市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第22回は横浜美術館で開催中の「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」を訪問しました。
今月の展覧会は…「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」
“横浜みなとみらいが、現代アートで盛り上がる、3年に一度のお祭りへ!”
3年に一度のお楽しみ、国際的な現代アートの祭典が開催中の横浜にやってきました。日本各地で様々なジャンルのアートイベントが開催されていますが、この横浜トリエンナーレは、2001年スタートという歴史ある国際展。横浜のみなとみらい地区を中心に3つの主要会場があり、観光スポットや街歩きの中でも、アートに出合い親しむチャンスが色々。
メイン会場となる横浜美術館も3年ぶりにリニューアルオープン。天井から日光を取り込めるように改修されたグランドギャラリーは、スケールが大きく、気持ちがいい。そのダイナミックな空間に、天井からつられ、床にそびえる立体作品や、仮設キャンプや漂着物のようなインスタレーション、アニメーションなど、いきなり10作品もの展示が。映像も音もあふれていて、一緒に訪れたスタッフは圧倒されてちょっとオドオドしていました(笑)。私はそれを横目に「意外に、アトラクションのように面白がってもいいんじゃないかな?」。肩の力を抜いて見てみると、不気味で怖い作品やシリアスな作品にも、どこかユーモラスな部分がある。テーマもわかりやすく「現代美術って、今こんな感じなんだ」と入門するのにぴったりです。深掘りしたくなったら、展示にまつわる10の参考文献をタブレットからじっくり読める『日々を生きるための手引集』というコーナーも。
近づいて、のぞいてみて、深く考え込んでもいいし「変なの!」と笑ってもいい。疲れたら中華街や野毛でひと休みするのもあり。都心からのアクセスのよさに加えて、ハードルの高そうな「現代アート」にもアクセスしやすいイベントです。「わざわざ行っても楽しむ自信がない……」なんて尻込みしないで!わざわざ行くからこそ面白い、アートのお祭りを満喫しましょう。
横浜美術館のダイナミックな展示空間も、わざわざ行って味わう価値あり!
丹下健三設計の横浜美術館、開放的なグランドギャラリーは、天井の開閉式ルーバーが修理されて外光が入るように。ホール中央には、ピッパ・ガーナーの『ヒトの原型』などの立体作品を中心に、円卓の上にタブレットが並んだ『日々を生きるための手引集』のコーナーも
サンドラ・ムジンガ『出土した葉』は、布を編み込んだ巨大な作品。近づいて中をくぐってゆくと、SF映画の風景のよう
你哥影視社『宿舎』。台湾で働くベトナムからの移民女性たちが、待遇改善を訴え、宿舎に立てこもった出来事をもとにした展示。彼女たちが使っていた宿舎のベッドに腰掛け、ストライキを追体験することができる
ヨアル・ナンゴ『ものに宿る魂の収穫/Ávnnastit』は、先住民の伝統と、日本で拾ったものを組み合わせ、私たちの生き方を考えさせる
志賀理江子『緊急図書館』。作家が創作の発想源や思考の養分とした書籍が並び、手にとって読むことができる
右はオズギュル・カーによるアニメーション作品『倒れた木』。どこかユーモラスな雰囲気のある骸骨たち。左はラファエラ・クリスピアーノのネオン作品
20世紀を生きたアーティストの作品も。勅使河原蒼風が描いた富士山の絵は「アイデンティティ」への連想もさせる
ファッションデザイナーでもあるスーザン・チャンチオロのコラージュ作品
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…横浜美術館主任学芸員 片多祐子さん
市川 「野草:いま、ここで生きてる」というテーマにふさわしく、世界中で活動している性別も国籍も世代も多種多様なアーティストが集っていますね。
片多 全体では93組が参加していて、オープニングには40人を超える作家が来てくださいました。普段は会うはずのない人々が、ひと所に集まって同じ時間を共有する、これこそ現代美術の芸術祭ならではの時間だと感じました。
市川 ひとつの空間で、ひとつの目標に向かっているけれど、アーティストによって打ち出したいテーマもメッセージも全然違っていて。それがトリエンナーレらしいし、現代アート、現代社会について考える入り口にもなりそうです。
片多 社会で起きているたくさんの問題に向き合っていることで、現代の生きづらさを感じる展示もあります。ですが、訪れた皆さんには、作家たちの生きるエネルギーを見いだしていただきたい。企画側としてはそう思っています。
市川 確かに、全部受け止めようと思うと大変。今回は、文献を読めるコーナーがあったり、近づいて座ったりもできる展示があったので、作品と観る人のコミュニケーションが一方向にならず、息抜きができた気がします。
片多 色々な人が色々な角度から楽しめる回路があるといいな、と考え工夫したので、そう感じていただけると嬉しいです。この展覧会をきっかけに、自分たちの日々の暮らしを見つめ直してみてほしい、そんな気持ちも込めています。
訪れたのは…横浜美術館
【展覧会DATA】
第8回横浜トリエンナーレ
野草:いま、ここで生きてる
〜6/9
横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3の4の1
10〜18時(6/6〜9は〜20時。入場は閉場の30分前まで)
休場日/5/2、6/6を除く毎週木曜日
観覧料/当日一般¥1400ほか
観覧料/一般¥2300(横浜美術館/旧第一銀行横浜支店/BankART KAIKOの3会場に入場可能。別日程も可)ほか
上記3会場のほか、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路で開催
公式サイト:https://www.yokohamatriennale.jp/
ファッションモデル
市川紗椰
SAYA ICHIKAWA●2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ西洋美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
ワンピース¥52800(サヤカ デイヴィス)・リング¥39600(アサミフジカワ)/ショールームセッション ビスチェ¥42900/ミュラー オブ ヨシオクボ ピアス¥117700/エスケーパーズオンライン(ソフィー ブハイ) バッグ¥29700(パロローサ)・靴¥8910(カランシエル)/シップス インフォメーションセンター 靴下/スタイリスト私物
撮影/今城 純 ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2024年6月号掲載