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【社会学者が解説!】数字で見る日本女性の「出産」と「働き方」のこれから

出産後も働き続ける人が約7割と言われる今、育児と仕事の両立に悩む女性も増えている。
様々な調査データの結果から見えてくる日本の現状と変化の兆し、そして未来へのヒントとは。家族社会学者の永田夏来さんに教えていただきました。

教えていただいたのは
永田夏来さん

永田夏来さん


兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授。家族社会学の観点から、結婚・妊娠・出産と家族形成について調査研究を行う家族社会学者。著書に『生涯未婚時代』(イースト・プレス)など。

社会学者・永田夏来さんにきく「キャリアと出産」の現状とは?

画一的な「らしさ」にしばられることなく選択を

「多くの女性にとって、子どもを持つことが長期的なキャリアに影響を及ぼすことは周知の事実なのに、なぜか個人の問題にされてしまっていますよね。本来、そこで見直すべきは個人ではなく、社会の仕組みであるはずです

けれど、日本は前例主義の事なかれ主義。『失敗して責任を取りたくない』という横並びの発想に加えて近年のハイパー・メリトクラシー(超業績主義)により、仕組みを見直すのではなく、結婚・出産による労働状況の変化を“リスク”と捉えて排除する方向に偏った出産自粛社会になりつつあります。

一方で、産休や育休が当然の権利としてタブー視されなくなってきたことは大きな変化であり進歩です。制度を賢く使いこなして暮らしを充実させようと考える若い世代が増えていることも、明るい変化の兆しだと思います

新卒一括採用をしている限り、出産とキャリアアップのタイミングが重なるのは必然。私は一括採用をやめて働き方や生き方の多様性を育むことが、問題解決の糸口になると考えています。

そして、結婚や出産をする・しないにかかわらず、画一的な『らしさ』や『こうあるべき』というイメージから離れることも重要です。そこからほかの選択肢を検討する余裕が生まれ、選択や仕事のしやすさにもつながるはずですから」

数字で見る「出産」と「働き方」

【日本の合計特殊出生率】 1.20

社会全体の余裕のなさも低下要因のひとつ

合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数。1974年以降は低下傾向にあり、2023年の調査では過去最低の1.20(概数)を記録。東京都は0.99と1を下回り、地域ごとの差も大きい。

晩婚や未婚を選ぶ人が増えたことや、経済的な問題なども加わり、生まれてくる子どもの数が減っているのが日本の現状。これは、人生の選択が自由になった反面、子どもを持つことをつらいと感じてしまうほど社会に余裕がないことの表れでもあります」(永田さん・以下同)

出典/厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)」

世界ワーストは韓国
0.72

出典/韓国統計庁「人口動向調査」(2023年)

【第一子出産後の女性の復職率】 69.5%

1980年代後半と比べると約3倍にアップ!

出産を経て復職する人の割合は年々増加傾向にあり、1980年代後半と比べて約3倍に。2000年代までは約40%の人が出産を機に退職していたことを考えると、大きな変化といえる。

「そもそも海外では出産で仕事を辞めることはほぼないので、『復職』という概念がありません。『出産後も働き続けたい』という方が多い現状を踏まえると、この数字は上がっていく可能性が高いですし、妊娠・出産を経ても変わらずに仕事を続けるという選択がもっと増えていくといいですよね」

出典/国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2021年)

【男性の育休希望率】 29.1% > 【男性の育休取得率】 約14%

希望者も利用者も3割以下。まずは意識改革からスタートを

「利用したことはないが、利用したかった(利用したい)」29.1%に、「現在利用している」「以前利用していた」を含めると希望率は42.7%
。しかし、実際に利用した人は13.6%と大きなギャップが。また、33.5%が「利用したことはなく、利用希望もなし」、11.5%は「制度がなかった」と回答。さらに「わからない」が12.3%……。

「自分が子をもつのに、希望率は8〜9割もいかないのが不思議! 親になるという自覚をもう少し持って、まず『育休を取りたい』と思える意識改革を求めたいですよね」

出典/日本能率協会総合研究所「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(労働者調査)(令和4年度厚生労働省委託事業)
※小学校4年生未満の子の育児を行いながら就労し、約10年以内に妊娠・出産・育児のために離職した経験のない労働者を対象としたアンケート調査

【育休取得期間の男女差】

育休取得期間の男女差

大きな差の背景にあるのは賃金格差の問題

育児休業の取得期間は、女性の約95%が6カ月以上で、うち34%が1年〜1年半未満。対する男性は、最も多かったのが5日〜2週間未満(26.5%)で、5日未満が25%。次いで多かったのが1カ月で24.5%だった。

「これは男女の賃金格差も影響していると思います。今の日本では、どうしても男性のほうが収入が大きいため、男性が育休を取ることで世帯収入が減るリスクを避ける傾向もあると思います。女性の立場をどんどん弱くし、悩みを増やす賃金格差は、すべての問題につながる要因です」

出典/厚生労働省「雇用均等基本調査」

【1日の生活時間における、無償労働時間】 女性224分:男性41分

男性側の労働時間の長さが女性側の負担増に直結

無償労働とは、家事育児など対価を得られない労働。「日本はこれでも状況が改善したほうだと思います。結果だけ見ると男女差に驚きますが、実は男性のほうが長時間労働や通勤で家にいる時間自体が短いという現状があるのも事実。すごく好意的にみれば、男の人は家事をしたくてもできない状況なのかもしれない」という永田さんの指摘どおり、日本の男性の有償労働時間の平均は世界で最も長く(452分)、その分、女性の無償労働時間は男性の5.5倍に。

出典/内閣府「男女共同参画白書」(令和2年版)

【不妊治療を受けた夫婦の数】 1組/4.4組

不妊治療を受けた夫婦の数 1組/4.4組

自分のリズムに合わせて働ける社会がベスト

「妊娠は人工物ではなく生物学的な話ですから、仕事の都合にあわせてタイミングを取るのは難しいもの。たとえば、時短やフレックス、リモートなどの働き方が当たり前の社会になれば、会社ではなく自分のリズムで仕事ができるので両立しやすくなるのでは。不妊治療は頼りになる生殖補助医療ですが、心身への負担が大きいものでもあるので、仕事やキャリアをあきらめなくてすむ柔軟な社会になれば、若いときから自然妊娠を試す時間が持てるケースも増えるのではないかなと感じます

出典/厚生労働省「令和5年度 不妊治療を受けやすい休暇制度環境整備事業」

「不妊治療と仕事を両立できない」と答えた女性の数
4人に1人以上

【“子どもを望まない”若年女性の割合】 年収300万円以上の女性 27.9%以上

専業主夫など新しい家族のあり方につながるかも

若年女性全体で見ると51.1%だが、年収300万円以上にしぼると「子どもを望まない」人の割合は27.9%まで低下。

「かつては子どもと仕事のどちらかしか選べなかった時代や、婚活なり合コンなりで収入のある男性と結婚することが最適解とされた時代がありました。自分である程度の収入を得ることで、仕事と子どもの両方を手に入れたいと考える人が増えるのは、とてもいい傾向だと思います。さらに賃金格差による女性の収入の低さが払拭できれば、今までとは違う家族のあり方も生まれるはず」

出典/ロート製薬「妊活白書2023」

取材・原文/国分美由紀 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載

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