トップガン マーヴェリック』
『逆転のトライアングル』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

イラスト/ユリコフ・カワヒロ

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