市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第19回は麻布台ヒルズギャラリーで開催中の「麻布台ヒルズギャラリー開館記念 オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」を訪問しました。
今月の展覧会は…「麻布台ヒルズギャラリー開館記念 オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」
“最新スポットに開館したギャラリーで今をときめくアートに触れる”
木のテーブルにはアームが3本生えていて、製図ペンと紙を置く小さな台があり、手作りの機械のよう。「作品に触っていいの?」ー大丈夫、触って動かしてOK。写真の私は、今からこれを使って「作品をつくるところ」なんです。オラファー・エリアソンの『終わりなき研究』は、振り子の力で動くドローイングマシン。これを手で動かし、二つの螺旋で幾何学図形を描き出して作品になるというわけ。ちなみに専用チケットを購入すれば、来場者の方々も実際に体験して、作品を持ち帰ることができます。当代随一の現代アーティストと共作した気分!
東京の最新スポット・麻布台ヒルズに完成したギャラリー。こけら落としを飾るオラファー・エリアソンの展覧会で、そんなインタラクティブな楽しみを味わってきました。この『終わりなき研究』の他、三層構造のガラスの中に光がまたたく『蛍の生物圏(マグマの流星)』、氷河の氷や、砂漠の太陽光などを利用して描いたドローイング、幾何学の専門知から生まれた「空間充填型特殊多面体」を用いたオブジェなど、自然環境と科学が通底にある彼の世界観をぎゅっと凝縮。作品自体はコンパクトな分、テーマがわかりやすく伝わります。私が感じたのは、作者と作品がもつ、日常生活と地続きの親しみやすさ。たとえば、光のオブジェはインテリアに、多面体はブロックに、ドローイングマシンも玩具に……今は最新鋭のアートだけれど、未来の子どもたちが当たり前に楽しむものになっているのでは?なんて想像がふくらみます。自然環境がテーマの作品も「どう思う?」と、対等な目線で問いかけてくれる感じ。現代アートって難解かも?という心配は無用。話題のスポットを観光気分で満喫しつつ、体験や直感を通じて「ちょっと先の私たち」に出会えるように思えます。
難しくも堅苦しくもなく、直感的に、楽しんでこの先のウェルネスを体験できるアート
『終わりなき研究』2005年
DIYの雰囲気たっぷりのドローイングマシン。振り子のついたアームを手で動かすと、様々な波形が描ける。予想もできない違う形ができるので、何度も挑戦したくなる!
『蛍の生物圏 (マグマの流星)』2023年
三層構造のガラスでできた球体オブジェ。内部の光が複雑な色を織りなしてゆっくりと回転。自然界のカオスを表しながら、緻密な計算も感じさせる最新作
『私のエコーの痕跡』2017年
グリーンランドの氷河から持ち帰った氷が溶けてゆくにじみで描いた水彩画
『瞬間の家』2010年
フラッシュライトと水しぶきの中を歩くインスタレーション。水を勢いよく放出して暴れるホースから発想したと聞いて、思わず「あるある!」
『想像力を擁する砂漠』からのドローイング。ドーハの砂漠で、レンズを通した日光の熱、風の動きに連動する筆などで制作。「土地の肖像画」というオラファーの表現が素敵
『終わりなき研究』で完成した作品。オリジナルスタンプを迷いなくドローイングのど真ん中に押したら「普通はサイドに……オラファーもびっくりするのでは」とツッコミが(笑)
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは…森美術館アソシエイト・キュレーター 德山拓一さん
市川 『相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』……長くて詩的なタイトルですね。
德山 はい、これは麻布台ヒルズの開業に合わせて制作されたパブリックアートのタイトルでもあります。この作品をより深く理解してもらうため、オラファーが制作を通じて参照した過去の作品や最新作を展示しました。
市川 パブリックアートに用いられた11面体のブロックは、空気中の亜鉛を再生した素材でできた特殊な多面体とか。よくわからないけれどすごいですね(笑)。
德山 はい(笑)。もともと彼は自然界の現象を独自の感性で捉え、それを解釈するのに、物理、光学、幾何学などの科学的要素を用いるアーティスト。けれども観客には直感的に理解してほしいという、通底する特徴があります。
市川 確かに、作品自体を見ると、普遍的な面白さや美しさが伝わってきます。
德山 詳しい作品解説のパネルを準備したのですが「会場内に掲出してくれるな」と言われてしまいました。環境をテーマにした作品などから、まじめで堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、本人は自由で、少年のように新しいことを常にやっている人。人間味があふれていて、親近感がもてるんです。
市川 ドローイングマシンなどを触れて体験することで、親しみがわきますね。
德山 併設のカフェでは、ベルリンの彼のスタジオの「社食」のメニューも再現しています。麻布台ヒルズを散策しながら、オラファーの世界を感じてください。
訪れたのは…麻布台ヒルズギャラリー
麻布台ヒルズ森JPタワーのオフィスエントランスに恒久展示されるパブリックアート
『相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』2023年
展示風景:麻布台ヒルズ森JPタワー オフィスロビー
撮影:木奥 恵三
【展覧会DATA】
麻布台ヒルズギャラリー開館記念
オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期
〜3/31
麻布台ヒルズギャラリー
東京都港区虎ノ門5の8の1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階
10〜19時(火曜〜17時、金・土曜・祝前日〜20時 入館は閉館の30分前まで)
休館日/1/1
観覧料/作品体験付(一般)¥2800ほか
ファッションモデル
市川紗椰
SAYA ICHIKAWA●1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
ジャケット¥74800・シャツ¥118800・パンツ¥69300・バッグ¥119900・リング(左手)¥49500/イザ(デストレー) ピアス¥52800/H3O ファッションビュロー(グーニャプロジェクト) リング(右手)¥58300/エトワライト ブーツ¥55000/パープレッド
撮影/今城 純 ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2024年2・3月合併号掲載