女優の長谷川泰子、天才詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄という、実在した3人のいびつな三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』(2月21日公開)で、小林役を演じた岡田将生さん。悩みながら臨んだという役への思い、過去に経験した「演じること」への恐怖、そして今、人間関係で大事にしていることや日々の癒し時間について語っていただきました。

<作品紹介>
大正時代の京都。20歳の女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、一緒に暮らしはじめる。やがて東京に越した2人の家には、詩人としての中也の才能を誰よりも認めている文芸評論家の小林秀雄(岡田将生)が訪れるように。中也と小林の仲むつまじい様子を目の当たりにした泰子は、彼らに置いてけぼりにされたような寂しさを感じる。やがて小林も泰子の魅力と女優としての才能に気づき、後戻りできない複雑でいびつな三角関係がはじまる。
【岡田将生さんINTERVIEW】『ゆきてかへらぬ』で演じた小林秀雄はどんな人?
「僕が演じた小林が、いちばんまともじゃないかもしれないです(笑)」

——岡田さんが演じられた文芸評論家の小林秀雄は、詩人の中原中也の才能を高く評価しながらも、のちに中也の恋人・長谷川泰子と恋に落ちる複雑なキャラクターです。3人の関係をどのように捉えましたか?
実は僕も皆さんの意見を聞いてみたいくらいで(笑)。
恋人として関係性ができあがっている中也と泰子の間に入っていく小林の行動が、自分にはあまり理解できなかったんです。
それによって、中也の何かが変わると考えて行動を起こしたのか、それとも映画の中で語られているように、泰子を通して中也を見続けたかったのか。もちろん本当に泰子にひと目ぼれをした可能性もありますしね。正解がないので、悩みながら撮影をしていました。考える時間が楽しくもありましたし、本当にやりがいのある役でした。

(c)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
——泰子が嫉妬心まで抱く、小林と中也の関係性については?
言葉では表せない関係ですよね。ライバルでもないし、親友でも家族でも、恋人でもない。でもお互いがいないと均衡が崩れてしまうくらい、ある意味一心同体。
中也がいい詩を書いたときに「お前は天才だ!」と言う小林は、同時に自分のことも誉めていたと思うんです。
中也がいなくなったときの小林を演じるシーンでは、生命エネルギーがなくなった感覚になりました。
──劇中では中也と泰子のエキセントリックさが際立ちますが、小林も常人にはわかり得ない複雑さがあったんですね。
実は小林がいちばんまともじゃなかった感じもありますね(笑)。ちょっとネジが外れている感覚。
激動の時代に生きた彼らを見て、観客の方に思いのまま感じ取ってもらえたらいいなと思います。

——近くにいたらあまり近づきたくない3人ではありますが、岡田さんは彼らから刺激を受けた部分はありますか?
何かに取り憑かれている人って、やっぱり目が離せなくなるんですよね。この映画の3人はお互いの存在や芸術に常に取り憑かれているし、そこが魅力的にも不快にも映ると思うんです。
こんなにも熱中できるものがあることに羨ましさを感じつつ、人生を棒に振ってでも向き合う姿が、強いけど怖いというか。僕自身も集中的に役や作品に向き合うと、仕事のことが頭から離れなくなることがあるので、気をつけないといけないなと思いました。
──岡田さん自身もそういう一面があるんですね?
実は『ドライブ・マイ・カー』という作品を撮影しているときに、すごく強い没入感を覚えた経験があるんです。忘れられない出来事として鮮明に覚えているくらい「あ、だめだ、怖い」と思った瞬間がありました。
──役から抜け出せない感覚?
というよりも、視野が狭くなって視点がぶれなくなってしまうというか。誰かと話していても内容が入ってこなくなってしまって。初めての体験だったので、監督にも「怖かった」と話した記憶があります。時間がたった今だからこうして言葉にすることができますが、当時の取材ではなかなか言えませんでした。
集中できているということなので、すごく幸福感もあったんです。ただ、どこか自分で自分をコントロールしたいエゴもあるので、今はあえてそういうモードに入らないようにしています。人間関係もそうですけど、あまりに夢中になってしまうと何かを犠牲にしてしまう気がするので。
そういった過去に自分が感じた危うさや怖さを、今回は中也と泰子にすごく感じることができたので、小林として支えたいと思ったし、優しく包んであげたいという気持ちで現場に臨んでいました。
中原中也を演じた木戸くんを好きになってしまった

(c)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
──中也を演じた木戸大聖さん、泰子を演じた広瀬すずさんとの共演はいかがでしたか?
彼らは役として本当にしょっちゅうケンカをしていたので、そのエネルギーが30代の僕からすると考えられなくて。2人からは撮影終わりに「親戚のおじさんがすごく優しそうに見ていた」と言われました(笑)。
若さゆえの愛の暴力というか、ケンカをしながら愛の交歓をしている2人を見て「とことんやりなさい」と思う自分もいましたし、小林さんの視点と重なって、その間に入れない嫉妬を感じてしまう自分もいた。撮影中はいろんな感情が渦巻きました。
──木戸さんとはプライベートでも仲良くなられたとか?
撮影中は木戸くんが日に日に中原中也にしか見えなくなっていったんです。これまで僕はあまり年下の方々との交流がなかったのですが、今回がっつり共演させていただいたことで、俳優としての姿勢や役への入り込み方、現場に振り落とされないよう必死にしがみつく姿を見て好きになってしまって。
撮影後に何度かごはんに行く機会があり、連絡も密にとるようになりました。彼のことは本当に尊敬していますし、素敵な俳優だと思っています。

──岡田さんは人間関係を築くうえで、どんなことを心がけていますか?
家族や友人、マネージャーに対しても嘘なくつきあっていきたいですし、誠実であることは常に心がけています。
──その考えは、年齢を重ねることで変化していきましたか?
10代のときなんてまったく意識していなかったと思います。それこそ「関係性が切れたら切れたでいいや」と思っていたところもありました。
一方で、一緒にいると自分らしくいられない人との関係からはあえて距離を取ることが、結果的に自分を守ることだと気づく瞬間があったり。
コロナ禍以降は特に、大切だと思う人とはより誠実に、丁寧につきあっていこうと考えるようになりました。
岡田さんのプライベートの過ごし方は?
日課のストレッチをすることで、心も身体も伸びていく

──お忙しい毎日の中で、メンタルの健康を維持するために実践していることはありますか?
ここ最近は寝る前に30〜40分くらいかけてストレッチをするようになりました。そうすると心も体も整ってよく眠れますし、朝起きた時の身体の軽さも全然違うんです。
テレビでニュースを見たり、台本を覚えたりしながら本当にゆっくりと、ちょっとずつ体を伸ばしています。
今ではそれがすごく大事な癒しの時間になっているし、メンタル的にもバランスが整った感じ。さらに寝具にこだわるようになったら、僕、ものすごくハイテンションになるかもしれないです(笑)。
──岡田さんはすごく繊細な方というイメージがありました。
基本的にその性格は変わらないんです(笑)。ただ、ストレッチはその日あった出来事を整理する時間にもなっていて。
「今日、なんであんな言葉をかけてしまったんだろう」と考え出すとキリがないですが、ストレッチをしているとそんな心も伸びていく感じ。「まあいっか、明日取り戻そう」と思えるんです。
──すごくいい習慣ですね。ストレッチ以外のリフレッシュ方法は?
以前は休日でもずっと台本を読んでいたので、もう「つらい!」ってなってしまって。去年は特に「仕事は仕事、休みは休み」と切り替えることを心がけていました。今は「今日はオフだから台本は読まない」と決めて手放して、一度仕事のことを忘れられるようになったと思います。
あとは美味しいごはんを食べること。お魚が好きなので、新鮮なお魚を買ってきてお醤油で食べたり、塩だけで食べたり、昆布締めやオリーブオイルで食べたり、いろんな食べ方を楽しんでいます。料理をすることが好きなんです。
早い時間からごはんを食べるときはお酒も一緒に楽しんだりします。仕事を忘れて頭を空っぽにできる時間がリフレッシュになっているし、メンタルの安定にもつながっていると思います。

『ゆきてかへらぬ』公開情報

監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生ほか
配給:キノフィルムズ
公開/2月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
【衣装】ジャケット¥55000・カーディガン¥31900・パンツ¥29700/NEEDLES ネックレス¥53350/END
【衣装問い合わせ先】
・NEPENTHES 03-3400-7227
・alpha PR 03-5413-3546
撮影/北浦敦子 ヘア&メイク/小林麗子 スタイリスト/大石裕介 取材・文/松山梢