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23歳差の恋はアリかナシか⁉ 倫理観を揺さぶる『メイ・ディセンバー ゆれる真実』【今祥枝の考える映画vol.28】

BAILA創刊以来、本誌で映画コラムを執筆している今祥枝(いま・さちえ)さん。ハリウッドの大作からミニシアター系まで、劇場公開・配信を問わず、“気づき”につながる作品を月1回ご紹介します。第28回は、ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアの演技派スター共演でおくる問題作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』です。

映画メイディセンバーゆれる真実 年の差夫婦を演じるジュリアン・ムーアとチャールズ・メルトンの写真

歳の差夫婦、グレイシーとジョーを演じるジュリアン・ムーアとチャールズ・メルトン。『エデンより彼方に』などトッド・ヘインズ監督作品の常連であるムーアは、『アリスのままで』で5度目のアカデミー賞ノミネートにして主演女優賞を受賞。メルトンは人気TVシリーズ『リバーデイル』で注目を集め、本作の演技で高い評価を得た若手の有望株だ。

36歳と13歳で出会った女性と少年が、幸せな家庭を築いた後の物語

読者の皆さま、こんにちは。

最新のエンターテインメント作品を紹介しつつ、そこから読み取れる女性に関する問題意識や社会問題に焦点を当て、ゆるりと語っていくこの連載。第28回は、36歳の女性と13歳の少年の不倫騒動のその後を描いた問題作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』です。

本作のタイトルである「メイ・ディセンバー」とは、歳の差のあるカップルを表現する慣用句。実際に1996年のアメリカで、当時教師で夫と子供のいる36歳のメアリー・ケイ・ルトーノーは、当時12歳だった少年ヴィリ・フアラアウと不倫し、メアリーが懲役7年の実刑判決を受けるという通称“メイ・ディセンバー事件”が起きました。

さらにメアリーは服役中にヴィリとの子供を出産。1999年には夫と正式に離婚し、出所後の2005年にヴィリと結婚しました。2018年にヴィリが申請したことで離婚が成立するまで、メディアに露出することも多かったこの大スキャンダルを題材にしたのが本作です。

とはいえ、映画は事件そのものを描くものではありません。事件から長い年月を経て、子供たちと共に平穏な日々を送るメアリーとヴィリをモデルとしたグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)の夫婦のもとに、事件の映画化が決まり、主演女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が役作りのリサーチのために一家を訪れるという設定です。

出会いの場所もペットショップに変更されているなど事件を題材にしたフィクションとして、映画は関係者のその後の深層心理にフォーカスしています。二人の結婚生活は、本当に幸せなのか。そもそも二人の関係は、真実の愛によって結ばれたものなのでしょうか?

13歳との性行為は犯罪ですが、その後の展開に関して明確な答えのある問いを描いた作品ではありません。また、人によってモラルの基準は異なるので解釈も変わると思いますが、トッド・ヘインズ監督は鋭い考察に皮肉とダークなユーモア、そしてエリザベスという第三者の視点を交えることで、このスキャンダルの核心をじわじわとあぶり出して行きます。

映画メイディセンバーゆれる真実 ハリウッドスターを演じるナタリー・ポートマンの写真

新鋭サミー・バーチの脚本に魅了され、映画化の実現に向けて尽力したナタリー・ポートマン。『ブラック・スワン』でアカデミー賞主演女優賞を受賞する実力派俳優であり、本作では人気女優エリザベスを自ら演じてプロデューサーも務めている。

「昔から無邪気なの」とほほえむグレイシーの真意とは……

映画メイディセンバーゆれる真実 グレイシーを演じるジュリアン・ムーアの写真

周囲の人々に愛されながら平穏な日々を送るグレイシーと家族たち。しかし、グレイシーの言動にはどこか違和感を覚えるものがある。服装や衣装、メイクから言動まで、パステル調のふんわりとしたイメージと不気味さを体現するムーアの役作りが圧巻!

映画は、2匹のアイリッシュセッターのいる海辺の素敵な家に暮らす一家の団欒を映し出すところから始まります。

グレイシーとジョーの長女は既に大学生で、双子の兄妹が高校の卒業式を間近に控えています。やわらかい光が差し込むパステルカラー調の美しい世界。そこに流れるメロドラマチックな音楽に乗せて登場するグレイシーは、どこか夢見心地なようすもありつつ、その浮世離れした存在が不気味に感じられて、心をざわつかせます。

終始一貫して、このざわざわとした感覚は続くばかりか、エリザベスという第三者が加わり、グレイシーと同化しようと彼女が試みることで事態はより一層、日常風景の中に奇妙な違和感を増幅させていきます。

焦点は3つあります。いまだに自宅に嫌がらせをされるほどのスキャンダルを巻き起こしながら、グレイシーは罪悪感などとは無縁のように見えます。本人は自らを「昔から無邪気(ナイーヴ)なの」と表現しますが、前夫と前夫との子供ら家族とレストランで顔を合わせるといった、ぎょっとするような場面でもしばしばこの無邪気さを発揮します。

ふんわりとした優しい空気をまとっているけれど、子供たちやジョー、あるいはエリザベスに対する態度の中には、ふとした瞬間に威圧的だったり無神経な言動も。ヘインズ監督の信頼の厚いムーアは、どこまで行っても「何を考えているのか?」と迷宮に誘い込まれるようなグレイシーを体現して、ほれぼれするほどミステリアスで人を困惑させるユニークな演技を披露しています。

青春時代を謳歌する子供たちの姿に、若き父親ジョーは何を思うのか

映画メイディセンバーゆれる真実 13歳で出会った36歳のグレイシーと家庭を築いたジョーの写真

どこか倒錯した感もあるエリザベスとグレイシーの関係性や浮世離れした存在感の一方で、地に足がついた印象を与えるジョー。難しい役どころを演じ切ったメルトンが体現するジョーに感情移入する人も少なくないのでは。

映画の前半はグレイシーに目が行きますが、物語は徐々にジョーへとフォーカスを移していきます。

かつて幼くして「恋に落ちた」グレイシーを大切に思い、今では家族思いの良き父、良き夫であるジョー。しかし、彼が息子と初めてのマリファナを吸うシーン、あるいは双子の兄妹が卒業式を迎えるシーンで見せた複雑な表情には、胸をしめつけられます。自分には経験できなかった青春時代を生きる子供たちの姿に、彼は何を思ったのでしょうか。

ジョーがグレイシーと関係を持ったとき、13歳でした。グレイシーは「当時の自分よりジョーの方が経験が豊富だった。私は夫しか知らず、守られて育った」と自分の無垢さを強調します。しかし、13歳の少年がいくら家庭の事情などもあり大人びていたからと言って、その決断に全責任を負わせることができるものなのでしょうか?

ジョーは、自分が常に被害者のように扱われてきたことに対して苛立ちを隠しません。グレイシーとの愛は本物なのだと。一方で、ジョーは個体の減少が危惧されている蝶の幼虫を熱心に育てています。幼虫がサナギになり、成虫となって羽を広げて羽ばたく姿を嬉しそうに眺めるジョー。これは、あまりにもわかりやすいメタファーと言えますが、ジョーの複雑な心中を察することができるというものでしょう。

そして、役作りのためと称して、グレイシーの内面にぐいぐい踏み込んでいくエリザベスの合わせ鏡のような描写にも心をざわつかせるものがあります。彼女はグレイシーの本質をつかみ、ジョーとの関係、結びつきを理解できたのでしょうか。これについては、私自身はエリザベスはあまり大した女優ではなさそうだという印象を抱いたのですが、この辺はヘインズ監督による、この手のスキャンダルを題材にしがちなハリウッドへの身内批判を含んでいるとも読めるかもしれません。

劇中、ロミオとジュリエットの名前も登場しますが、36歳の女性と13歳の少年の恋が犯罪ではあっても、偽物だと他者が決めつける権利もないのでしょう。一方で、このような問題における未成年の「同意」については、近年もさまざまな議論がなされています。私は当時も今も、グレイシーとジョーが対等の関係にあるとは到底思えない点に最も引っかかりを感じます。そこには歪な不自然さが感じられて、自分の中の倫理観を揺さぶられます。皆さんは、この物語をどのように感じるでしょうか。

映画メイディセンバーゆれる真実 グレイシーとハリウッドスター、エリザベスの写真

グレイシーの隠された本心に迫ろうとするけれど、つかみどころのない彼女の迷宮で方向性を見失うかのようなエリザベス。果たして、映画の役作りは成功するのか? ポートマンとムーアのオスカー俳優同士の共演も大きな見どころだ。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』7月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

監督:トッド・ヘインズ

原案・脚本:サミー・バーチ

出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトンほか

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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『メイ・ディセンバー ゆれる真実』の公式サイトはこちら

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