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【市川紗椰の週末アートのトビラ】アーティゾン美術館「ブランクーシ 本質を象る」をご案内

市川紗椰がご案内 週末アートのトビラ

市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第23回はアーティゾン美術館で開催中の「ブランクーシ 本質を象る」を訪問しました。

今月の展覧会は…「ブランクーシ 本質を象る」

“見るよろこびに没入して、時間を忘れてしまう、美しい彫刻たち”

市川紗椰さん “横浜みなとみらいが、現代アートで盛り上がる、3年に一度のお祭りへ!”

つるんと磨き上げられたブロンズ、カービングのあとが感じられる白い石膏、やわらかな卵形や流線形、躍動感のあるモチーフ……様々なマチエールとフォルムが目に心地よく、眺めていると心身がリラックスしてゆくようで、思わず「気持ちいい」とため息。20世紀を代表する彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシの軌跡をたどる、国内の美術館では初の個展へ。立体彫刻を“生”で見るよろこびを堪能しました。

実はこの展覧会、展示空間の中にキャプションがほとんどありません。作品の横に小さく番号がふられていて、館内で配布される目録と照らし合わせ、タイトル・制作年代・解説を知るという仕組み。これは作品に集中して対峙できるようにという担当学芸員の方の意図なのだそう。確かに、彫刻は平面作品と違って、360度どこから見ても発見があります。近づいてわかる質感、角度を変えた途端に現れる意外な形など、立体物が持っている情報量の多さって、すごい。だから、同じ空間の中で没入感と快感を得られるのかもしれません。

「重さはどれくらいなんだろう?」「これは顔なの?」「何でできているのかな?」。謎がたくさん浮かび上がってきたところで、種明かしになる目録を読むと「へえ、そうだったんだ!」と新しい驚きが。ブランクーシが影響を与えあった同時代のアーティストの作品もあり、その交流の様子も目録や図録で解説されています。ちなみに「ロダンの彫刻に似ているな、ブランクーシは彼に弟子入りしていた時期があったよね」と思っていたら、実際にロダンの作品だった!という早とちりもあったのでご注意(笑)。「感じる」と「知る」で、2度楽しい展覧会なので、じっくり時間をかけてすみずみまで鑑賞することをおすすめします。

近づいて、遠ざかって、ぐるりと回って…視点によって表情の変わる立体に、魅了される

市川紗椰 近づいて、遠ざかって、ぐるりと回って…視点によって表情の変わる立体に、魅了される

パリのモンパルナスにあったブランクーシのアトリエには天窓があり、自然光が差し込んでいたそう。大切に手もとに置いていたという作品を並べ、アトリエの雰囲気を再現した展示室

市川紗椰 作業服も飼い犬も白かったというブランクーシのポートレート、白いワンコはなんとミュージアムショップでグッズ化されてます(笑)

作業服も飼い犬も白かったというブランクーシのポートレート、白いワンコはなんとミュージアムショップでグッズ化されてます(笑)

『接吻』(部分) 1907〜10年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

『接吻』(部分)1907〜10年 石橋財団アーティゾン美術館蔵
石の彫り跡を石膏に映し取った代表作『接吻』。質感に見入ってしまう

『眠れるミューズ II』(部分) 1923年(2010年鋳造)個人蔵

『眠れるミューズ II』(部分)1923年(2010年鋳造)個人蔵
ブロンズを磨き上げた黄金色が神秘的な卵形の頭部像。髪の流れに東洋の仏像も連想される

『新生I 』 1920年(2003年鋳造)ブランクーシ・エステート

『新生I』1920年(2003年鋳造)ブランクーシ・エステート
ブランクーシが深く関心を寄せたテーマ「生命の起源」。種や卵のようにも見える曲線のフォルムが魅惑的

市川紗椰 『雄鶏』 1924年(1972年鋳造)豊田市美術館蔵

『雄鶏』1924年(1972年鋳造)豊田市美術館蔵
抽象的なのに、雄鶏の声まで聞こえてきそうな躍動感。ブランクーシは、自身のアトリエでも、ブルーの板を作品の背景にしていたそう

手前の彫刻は『うぶごえ』、奥の絵画はその4年前に制作された『スタンディング・ボーイ』。子どもをモチーフに、体などの要素が削ぎ落とされてゆく過程が感じ取れる

手前の彫刻は『うぶごえ』、奥の絵画はその4年前に制作された『スタンディング・ボーイ』。子どもをモチーフに、体などの要素が削ぎ落とされてゆく過程が感じ取れる

トビラの奥で聞いてみた

展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…アーティゾン美術館学芸員 島本英明さん

市川 オリンピックを間近に控えたパリでもブランクーシ展が開催中だそうですね。人気も知名度も高いのに、日本の美術館での個展は初と聞いて、意外でした。

島本 20世紀の彫刻家として最も重要な作家の一人であるブランクーシの個展は、2020年に当館を開館したときからの念願でした。コロナ禍もあり、また、デリケートな彫刻は輸送も困難だったのですが、ようやく実現しました。

市川 写真がたくさん展示されていたのも、20世紀という時代を感じさせますね。ポートレートだけでなく、彼自身が彫刻作品を撮影しているのもユニーク。

島本 はい、彼は、自分の手仕事で彫刻を生み出すだけでなく、カメラの目も借りてそれらを広めました。そうした職人性と現代性が共存しているのも面白い。また、ブランクーシは自分の彫刻をどう見ていたのかという視点もうかがえます。

市川 確かに、色々な角度からずっと見ていられるなあ、と思いました。

島本 そうですね、彫刻のような立体の芸術は、見ても尽きないような感じがします。たとえば絵画を見ているとき、何らかの意味を見いだして、画面の中に“落とし所”をおのずと探ってしまうような気がしませんか。それに対して、立体を見ていると、簡単に納得できるような終わりがないように思うのです。

市川 なるほど、確かに。アートって、わかったような気になって簡単に消費してしまうともったいないな、と常々思っていました。どこまでも没入できる芸術の奥深さに触れたような気がして、納得です。

訪れたのは…アーティゾン美術館

アーティゾン美術館

【展覧会DATA】
ブランクーシ 本質を象る
〜7/7
アーティゾン美術館 6階展示室
東京都中央区京橋1の7の2
10〜18時(金曜〜20時)入館は閉館の30分前まで
休場日/月曜
観覧料/日時指定予約制 ウェブ予約チケット¥1800(同時開催の「石橋財団コレクション選」/「特集コーナー展示 清水多嘉示」に入場可能)ほか
会期中、会場内の写真撮影は一部作品を除き可能
公式サイト:https://www.artizon.museum

市川紗椰

ファッションモデル

市川紗椰


SAYA ICHIKAWA●2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。

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撮影/今城 純 ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2024年7月号掲載

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