市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第20回は竹久夢二美術館で開催中の「夢二の旅路 画家の夢・旅人のまなざし」を訪問しました。
今月の展覧会は…「夢二の旅路 画家の夢・旅人のまなざし」
“旅情とモダンを楽しみに、下町にたたずむ個人美術館へ、着物でおでかけ”
竹久夢二は、大正時代を中心に活躍した画家であり詩人。今年は生誕140周年という節目にあたります。ほっそりとして憂いある独特の美人画で有名ですが、私には、楽譜の表紙を多く手がけた、イラストレーター兼デザイナーという印象も。
今回訪れたのは、生涯の多くを旅に過ごし、自身の哲学の根底に“コスモポリタン”という認識があったという夢二の画業と人生を追う展覧会。海外への憧れと想像力が詰まった装画、日本各地で描いた風景画、観光地からオーダーされた絵葉書の図案、最晩年に訪れた欧米での絵など、220点の充実ぶり。夢二の青春時代や女性遍歴の解説も、旅を切り口にしたドラマのよう。当時の土地柄や風俗を眺めるのも、夢二の目を借りて旅をしているようで楽しいです。乗り物やご当地名物のディテールや、「品川ってこんなに海に近かったのね!」なんて発見も。夢二の観察眼はとても細やかで、特に女性を描いた絵には、服装の柄や小物のセンスに驚かされます。グッズが欲しくなるな、と思ったら、当時既に、便箋や半襟を売るオリジナルショップを経営していました(笑)。今で言えば、デジタルノマドで、ライフスタイルショップをディレクションして、恋愛もSNSコンテンツにしそうなタイプかもしれません。同時代である世紀末のヨーロッパ美術をいち早く取り入れる才気も光っていて、最新のファッションやデザインの視点から見てこそ面白いように思いました。
一人の画家を、年に4回開催される展覧会で多角的に深掘りできるというのも、個人美術館ならでは。下町情緒の残る東京・根津のロケーションは、着物を着てお出かけするのにぴったりです。お散歩して季節を感じ、帰り道は洋食屋さんに寄って……なんて、風情ある休日を楽しめるのもいいですね。
大正時代のマルチアーティストと捉えると新鮮! 生誕140周年を迎える、竹久夢二ワールド
展示「夢二がめぐる日本各地」では、夢二が訪れた県ごとに描いた風景画や、現地の協賛者から請われて描いた作品の数々が。夢二の最初の妻、岸たまきをモデルにした美人画も
竹久夢二『夢二画集 旅の巻』カバー 1910年
明治時代後期に人気を博した夢二の画集。旅をテーマにしたシリーズのカバー。世界各国の衣装をまとった人物のイメージは、舶来の雑誌や画集をもとに夢二自身が想像をふくらませて描いたもの。色使いもきれい!
『水竹居』 1933年
夢二の最晩年、念願のヨーロッパ旅行で描いた美人画。ドイツ滞在中に、現地の女性をモデルに描いたのだそう!
『絵封筒』 1910〜1920年代
可愛い!と歓声をあげたデザインの木版画は、絵封筒として売られていたもの。ミュージアムショップで夢二デザインの一筆箋が買えます
夢二の絵をイメージした、真空色の久留米絣の着物で
『滞欧スケッチ』 1932~1933年
ヨーロッパで描いたスケッチ。夢二の画風のオリジナリティや旅を経験しての変化も見どころ
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…竹久夢二美術館 学芸員 徳重美佳さん
市川 夢二の描く美人画は、和とも洋ともとれる唯一無二の個性がありますね。
徳重 はい。浮世絵で描かれた美人画を進化させ、夢二による新しい価値観を加 えた女性像は、明治後期から大正期に大ヒットし、日本人の審美眼に大きな影響を与えたといわれています。
市川 どうやって今までと全然違う女性像の描き方に行き着いたのでしょう?
徳重 当時は、外国から新しい文化が急速に入ってきました。そこに、夢二の理想とする女性のイメージが融合して生まれたのではないかと思います。
市川 同時代のアール・ヌーヴォーの絵画からの影響もすごく感じますね。
徳重 はい、夢二は若い頃から日本にいながらにして、輸入雑誌から情報を仕入れていました。そこにウィリアム・モリスやビアズリー、ミュシャらの作家が紹介されていたのでしょう。彼らと似た印象の絵や、オディロン・ルドンなど世紀末に活躍した画家からの引用も、作品の中に残されています。
市川 スタイルの変化が、世界の美術史と重なっているのがわかって面白い!
徳重 そうなんです。彼が旅する人生を選んだ理由には、新しい刺激を常に心に与えたいという欲求もあったと思います。また、旅人として一歩引いた目で世間を見ているところも感じさせます。今回、「旅」をキーワードにして、今でも時代の少し先を行くような、斬新さのある夢二の魅力を感じていただけたら嬉しいです。
訪れたのは…竹久夢二美術館
【展覧会DATA】
夢二の旅路
画家の夢・旅人のまなざし
〜3/31
竹久夢二美術館
東京都文京区弥生2の4の2
10〜17時(入館は16時30分まで)
休館日/月曜
観覧料/当日一般¥1000ほか
ファッションモデル
市川紗椰
SAYA ICHIKAWA●1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
着物¥70400・帯¥108900・帯揚¥14300・帯〆¥14300・帯留¥16500・長襦袢(参考商品)/ザ・ヤード バッグ¥143000/ピエール アルディ 東京(ピエール アルディ) ピアス¥41800/カジツ(テッド・ミューリング) リング¥39600/イセタンサローネ東京(カラットアー)
撮影/今城 純 ヘア&メイク/中村未幸 スタイリスト/辻村真理 着付け/枝比呂子 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2024年4月号掲載