テレビやラジオ、YouTube、配信作品まで、プラットフォームの垣根を越えて活躍するヒットメーカーである佐久間宣行さん。今回は新刊『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』のヒットを記念し、バイラでインタビューしました。
佐久間さんは奇才と言われる一方で、ファッション雑誌SPURでの連載「佐久間Pの甘口人生相談『え、それ俺に聞く!?』」をはじめ、古巣のテレ東社員はもちろん、芸人やタレントなど、あらゆる人から相談を受けまくる“歩くお悩み相談室”の一面を持っています。
キャリアアップ、結婚や出産など、ライフイベントが多く、それによって進む道も変わりがちなバイラ世代。だからこそ悩むし、ヘコむし、ときにはつまずくことも。心に棲みつくモヤモヤやノイズを、佐久間さんに聞いてもらいましょう!
理想と現実、昭和上司と令和後輩……30代特有の”板挟み問題”を考える
板挟みは、世代というよりも年齢的なものが原因なんです
——佐久間さんは、バイラ世代をどんなふうに見ていますか?
キャリアにおいても、人間関係のことでも、僕が最も悩み相談を受ける世代ですね。もう少し若いとまだまだ夢を見がちだけど、バイラ世代はそれを一旦手放したり、あきらめる人も……。残った手持ちのカードでどう楽しく、ストレスなく、豊かに生きていくか?を考え、理想と現実の折り合いをつける頃なのかな、と。さらに世代の問題なのか立場的なものなのか、とにかく気を遣って生きている人が多い。ひそかに神経をすり減らしているケースもありますね。
——……鋭いご指摘。どうしてだと思われますか?
デジタルシフトを含めた時代の変化が激しいゆえに、組織やチームのあり方やルールも短い周期でコロコロ変わる。それによって価値観までも翻弄されている気がします。加えて、上司や先輩は仕事熱心なロスジェネ世代に対し、後輩や部下は(バイラ世代に比べて)利己主義的で自己アピールがうまいZ世代。個性が強い世代に挟まれているのも要因かもしれませんね。
とは言っても、バイラ世代が気の毒だと言いたいわけではなく、ある程度の年次を重ねて板挟みになると、不思議とその世代の長所と短所が色濃く出がち。これは誰もが直面することで、世代というよりも年齢的なものが原因なんです。ちなみに僕ら40代後半の世代がバイラ世代だった頃の話をすると、大学受験も就職試験も過去最高倍率の頃。若い頃から競争にさらされ続け、組織に入ってからもなお出世競争を強いられる。会社の犬になったモーレツ社員がいる一方で、その環境に疲れ、ポスト争いから降りる人もたくさんいました。
若手への指導であっても、相手の欠点ばかりをフォーカスしないこと
——それぞれの世代といい関係を築く、佐久間さんなりの方法はあるのですか?
うーん、僕はバイラ世代の頃、ストレスに感じていた接待的な飲み会や業界ノリのつきあいを止めたんですよ。自分が呼吸しやすい環境や人間関係を築くために、そういう方々とは一定の距離を保つようになって。媚びることやコネがなくなった分「憧れられるような仕事をする」という、一点突破するしかない状況を作りました。ある意味レアキャラを貫いたので、あまり参考にはなりませんね(笑)。
ただ、寄せられる悩みを聞いて思うのは、「みんな職場の人間関係を重く考えすぎ」だということ。世代が違う、立場も違う人だからこそ、わかり合えないのは当然のこと。ときどき、どの世代ともフラットに話せて距離を詰められるコミュ力お化けがいますが、それはもう、特殊能力に近い。よい意味で“仕事仲間なんだ”と割り切り、認め合えるところを見つけるくらいでいいんじゃないかと。
もしも、自分より若い世代から質問されたり、アドバイスを求められたときは、感情を込めず、端的かつロジカルに伝えること。つい「わかるよ」と同調し、「僕も同じようなことがあって……」とか「私の頃は……」などと思い出話をかぶせがちですが、ほとんどが「ちょっと違うのにな」だし、悪気はなくても圧力になってしまうケースも。こういった些細なところからコミュニケーションのズレが生じるので、気をつけたいですよね。
——責任ある仕事を任される世代ゆえ、若手の育成に頭を悩ませる人が多いです。やんわり注意しても直る気配がないとか、逆に距離をとられるようになったという声も聞きますが。
そもそも論になりますが、僕は、褒める・評価するまでは、後輩や部下を注意することは極力しないようにしています。なぜなら自分を認めてくれているか? どこを評価してくれているか?を理解できていないと、注意されたほうも素直に聞く耳を持てないと思うので。ある程度の信頼関係を築けたうえで、ケアレスミスならチェックシートを確認するくらいの感覚で、その都度伝える。一方、根本的な考え方から注意が必要な場合は、文書で。これは自分への戒めでもあって、スクショや転送される可能性があるからこそ、文書に起こして添削することで伝え方にも歯止めがかかるからです。
覚えていて欲しいのは、指導する側も、相手の欠点ばかりをフォーカスしないこと。僕の経験上、アラ探しが多い上司や先輩って、スタッフを生かすのがうまくないんです。ある程度の年齢になると、一緒に働く人が本気を出してくれるかどうかはとても重要。仕事だから基準さえ満たせば十分だけど、プラスアルファの仕事をしてもらえるような存在になることも大切だと思うんですよね。
苦手な上司に耐えるのが慢性的になってしまわないよう、注意
——一方で、上司と意見や性格が合わなくて悩んでいる人も……。
そこも避けては通れませんよね。仕事ができない、評価してくれない、手柄を横取りするなど、上司のタイプもストレスの種類もさまざまだと思います。たとえばですが、お腹が痛くて病院に行ったとします。そのとき、医者にはどんな痛みか? 何を食べたか? 体温は?などの症状を具体的に説明し、それを一つの手がかりに原因を探りますよね。組織での人間関係もそれに近く、対症療法では改善しません。
まずは俯瞰的かつフラットな視点で相手を観察して、どんな時に考えが合わないのか、仕事の進め方で間違っていると思った点や、あるいは上司が調子に乗ったり、怒ったりする時などがあれば、メモで残しておきます。数カ月後にそれを読み直したとき、意外と大したことじゃなかったと思えるかもしれないし、逆に目に見えて上司に問題があるな、という場合も。後者ならば論理的に理由をまとめ、さらにその上の上司に相談をしてみる。その頃にはわがままだと思われない理論武装ができていると思います。
——エネルギーが要りますね。そこまでせずとも上司への不平不満を共有することで、チームがまとまるケースも。それに対し、佐久間さんはどう思いますか?
それによってメンバーのメンタルが守られるのであれば、仕方がないと思います。かつては僕も、パワハラ上司をネタにしたり、“コント・嫌な上司”として脳内で設定し、面白おかしくすることで乗り越えていましたし。ただ、これは一時的な措置にはなるけれど、“上司が苦手”という気持ちでつながっているので、仕事への士気や目標が高いわけじゃない。最終的に到達できる結果は、低くはなりますよね。
もちろん、人事に申告するほどの事案でないとか、トップに相談するほどではない気持ちもわかります。が、耐えるのが慢性的になってしまうと、組織から“我慢強いチーム”とか“問題ある人をうまく乗りこなせる人”というイメージがつき、面倒くさい上司とセットにさせられがち(会社員時代、僕がそうでした)。これってDVの彼氏とつきあっているのと似ていて、なかなか離れられないんですよね……。まぁ実際に申し入れはしなくても、「理不尽なことしたら、声をあげられそうだ」と思わせるとか、そういう雰囲気を出しておくことは大切だと思いますよ。
他人や理想の自分と今の自分を比べがち。自分らしい生き方はどう見つける?
大切なのは、実際に行動し、自分の意思で決めること
——キャリアアップしたいし、結婚や出産もしたい。すべて手に入れる握力が欲しいけれど、現実はどれも中途半端で、そんな自分に落ち込むという声も。あきらめる力も必要ですか?
無理をしろとは言わないですが、20代・30代のどこかで「MAXがんばる人生プラン」を立てて実践する時期も必要だとは思います。すべて手に入れることが正解でも幸せでもなくて、実際に行動したからこそ”自分らしい生き方”が見えてくるので。その際、たとえ何かを手放したり、あきらめたとしても、“自分の意思で決めた”と思えることが大事。でないと、誰かのせいにしたり、言い訳や後悔がつきまとう人生になってしまうんです。
なぜここまで言うかというと、もっと年齢を重ねたとき、認められない・報われないことに対するストレスが大きくなると、被害者意識が強くなる傾向がある。すると勝手に加害者を作り出し、そのうち食事会で愚痴を言い続けたり、SNSの「X」とかで匿名で他人を攻撃したり。そういう痛いおばさん・おじさんになるよりは、やっぱりすこやかに生きたいじゃないですか(笑)。
自分という乗り物がどれくらいのエンジンやスペックを搭載しているか、さらに乗りこなし方を知っておかないと、途中で事故やガス欠を起こすし、必要であれば行き先をカーナビに入力しておくこと。でないと(人生が)ぼんやりドライブになってしまうんですよね。ちょっと余談にはなりますが、僕も、5年後くらいまでのキャリアプランは紙に書いています。忘れちゃうので(笑)。(成功を手に入れたいというよりは)数年後も自分らしく楽しく過ごせる仕事って何だろうって考えながら。
人はそれぞれだから、仕事のやり方を非難したり文句を言うのはお門違い
——もがきながら自分らしい生き方を見つけるのですね。その一方で、可愛げや媚びをアピールすることでステップアップしようとする人も。
他人のそういうやり方が気になる人は、可愛げをアピールしたり、媚びることに苦手意識があるのかもしれませんね。ちなみに僕は、どんなプレースタイルも応援するスタンス。なぜなら人はそれぞれだから、誰かの仕事への姿勢ややり方を非難したり、文句を言うのはお門違いだと思っているからです。ちなみに(会社の後輩だった)森香澄さんはテレ東のアナウンサー時代にTikTokを始め、独自のキャラと路線を形成していました。当時は非難する声もちらほらあったけれど、僕は「面白いからいいじゃん」「テレ東の名前を拡散させてね」と周囲に伝えていました。
ふるまいが職場のマイナス因子になっていたり、一人勝ちしたい態度をとっているなら話は別ですが、ちゃんと功績を残しているのなら、“そういう人”として認め、気にしないほうがいいのではないでしょうか。人は30歳くらいいまでに培った仕事のプレースタイルは変わらないから、それを無理やり矯正しようとしても逆効果。だったら目につくところを長所に変換し、褒めて伸ばしたほうがずっといい。“猛獣使いのライセンス”を取得しておくと、この先の仕事人生がよりスムーズにあると思います。
そうは言っても、(僕に対して)媚びてくる人にはめちゃくちゃ冷たいです(苦笑)。職業柄、芸人さんやグラビアアイドルの方から「また仕事したいです」みたいなDMなどはたくさんいただきますが、「その魔法は僕には効きませんよ」とそれとなく伝えます。「仕事場に私情を持ち込まない」と決めているから、媚びていただいても次の仕事につながることは決してない。タイムロスになってしまうので、「ご自身を磨く時間に使ってください」と思っています。
——自分らしい幸せを模索する一方、SNSでは友人や知人の華やかな投稿を目にして、感情が揺らぐ人も多いですよね。
SNSは、“自分が主役のストーリーを、ときには演出を加えて世の中に送り出している”だけ。世間に向けて書いているので、当人にとっての真理ではない。「こう見られたい」「こんなふうに思われたい」という表現のひとつでもあるんです。「元気そうで何より」くらいの軽い気持ちで受け流すようにするのがいいんじゃないでしょうか。
今疎遠な友達も縁さえ切らなければ、いずれは「ほんわかサークル」に
——では、結婚した同級生、出産した同期など、比較的身近な人に対して負の感情を抱いたときはどうしたら? まじめな人ほどそんな自分に罪悪感を抱くなど、負のループに陥りそう……。
皆さんよりも年齢を重ねているからこそ伝えたいのが、「物理的や精神的に疎遠になる時期はあっても、40代・50代になったら暇になるので、また集まれます」ということ。その頃になると、独身だろうが子どもがいようが、仕事で成功しようが失敗しようが、そういう垣根がなくなり、“お互い健康で会えるだけで幸せ”というフェーズに入る。若い頃、どんな尖った人達でも、ほんわかサークルになります。もちろん、しんどいときには自分を優先、会わない期間があってもいい。ただし、たまに連絡をとるなどの細かいメンテナンスはしつつ、縁だけは決して切らないこと。これに関してはぜひ、長い目で見てください。
部下と上司、会社員とフリーランス、独身と既婚ーー。すべてを経験し、酸いも甘いも噛み分けたからこそ刺さる、佐久間さんの言葉。
関わった人に幸せをもたらす仕事術や衝突しない人間関係の築き方まで、ネガティブな沼からの守り方など。『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』では、ごきげんに生きるために佐久間さんが大事にしてきた心得や培ったメソッドを披露。メンタルをすり減らさずに、自分らしい仕事や生き方をするための“佐久間式ライフハック”は、揺らぎがちなバイラ世代のメンタルを整え、ときには背中を押してくれる一冊になるはずです。
『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』
佐久間宣行著
¥1540/集英社刊
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日本のエンタメ界を牽引する著者・佐久間宣行自身も実は、元来のネガティブ思考、自分の弱さに悩み、不安を抱えながら生きてきた。だからこそ磨きあげられた、自分をすり減らさずに生きるための「自分自身をごきげんにする技術」を、余すことなく公開。
撮影/角田 航(TRIVAL) 取材・文/広沢幸乃