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【第96回アカデミー賞ノミネート作品】映画『バービー』が描く、女性にとって「理想的な世界」ってどんな世界?【今祥枝の考える映画vol.19】

BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆している今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月1回ご紹介します。第19回は、マーゴット・ロビーが“完璧なバービードール”を演じる『バービー』です。

夢のバービーランドから人間の世界へ!

バービー バービー役のマーゴット・ロビーとバービーたちの写真

バービーランドの住人たちの名前は、バービーかケン(例外あり)。雨は降らず、毎日晴天の夏で、夜は毎日ダンス&パーティー! 完璧な毎日が続くはずだったが、ある日バービー(マーゴット・ロビー)の体に異変が……。

読者の皆さま、こんにちは。

最新のエンターテインメント作品をご紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。第19回は、アメリカで社会現象とも言える大ヒットを記録している映画『バービー』です。


1959年3月に、アメリカの玩具メーカー、マテル社から発売されたファッションドール、バービー。日本ではアメリカほどの人気は出なかったものの、ピンク色の箱に入った、17歳でファッションモデルという設定のキュートなバービーのイメージは、アイコンとして広く知られているところでしょう。

そのバービーの映画ができると聞いた時は、どんな映画になるのか想像もつきませんでした。それでも、監督は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で、名作『若草物語』をフェミニズムの視点をより強く打ち出し、現代的な解釈でよみがえらせたグレタ・ガーウィグ。そして共同脚本は、『マリッジ・ストーリー』の監督・脚本家で、ガーウィグの私生活のパートナーでもあるノア・バームバック。

才気あふれる2人のコラボレーションとなれば、一筋縄では行かないはず! 映画ファンならそう期待すると思うのですが、決して裏切られることはありません。


物語は、すべてが完璧で、夢のような毎日が続く、ピンク色を基調としたバービーランドから始まります。まずこのビジュアルからして心が躍るのですが、ステレオタイプのバービー(マーゴット・ロビー)を中心に、さまざまな属性の“バービーたち”と、基本はそのボーイフレンドという位置付けのケン(ライアン・ゴズリング)ほか“ケンたち”は、パーティーにドライブにサーフィンなど、毎日がキラキラと輝いています。

ところが、ある日突然、バービーの体にセルライトが発症するほか、人間のような加齢の症状や変化が生じます。はぐれ者のバービー(ケイト・マッキノン)の身に起きたことから、原因は人間の世界にあると考えたバービーは、勝手にくっついてきたケンと共に人間の世界へ——。

バービー ピンクに彩られたバービーランドの写真

ピンクづくしのバービーランドのビジュアルに、心も躍る! ディテールがきっちりと作り込まれているので、1回観ただけでは楽しみきれないほど。監督のグレタ・ガーウィグは、『フランシス・ハ』の主演・共同脚本、『レディ・バード』の監督・脚本などでも高く評価されている。

バービー バービーを取り合うケンたちの写真

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のマーゴット・ロビー(中央)が演じるバービーを取り合う、『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング(その右)と『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のシム・リウが演じるケンたち。ケンたちは、常にバービーに気に入られようと頑張っている。

人間の世界は男性中心の価値観に支配されていた⁉︎

バービー 人間の世界に行ったバービーの写真

人間の世界に行ったバービーは、若者たちから白い目で見られる羽目に……。演じるマーゴット・ロビーは、彼女がいなければ本作は成立しなかったというほどの完璧なバービードールぶり! ロビーは本作ではプロデューサーも兼ねている。

自分はみんなから愛されていると信じて疑わないバービーですが、人間の世界では事情が違います。

10代の女子たちと遭遇した際には、非現実的な美を体現するバービーに対して「フェミニスト運動を50年前に戻したんだよ、ファシスト!」と非難されてショックを受けます。

現実問題として、バービードールには理想とされる女性の美しさ、美のステレオタイプを助長してきたといった批判もあります。一般的に最もよく知られるタイプのバービードールは、白い肌に髪はブロンドであるほか、その身体的プロポーションは非現実的で、特に子供たちに対してよくない影響を与える可能性があるからです。

一方で、そうした批判を踏まえてマテル社は、人種や体型、義足にダウン症といった多様性のあるバービードールや、幅広い職業に就くバービードールを世に送り出してきました。本作でも、時代を先取りした職業も含めて、宇宙飛行士、弁護士、医師、物理学者、大統領からマーメイドや妊婦まで、実に多種多様なバービードールが豪華スターによって再現されています。

また、バービーは男性陣で固められたマテル社の会議などを目撃し、人間の社会は男性中心であることを知ります。

このマテル社の最上階の会議室のシーンは特に印象的でした。マテル社の社長(ウィル・フェレル)やエリート男性社員たちが人間界に迷い込んだバービーの処遇について議論するのですが、円卓を囲んでいるのは男性だけ。主に女子の玩具であるバービードールに対して決定権を持つのが男性のみという図式は、あらゆる業界において珍しくもない光景ですよね。

同じくマテル社の社員で、より人間らしいバービードールを作ろうと奮闘するグロリア(アメリカ・フェレーラ)のような人材は、才能もやる気もあっても、出世できないのです。どこの世界も同じ問題を抱えているのだなと、思わずため息が出てしまいます。

楽しい毎日や完璧な美しさだけがすべてじゃない

バービー 男らしさに目覚めたケンたちの写真

バービーたち=女性が中心だったバービーランドでは、バービーに認められることが存在意義であるケンたち。人間社会に影響を受けたケンは……。

一方で、この映画でケンたちの描写にも興味深いものがあります。

人形の設定として、バービーが認めてくれることに存在意義があると考えてきたケン。男性を中心とする人間の社会のあり方を目撃し、バービーとは反対に家父長制という概念を発見して大興奮。このあたりの展開は面白おかしく描かれていますが、ケンが体現する葛藤や悩みも、リアリティがあるように感じられます。

そもそも、バービーランドにおける女性の付属物であるかのようなケンたちの立ち位置は、現実問題として女性に重ねることもできるのではないでしょうか。

あるいは、近年は価値観の急速な進化に伴い、社会も大きく変わる中で、戸惑いや言いたいことを言えないと感じている男性もいるかもしれません。人間の世界に影響を受けて、「本物の男性はどう行動すべきなのか」と考え始めるケンたちの心情に、どこかしらわかるなあと思う人もいるのではないでしょうか。

バービーとケン、バービーランドと人間の世界の対比や逆転の発想は、風刺が効いていてメッセージ性にも優れています。単純に考えれば、バービーランドは、ある意味で女性にとっては理想的な世界と言えるでしょう。しかし、楽しいだけの毎日や完璧な美しさだけがすべてではないことを、バービーは人間の世界から学びます。


自分がどのような自分になりたいか。そして、どんな人生を生きたいのかを決めるのは自分自身である。本作は映像を眺めているだけでも楽しめる娯楽作ですが、バービーが人間の世界での経験を経て「どのような自分になりたいと願うのか」を描くことは、すべての女性にその決定権があることを力強く伝えるものでもあるでしょう。

バービー バービーランドでパーティー三昧のバービーたちの写真

見ているだけでも、うっとりするような衣装の数々に、バービードールになりきったキャストたちのビジュアルに気分は上がる! ロビー、ゴズリングを中心に、デュア・リパ、イッサ・レイ、ケイト・マッキノン、キングズリー・ベン=アディル、エメラルド・フェネル、マイケル・セラほかバービーランドの多彩で個性的なキャストも楽しい。

『バービー』2023年8月11日(金・祝)全国ロードショー

監督・脚本:グレタ・ガーウィグ

脚本:ノア・バームバック

出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ウィル・フェレルほか

© 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『バービー』の公式サイトはこちら

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