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誰も「悪人」ではない恐ろしさ、貫井徳郎/乱反射

自分だって加害者になっているかもしれないという怖さ

誰も「悪人」ではない恐ろしさ、貫井徳郎/乱反射_1

乱反射 は、読後にじわじわと重さが残る。

物語の中心にあるのは、ある悲惨な事故。

しかし本作が特徴的なのは、“明確な悪人”が存在しないことだと思う。

登場人物たちは、極端に冷酷な人間ではない。 どこにでもいる、ごく普通の社会人や市民として描かれている。

少し確認を怠った人。 面倒ごとを先送りした人。 自分の立場を優先した人。 見て見ぬふりをした人。

その一つひとつは、単体で見れば「よくあること」にも見える。
心当たりもあるだろ。だからこそ、本作は恐ろしい。

『乱反射』では、そうした小さな怠慢や無関心、悪意のない自己都合が連鎖し、最終的に取り返しのつかない結果へと繋がっていく。

誰かひとりの強烈な悪意ではなく、 社会の中に散らばる“些細な無責任”の積み重ねによって悲劇が生まれる構造が描かれている。

読んでいて苦しくなるのは、 「自分には関係ない」と言い切れない点にある。
忙しいから後回しにする。 自分ひとりくらい大丈夫だと思う。 深く考えずに判断する。

そうした行動は、誰にでも覚えがあるものだと思う。

本作は、その“日常的な小さな雑さ”が、複数人の間で積み重なった時、どれほど大きな事故を引き起こしうるのかを静かに突きつけてくる。

また、本作には現代社会にも通じるリアリティがある。

問題が起きた時、私たちはつい「誰が悪いのか」という単純な構図を求めてしまう

しかし現実には、ひとりの悪人によって問題が起きるケースばかりではない。

少しずつ配慮が欠け、 少しずつ責任感が薄れ、 少しずつ想像力が不足した結果、 悲劇が生まれてしまうことがある。

『乱反射』は、その不快なほど現実的な構造を描いた作品だった。

ミステリーとしての面白さはもちろんある。 ただ、それ以上に印象に残ったのは、 「社会を構成している普通の人間」の怖さだった。

読後、自分の日常の振る舞いまで振り返りたくなる作品である。

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